第312話 靴屋の倅は転生者? 18
『次の試合は若い新人の登場です!東方コーナー『靴屋の倅』選手!』
こんな選手名で実況されるとか恥ずかしいな…、変更できないかな?
『解説のテキトーさん、『靴屋の倅』選手どう思いますか?』
『そうですね……。選手名が真実なら、平凡な家業が嫌で冒険者になり友達に裏闘を教えてもらった、と言ったとでしょうか。適当ですけど」
当たってるよ!
『本業が冒険者の選手は割と多いのですが…、私が気になっているのはセコンドの人物なんですよね。実況のモブッポさんはご存じですか?Aランクの『不倒』選手』
『もちろんですよ!私も初めから気になってました、何と『靴屋の倅』選手のセコンドにはあの『不倒』が居るんです!!C、Bを5連勝で勝ち上がりAランクでも4連勝中、しかも今だ裏闘で一度として膝を着いた事がない『不倒』選手が』
実況の言葉を聞いて会場がどよめく。
ヨコヅナ君が負け無しとは聞いてたけど、CもBも5連勝で昇格したんだ。しかも膝を着いたことすらないって、さっきの「今のところ恥ずかしいと思った事はないだよ」はそういう意味なのか。
……てか、それは俺の選手紹介じゃ無くね!?
『対する西方コーナーは、戦績1勝2敗の『ザーコ』選手!』
俺の対戦相手はスキンヘッドでボサ髭、…なんかちっちゃい版ザンゲフさんみたいだ。それでも体型は俺よりちょい大きいけど。
『この試合は武器有り同士の戦いとなりました!』
俺は武器有り選手で木刀を使用武器として登録している。相手が武器無しの場合は時間切れで負けと聞いたけど、この場合は引き分けか。
相手選手の武器は棍棒のようだ。リーチは俺の方が有利だけど、威力は相手の方が上かもしれないな。
『試合開始の合図が出ました。では、『靴屋の倅』VS『ザーコ』スタートです!』
試合開始の合図である銅鑼の音が鳴らされたと同時に、
「うおぉー!」
棍棒で殴りかかって来た。俺は後ろに下がってかわす。
さらに相手ががむしゃらに棍棒を振り回すのに対して、俺は角に追い詰めれないように気を付けながら回避する。
「ビビってんのか小僧!」
「逃げ回るだけじゃ試合になんねぇぞ!」
逃げ回ってるように見える俺に観客から野次が飛ぶ。今までは様子見だよ!
大した選手じゃないことはもう分かった、ここから反撃だ!
俺はまた大振りで棍棒を振り下ろそうとする相手に、胴打ちを喰らわせる。
「うっ…」
力みで打点が少しずれた。俺はすかさず上段から木刀を振り下ろす。だが、相手が棍棒で防ぎつつ後ろに下がる。
「逃がすかよ!」
俺の追撃の喉突き喰らわせる。そしてすかさずさっきと同じところを狙って胴打ち。
「ぐぁっ!…」
相手はたまらず膝を着く。
デスマッチだからさらに攻撃するべきか?
そう考えてると、相手は棍棒を手放し両手を上に挙げる。
『そこまでっ!勝者『靴屋の倅』選手!!』
やった!俺の勝ちだ!!
『いや~、何とも綺麗な剣術で勝ちましたね『靴屋の倅』選手』
『そうですね。我流ではなく、しっかりした流派の剣術を習っていたのでしょうね。適当ですけど』
「はぁ、はぁ…」
ちょっとしか動いてないのに息が少しあがってるな…、
コーナーに戻ると、
「力み過ぎだし様子見し過ぎ!あんな雑魚構え見ただけで楽勝なの分かるでしょ」
初勝利に「おめでとう」の一言も無いのかこのまな板エルフは…。
「こういう大勢に観られながらの試合は緊張するものだべ。おめでとうアル」
ヨコヅナ君はちゃんと分かってくれてるな。
「そのまま金網の中にいれば連戦出来るだが、どうするだ?」
…息は少しあがってるけど、まだまだ動けるし怪我も無い。ついでにクレアの目が鋭い。
「連戦するよ。ヨコヅナ君は5連勝したんだろ」
「オラの事は気にしなくていいと思うだが…。くれぐれも気を抜いたら駄目だべ」
「次もアルに勝ち分賭けるから、負けたら承知しないわよ」
「どっちも了解」
『金網から出ない『靴屋の倅』選手、どうやら連戦希望の様です!』
『無傷での完勝でしたからね。『不倒』選手同様5連勝狙っているのかもしれませんね。適当ですけど』
『対する西方コーナーは『鬼剣』選手!戦績は5勝1敗と順当に勝ち数を増やしている選手です』
…鬼剣とかカッコいいな~。
次の相手は俺と同じで木刀を持っている。身長も俺と同じぐらいだけど結構マッチョだ。冒険者になった時も思ったんだけど、俺って戦う人間の中では小柄な方に分類されるんだよな。…身長はもう止まってるけど、もっと筋肉付けべきかな。
『試合開始の合図が出ました!』
相手選手が構えをとる。クレアは構えを見たら実力が分かるみたいに言ってたが、俺には「さっきの選手よりはデキそうだな」ぐらいしか分からない。
『それでは『靴屋の倅』VS『鬼剣』スタートです!』
今回は試合開始の銅鑼の音が鳴ると同時に俺は直ぐに動く、素早く間合を詰め先手必勝の小手打ち!
