第308話 当り前じゃな
「話題を少し戻すけどこの前の試合、評判はどうだったの?客を意識して色々試してたみたいだけど」
「祝い金は集まっただが、微妙だっただな」
祝い金に同封されていたメッセージカードには「刺激的な試合だったが、『不倒』のイメージには少し合わない」「お客を楽しませようとしたことは分かる。が、いつもの『不倒』が見たい」などが書かれていた。
「裏闘では容赦なく戦う方が良いと聞いたからやってみたんだべがな…」
「容赦ない戦いと残虐な戦いは違うからね。私としてももっと強者との試合を観たいわ」
「わへほほうおもっは」
序盤は控え目にしていたが、そろそろ良いかとお菓子食べモードのカルレインもコフィーリアの言葉に同意する。
「客からも「早く武九王との試合が見たい」という意見が多いだな」
「武九王か、ニュウが将軍級の実力と言っていたな。本当かどうかは怪しいところだが、ヨコヅナが試合する事は出来るのか?」
「試合の申し込み自体は来てるだよ。でも、それら上位の選手とは賭けの条件が合わないだよ。清髪剤の製造方法を要求してくるべから」
「大きい企業なら一時の大金よりそちらを望むでしょうね」
「あとは、姫さんやハイネ様との橋渡しを要求してくるところもあるだな」
ヨコヅナは例外中の例外で、本来なら一企業のトップ程度ではコフィーリアもハイネも会いたくても会えない存在なのだ。個別の面会ともなれば十分賭けの報酬となり得る。
「あら、それなら構わないわよ」
「良いんだべか?……姫さんって実は暇なんだべか」
「暇じゃないわよ」
ヨコヅナからすれば、突然呼びだされたり、毎回裏闘にゲスト解説として観戦に来てたり、オークションにヴィーヴルを競り落としに行ってたり、と暇そうに思うのも無理はない。だが上手くやりくりしているだけで決してコフィーリアも暇ではない。
「ヨコが負けなければ私の予定は変わらないでしょ。それに『不倒』に初めて膝をつかせた格闘家なら会う価値はありそうだしね」
「…私の方は無理だな」
「ハイネ様は忙しいべかなら」
「だから私も忙しいわよ」
「時間の問題ではなく、軍人は裏闘と関わる事を禁止されているんだ。裏闘の選手に軍人はいないだろ」
「言われてみればそうだべな」
実状は国が管理しているとは言え違法賭博、一線を引くために正規の軍人は出場はもちろん、観戦に行くことも本来禁止されている。
「ハイネはこっそりヨコの試合を観戦に行ってるけどね」
「おい!コフィー」
「ハイネ様も観戦に来てたんだべか?」
「…まぁ、個室席でな。バレると色々と五月蠅いから秘密で頼む」
ヨコヅナにも秘密にしていたのは喧嘩していたからだけではなく、元帥の娘であり、自らも将軍であるハイネが観戦に行っているのは実は結構問題行為だったりするのだ。
「バレても私が誘ったと言うから大丈夫よ」
王女がゲスト解説者として堂々と観戦してることに比べたら大したことではないが。
その後も、ハイネがちゃんこ鍋を作る特訓をしたことや、朝の手合わせでハイネの剣をつまんで受けようとしたが失敗したこと、カルレインが大食い大会で優勝して『無限胃袋』という異名がついていること、などなど。
色々と話をしているうちにお開きの時間となる。
「楽しい時間はあっという間ね」
コフィーリアにとって駆け引きなく話が出来る相手は少ない、ハイネやヨコヅナ達とのお茶会は貴重で楽しい時間なのだ。
「そうそう、まだ正確な日時は決めてないけど、私も冒険に行こうと思うのよ。その時はヨコも付き合いなさい」
それを聞いて(やっぱり暇なんじゃないだべか)と思うヨコヅナだが口には出さず、
「付き合うのは構わないだが、お姫様が冒険者になんてなって良いんだべか?」
代わりに当然の疑問を口にする。
「駄目という法律はないわ」
「そんなことを法律で取り締まる必要が無いだけだがな」
「ハイネも一緒にどう?」
「ヨコヅナの冒険譚を聞いて私も興味は沸いたが……いや、止めておこう。魔獣には犬っぽいのが多いからな」
「ハイネ様犬苦手なんだべか?」
「いや、逆だ。私は犬が好きなんだ。昔犬を飼っていてな、魔獣でも殺すのが忍びないんだよ」
「それなら仕方ないわね」
「冒険なら我も行くぞ」
「ええ、カルも一緒に行きましょ。あとヤズミも連れて行くから休めるように仕事を調整しておいて」
「ラビスに言っておくだよ」
ヤズミだけでなく、ヨコヅナは自分の仕事スケジュールの調整もラビスに丸投げしている。
「それともう一つヨコには予定を空けて欲しい用事があるのよ、こっちはだいたい一か月後ぐらいだと思うわ」
「大丈夫だべ、と言うか姫さんいつももっと急に呼び出すじゃないだか」
「ヨコに会いたいって人が居るのよ。もの凄く多忙だから予定が二三日ズレても合わせて欲しいのよ」
「一か月後ならそれぐらいの調整は出来ると思うだが…、会う相手は誰だべ?」
「お父様よ」
コフィーリアがあっさりと言うので、
「姫さんのお父さんだべか…」
ヨコヅナは直ぐには気づけず、
「………それって」
少し間があってから、
「王様じゃないだか?」
「当たり前でしょ」
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