第315話 わははっ!八大魔将が一人、死光帝カルレインであるぞ!


 ヨコヅナが四股を踏むのに合わせて、後ろの参加している11人が一斉に四股を踏む。

 稽古を見ているラビス、オリア、クレア、デルファの会話。


「何か凄いわね。10人以上が四股を踏む光景って」

「ヨコヅナの弟子って多いのね」 

「一時期は30人ぐらい居ましたよ」

「指導料を取れば、結構な儲けになるんじゃないかい?」

「私もそう進言しましたが、ヨコヅナ様は稽古を仕事にするのは嫌なようです」

「ヨコならそう言うでしょうね」

「…それにしてもアルは全然足上がってないわね、フラフラしてるし見ててこっちが恥ずかしくなるわ」

「初めての人は皆あんな感じですよ」

「他の連中も、社長と同じことしてるとは言えないねェ」

「ヨコは10年以上毎日稽古してるんだから、比べる事自体間違ってるわよ」



 すり足の鍛錬に移る。


「……ヨコが抱える岩、滅茶苦茶大きくなってるわね」

「他の連中は岩を持たないのかい?」

「ヨコヅナ様が禁止しているのです。すり足の型が出来ていないのに負荷を大きくすると怪我するからと」

「……ヨコヅナはどうしてあんなに鍛えてるの?料理人にも社長にも格闘の強さは必要ないでしょ。冒険者になりたかったわけでもないらしいし」

「それは強いお父さんに憧れて、自分もそうなりたいって思ってるからよ。スモウはヨコにとって父親の形見みたいなものなの」

「その親父さんは今の社長より強いのかい?」

「どうだろ…?ヨコはタメエモンさんに勝ったことないんじゃないかしら。今のヨコより大きかったし」

「ヨコヅナ様は未だ父親の足元にも及ばないと言ってましたよ」

「…ヨコヅナの父親は人族じゃないの?」

「いや、社長は血液検査で純血の人族と診断結果が出てるから、父親も人族で間違いないはずだよ」

「…人族でありながら人外レベルの強さを持つ者はいますから、ヨコヅナ様の師匠ならそうであっても不思議ではないですね」

「社長も人外の強さと言える気がするけどね」

「でも、ヨコヅナって武の才がある様には見えないのよね」

「そうね、小さい時のヨコは寧ろ運動が苦手だったイメージあるわよ。本気でスモウの稽古をやるようになってから少しずつ変わっていった感じかな」

「ヨコヅナ様は叩けば伸びる努力家タイプなのだと思います」

「だから鞭で叩いてるのかい?」

「事務仕事に関しては中々伸びてくれないんですよ」

「なら社長なんてやらせなきゃいいじゃない、本人はやりたくないんでしょ」

「…ヨコがそんな風なこと言っていたの?」

「いいえ、ヨコヅナからは会社こと一言も聞いてないわ。この間事務所で会った時にそう思っただけ、畑仕事してる時や料理作ってる時とは表情が違ったから」

「中々目聡いねェ」

「社長をしているのはヨコヅナ様が望んだ結果ですよ」

「本当の望みは平穏にのんびり暮らたい、ただそれだけなんだけどね…、ヨコは優しいから」

「ふ~ん……一人でも稼ぐ力持ってるのに、面倒くさい生き方してるのねヨコヅナ。……あれ、アルのやつ何やってるの、一人離れて……あ」

「…アル君横になったわね」

「どうやらギブアップみたいだねェ」

「初参加者はペースがつかめず、ほとんどが途中でああなります」

「それにしても早すぎでしょ!強くなりたいんじゃないの!ちょっと蹴っ飛ばしてくるわ」

「ふふ、クレアちゃんは厳しいわね」

「クレアさんにとっては一緒に冒険する相棒ですからね」

「背中を任せる相手としては、心もとないだろうね」

「でもアル君、裏闘でCとは言え二連勝って普通に考えたら凄いんじゃない?」

「普通ではそうですね。でもクレアさんはヨコヅナ様をライバル視しているようですから」

「社長と比べられるなんて、あのボウヤにとっては可哀想な話だね」

「多大な劣等感を抱える事にはなるでしょうね」

「でも、ヨコにはアル君みたいな普通で歳の近い友達が居て欲しいのよね」

「冒険者にとって普通という表現は侮辱に等しいですよ」



 張り手の鍛錬に変わる。


「あの特大の木打ち柱は社長専用かい?」

「ええ、並みの大きさでは折れてしまうので。あれは既に二代目ですけど」

「え!?あんなの大きい柱を壊したの?」

「武器を使ってですけどね」

「…でも、スモウ稽古で武器なんて使わないでしょ。それに剣や槍を使ったところであんなの壊せるとは思えないんだけど」

「剣や槍ではありません。ヨコヅナ様が使用した武器は、常人では持てない程重量がある大鉄棍です」

「…それはまた、社長にお似合いの武器だね」

「武器の稽古をするなんてちょっと以外。タメエモンさんは常に素手で戦ってたのに」

「木打ち柱を叩き壊したのは稽古ではなく、ただイライラが限界だったから憂さ晴らしをしただけですけどね」

「ヨコがそんなことするなんて余程のことが……、あ…」

「余程の事がありましたよ、説明しましょうか?」

「ううん、なんとなく分かったからいいや」


 ブチかましの鍛錬に移る。


「……武器なんて使わなくてもブチかましで壊せそうね」

「想像はしてたけど、頭から全力でぶつかるのを何度も繰り返すとか、厳しいを通り越して常軌を逸してるねェ」

「それを毎日ですから、正気の沙汰ではないと言っても過言ではありません」

「どれだけ殴っても倒れない訳だよ……、リベンジするには私も相応に鍛錬しないと駄目だね」

「…らしくもなく鍛錬してると思ったら、デルファそんなこと考えてたの?」

「クククっ、ヨコヅナ様を倒して社長の座に就きたいのですか?」

「社長の座なんかに興味ないよ。ただ、負けっぱなしも嫌なんでね」

「大怪我したんだから止めときなよ」

「余程の事が無ければ本気でやり合ったりはしないさ。…でも私は何度も人族に裏切られてるんでね」

「ヨコは裏切ったりなんてしないわよ。ラビスちゃんもそう思うでしょ」

「…裏切るとまでは言いませんが、ヨコヅナ様にとってセレンディバイト社よりも大事なモノが出来た場合、どういう行動に出るかは私にも分かりません」

「二人ともヨコのこと疑い過ぎ!何があってもヨコが突然変わったりなんてしないわよ」

「「………」」

「何で黙るのよ」

「オリアがそう思いたいならそれでいいんじゃないかい」

「姉には見ない弟の一面があっても不思議ではありませんからね」

「何よその自分達の方がヨコの事をわかってるかのような言い方!二人は知り合って一年も経ってないでしょ。私の方がヨコのこと分かってんだから」

「ニーコ村に居た頃のヨコヅナ様という意味ではそうでしょうね」

「王都に来てからのヨコの事はラビスちゃんが一番分かってるって言いたいの?」

「いえ、今のヨコヅナ様のことを一番分かっているのはカラ様です」

「カルは社長の相棒だからねェ」

「…そこは私も否定しないけど、カルちゃんは…なんか別でしょ」

「ええ。カル様は全てにおいて別格の存在です」

「なんてったね八大魔将だからねェ」

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