第311話 靴屋の倅は転生者? 17
ヨコヅナ君達が応接室に向かった後、オリアさんが「さっき来たばかりだし、お茶でも飲んでいく?」と誘ってくれたので、食堂でお茶をすることになった。
そして、オリアさんからヨコヅナ君について色々聞けた。
結果、俺の推測は全然間違ってることが分かった。
ヨコヅナ君の後ろ盾はカルじゃなくてこの国の王女様らしい。それはそれで驚きだが、王女主催の格闘大会で準優勝して目を掛けられ、料理の腕を認められて店を出す資金を提供してもらえた。と聞いたら疑問もなく納得出来た。
ヨコヅナ君が社長の理由は、元々は四つ目女性のデルファさんがトップだった組織と合併して、王女の後ろ盾があるヨコヅナ君がトップである方が、混血差別が少なく事業が上手く行くと判断されたかららしい。
ただ、合併前にヨコヅナ君とデルファさんで殴り合いの大喧嘩をしたとか…。経営方針の違いで揉めたのか?ヨコヅナ君と殴り合いができるデルファさん凄いな。
ヨコヅナ君は父親に相撲を習った事も教えてもらった。
名前はタメエモンさん…日本人っぽい名前だ、ちょっと古い感じだけど。
ちゃんこ鍋も元々はタメエモンさんの得意料理で、しかも誰も名前を知らない遠くの国からニーコ村に来たとのこと。
タメエモンさんが日本からの転生…いや、転移者である可能性はかなり高いな。
会って確かめたく思ったが、故人ということなので確かめるすべはなさそうだ。
カルについてはオリアさんもよく知らないそうだ。只の子供じゃないことは分かっているが、ヨコヅナ君が仲良くしているから何の心配もないとオリアさんは思っているようだ。
やっぱりカルは謎だな…、
オリアさん自身の話も少し聞いた、『ハイ&ロード』というギャンブル店の経営を任されてるらしい。美人でスタイル良くて優しい、さらに仕事まで出来る完璧すぎるお姉さんキャラだった!
ヨコヅナ君達と出会った時の話をすると楽しそうに聞いてくれた。俺も楽しい!彼氏とかいるのかな…、聞いてみようかな…、いや、初対面だし止めとくか。
もっとオリアさんと話していたかったが、仕事があると言う事なので心惜しいながらもお開きとなる。
ヨコヅナ君に言われた通りオリアさんに宿の住所を教えて、最後別れ際、
「アル君みたいな歳の近い男の子がヨコの友達で嬉しいわ」
オリアさんが笑顔でそう言ってくれる。
「ヨコは色々あって社長なんてやってるけど、本当は平穏にのんびり暮らしたい普通の男の子なの」
……ヨコヅナ君が普通の男の子とは到底思えないけど、オリアさんは見方が違うんだろうな。
「オリアさんにとってヨコヅナ君は本当に弟なんですね」
「ええ、そうなの。これからもヨコの友達でいてあげてね」
「はい、もちろんです!」
「私はヨコヅナのライバルだけどね」
「ふふっ、クレアちゃんはそんな感じだね」
宿へ帰る道中、
「オリアさんって良い人だよな、しかも美人。あんなお姉さんがいるなんてヨコヅナ君が羨ましい」
「…はぁ~、アルってほんと馬鹿よね」
お、なんだ、嫉妬かクレア。
「妄想を楽しむのもほどほどにしなさいよ」
それだと俺がエロいこと考えてるみたいだろ!…考えてることもあるけど、
「ちゃんと現実も見なさい、私の荷物持ちは嫌なんでしょ」
「むっ……分かってるよ」
確かに今は大して稼げてないけど、それは活躍の場が無いからだ。
でも、ヨコヅナ君のお陰で活躍の場が見つかった。
「裏闘とかいう試合で勝って、しっかり稼いでやるよ」
五日後、
「いけェ!ぶっ殺せぇ!!」
「有り金賭けてんだ!負けたら細切れにすんぞ!!」
あわわわわっ…、
審判のいない金網の中では血みどろの殴り合いをしてる!?片方が立てなくなったら決着ってなんだよ!?金網デスマッチとは聞いてないよ~!!
マジじゃん!?マジでアングラの賭け試合じゃん!?
「Cだと試合開始前に奇襲してくる奴もいるべから、金網の中に入ったら気を抜いたらダメだべ」
それもう試合ですらないじゃん!!?
ヨコヅナ君がセコンドに来てくれたのはほんとありがたい。
「…レベル低いわね。会場も汚いし臭いし」
「Cはこんなもんだべ。ランクが上がれば選手も会場もレベルが上がるだよ」
ヨコヅナ君はこんな試合を勝ちあがったんだな。
「10勝すれば昇格、今日で5連勝しても昇格出来るだ」
「それじゃ今日5連勝してさいアル。私この会場に何度も来たくないわ」
「だから、そんな気楽に言うなよ」
俺の手には12と書かれた紙がある。当日の本登録をしてボディチェックをされた後、試合順を決める為にひいたクジの紙だ。
12試合目ではなく、12番目の選手という意味らしい。順当なら6試合目、連戦する選手がいればもう少し後になる。
あ~、緊張してきた。試合は冒険とは違う緊張感なんだよな。
「今日カルは誘わなかったの?」
「誘っただか、Aに昇格したら観に行くと言ってただ。カルは試合にも賭けにもさして興味ないべからな」
「アルにも興味無いでしょうしね」
興味ないとか酷いな…、まぁカルは謎キャラだからな。
「Aランクでは飲み食いが無料だからそれ目当てだべ。オラの試合のときも一人大食い大会してるだよ」
違った、食いしん坊キャラだった。
少しして、
「12番の『靴屋の倅』選手、次試合になりますので、闘技台の前へ移動してください」
係の人の呼ぶ声、12番は俺だけど……、
「行くわよアル」
「靴屋の倅ってなんだ?」
「アルの選手名よ。偽名でも登録できるらしいからボディチェックの間に私が適当に決めといたわ」
「適当にもほどがあるだろ!」
「良いじゃない、本当の事なんだから」
「良くねぇよ!」
これじゃ唯の色物選手だ、俺ならもっとカッコイイ名前付けたのにぃ~。例えば…、魔法を使える剣士だから『魔剣士』!ちょっと悪者っぽいけど、アングラの賭博試合にはあってる。
でも、負けた時恥ずかしいな…、
「ヨコヅナ君は何て選手名なんだ?」
「オラは『不倒』で登録してるだ」
「へぇ~、結構大胆な名前にしたんだな。負けどころか膝を着いただけでも恥ずかしいだろ」
「今のところ恥ずかしいと思った事はないだよ」
名前の話をしている内に前の試合が終わってしまい、俺は金網の中に入る様に言われる。
まだ、心の準備が…、
「アルの勝ちに生活費まで賭けてるんだから、1試合目で無様に負けたらパーティー解散だからね」
クレアはプレッシャーしかかけないな。
「カルからもう一つ伝言があるだ。「周りなど気にせず、アルはいつも通りの剣術で戦えば良い」だそうだべ。オラもそう思うだ」
いつも通りの剣術か…確かにそれしかないな。
「よし、いっちょやってやるか!」
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