しかし、相手に下がられ届かなかった。さらに前に出て追撃の面打ち!
だが、これも相手の木刀で受けられ、逆に膝横に蹴りを喰らう。
「ぐっ…」
結構痛い!
痛みの隙に相手が次々木刀で打ち込んでくるのを、下がりながら何とか凌ぐ。
勢いを止める為に打ち込みを受け止め鍔迫り合い状態にする、がその瞬間頭をぶつけられ、さらに腹を蹴り飛ばされる。
「うっ…」
踏み留まれずガシャンっと背中から金網にぶつかる。
…この鬼剣って人、剣の技術は低いけど戦い慣れてる!
「武器だけに意識がいき過ぎなのよ!」
クレアのアドバイス…と言うより叱咤が飛んでくる。これは一緒に冒険に行った時ザンゲフさん達にも言われたことがある。剣道をベースに稽古を積んできた俺の悪い癖なんだよな。
「来るだよ!」
分かってるよヨコヅナ君。
鬼剣は勝機と見たのだろう、上段からの大振りの一撃…が振り下ろされるより早く、俺は鬼剣の顔面目掛けて手の平に溜めた水をかける。
「っ!?」
驚きで動きを止めた鬼剣に渾身の胴打ちを喰らわせる。
「ぐえっ…」
痛みに体をくの字を曲げた鬼剣、その下がった後頭部に、上段から思いっきり木刀を叩き込む。
顔面から床に倒れる鬼剣。…やったか?
「はぁ~、はぁ~」
鬼剣に起き上がる様子はない、というか頭から血が出てる。早く病院に連れて行ってあげるべきだと思うんだけど…。
「反則だ!!」
「汚ぇぞガキ!!」
観客からそんな言葉が飛ぶ。
え!?何が?…あ、水をかけたこと…?
『試合終了!ですが勝敗は審議させていただきます!』
『攻撃の前に『靴屋の倅』選手は何か液体を『鬼剣』選手にかけていましたね』
『過去に刺激物を溶かした液体を隠し持ち、試合で使用した選手が反則負けになった事例があります!』
『唾や血を相手にかけた選手もいますが、その場合は反則負けにはなっていません。ですが、『靴屋の倅』選手がかけたのは唾や血とは思えませんね』
『ではやはり液体を隠し持っていたのでしょうか?』
『…もしくは、試合中に尿を漏らし手の平に溜めて相手にかけた。これなら反則にはなりませんね。適当ですけど』
『なるほどっ!」
なるほどじゃねぇ!そんなことするかよ!!
…でも、魔法で作りだした水はセーフなんだろうか?
そもそも、
「ヨコヅナ君、裏闘で魔法は反則なのか?」
俺はコーナーに戻りヨコヅナ君に聞く。
「いや、魔法は反則という規則はないと聞いただよ。魔法武具を使う選手と試合したことあるべから、多分大丈夫だべ」
この後直ぐ、係の人が確認に来たので魔法で水を作り出してみせた。
その結果、
『裏闘の運営からの結果を発表します!勝者『靴屋の倅』選手!!何と『靴屋の倅』選手は水魔法が使えるそうです!!』
『これは間抜けな選手名に騙されましたね。まさか魔法剣士だったとは…』
ほら~!間抜けな選手名とか言われてる。
「せっかく魔法を使ってカッコよく逆転勝利したのにクレアのせいで台無しだよ」
「一応魔法はアルの奥の手でしょ。あの程度の相手に使ってる時点でカッコ悪いわよ」
「あの程度って、かなり強かったぞ」
「あれが強いですって、ヨコヅナはどう思う?」
「……アルはさっきの選手が素手のザンゲフより強いと思うだか?」
「いや、素手でもザンゲフさんの方が強いと思うけど…」
「だったら強いとは言えないだな」
ヨコヅナ君にとって強いの最低ラインがザンゲフなんだ!?基準高すぎじゃね!?
「それで3戦目はどうするだ?」
「当然連戦するでしょ」
う~ん………、俺は金網を出る。
「ちょっと!何出て来てるのよ!」
「いや、だって疲れたし、攻撃されたとこも痛いしよ」
試合が終わって冷静になったら、蹴られた足と腹、それと頭突きされた額もマジで痛いんだよ。
「5連勝しなさいって言ったでしょ!」
「言われたからって出来るものじゃないだろ!」
「ヨコヅナは5連勝したのに、2勝しか出来ないなんて情けないとは思わないの?」
「無理して負けたらもっと情けないだろ!」
「…まぁまぁ、同じ相手と戦ってるわけじゃないんだべから、オラの事は関係ないだよ。それに賭けに勝って2試合分の賞金も貰えるんだべから良いんじゃないだかクレア?」
ヨコヅナ君は俺を擁護してくれる、さすが親友。
「そうだぞ。稼いだんだから文句言うなよ」
「……フンっ!もういいわよ」
あ~あ、へそ曲げた。
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