第305話 靴屋の倅は転生者? 14


 異世界転生者アルの冒険、王都編スタートだぜ!と息巻いたのだが、


「臭いな…」

 

 俺は用水路の掃除をしていた。因みにクレアはいない。

 冒険者を辞めてクレアに捨てられたわけじゃないよ。これも冒険者組合で請けれる依頼なんだ。

 王都での下級冒険者の立場はガチで日雇いバイトと変わらない。

 

 王都で多いのは護衛系の依頼なのだが中級以上じゃないと受けれない。依頼主が中級以上を指定していることがほとんどなのだ。

 

 魔獣や魔物が少ないのでフリー討伐はない。ただ、魔獣の討伐依頼はあることはある。

 王都に出没するヘヴィークロウと呼ばれるデカいカラスの魔獣討伐は常に依頼がある。直接人を襲うことは稀なのだが、生ゴミを漁ったり糞をまき散らしたりと、被害もまんまカラスだ。

 クレアの弓の腕前なら余裕で狩れるので討伐数は多くいい稼ぎになる。だが、俺は空を飛ぶ相手に手も足もでない。狩ったヘヴィークロウを運ぶ荷物持ちでしかない。

 流石に荷物持ちだけで報酬半々は申し訳ないので、クレアは今日休みにするって言ってたけど、一人で下級が請けれる用水路の掃除依頼を請けたってわけさ。


「ほんと臭っせぇなー」

「あーしはちょっと慣れてきたっす」


 この仕事は一般の日雇いバイトの人達もいる。その中に少し目を引くグループがいた。王都ではって意味でナインド町では珍しくはないんだけど、他種族…いや、混血かな、純血の人族ではない人達がグループで参加していた。


「でもデルファの手伝いのイティが何で『清掃』に来てるっすか?」

「今日はエフの手伝い扱いになってる。セレンディバイトの仕事は一通り体験しとけってデルファが」

 

 王都では差別が酷いから他種族・混血だけのコミニティーみたいなのがあるのかな…。

 クレアも王都では奇異な目で見られることが多く、入店を拒否された店もあった。正直俺はクレアが暴れ出すんじゃないかとヒヤヒヤしたが、不機嫌にはなるも揉め事を起こすことはなかった。「問題起こしたらさらにヨコヅナに借りを作る事になるでしょ」とのこと。差別よりもライバルに借りを作ることの方がクレアにとっては屈辱のようだ。

 

「それなら、ちゃんこ鍋屋の手伝いも行くんすか?あそこの賄い美味しいんっすよ」

「行かない。ヨコヅナの手伝いはしたくない」

「まだ、怒ってるんすか、イティは子供っすね~」

「働いてるんだからもう子供じゃない!」


 ん……ちゃんこ鍋屋とか、ヨコヅナとか聞こえた気が…、ひょっとしてヨコヅナ君の知り合いなのかな?


 むむ!もしや…。以前考えた、

 カルがエイツゥ連合国の皇女で、ちゃんこ鍋屋をカモフラージュに諜報活動をしている。

 が正しいと仮定して、

 エイツゥ連合国は様々な種族が暮らす国だ、王都で差別にあえぐ他種族・混血のコミニティーと繋がりを持つのは難しい事ではないだろう。寧ろそれを考慮して王都で店を出したのかもしれない。

 ……これは予想よりずっと陰謀の気配があるな。


 今日の晩、店に行ったら注意して見てみよう。


 

 

 用水路清掃の仕事が終わって、大衆浴場でしっかり体を洗った後宿に帰り、クレアの部屋の扉をノックする。


「遅いわよアル!」


 扉を開くなりこの言葉だ、「お疲れ」ぐらい言えないのか、このまな板エルフは。まぁちょっと遅くなったのは事実なんだけど、


「わるいわるい、汚れる仕事でな。臭いも移ってたし」


 臭いままで料理屋に行くわけにもいかないだろう。


「ほら、さっさとちゃんこ鍋屋に行くわよ」


 お金に余裕が出来てきたから、今日の夕食はちゃんこ鍋屋で食べる予定にしていたのだ。




「並んでるわね」

「夕飯時だし、王都で人気の店ってエルリナさんも言ってたしな」


 ちゃんこ鍋屋の前には5人程の列ができていた、俺達も列の最後尾に並ぶ。


「それでもこの暑い時期に鍋屋に列が出来てるとは思わなかったな」

「他の料理が目当てなんじゃないの。私もローストビーフが目当てだし、ちゃんこも食べるけど」


 俺は何にしようかな、…やっぱり照り焼きチキンかな。



「お待たせしました。二名様ですね、お席にご案内します!」


 それほど待つ事もなく店に入る事が出来た。若い女性店員さんが元気な笑顔で席まで案内してくれる。


「こちらがメニューになります。お決まりになりましたらお呼びください」


 二人用テーブルに着き、渡されたメニューを見る。


「う~ん…ちゃんこ以外は高目の値段ね」


 クレアの言う通りちょっと高い。この店は冒険者割引きの効く提携店には含まれてないしな。


「特にローストビーフ、前の時はもっと安くて食べ放題だったのに」

「それはヨコヅナ君が格安に仕入れた肉で作ってくれて、原価しか払ってないからだろ」

「あれ…と言うか、厨房にヨコヅナいないわね」


 座っている席から厨房が見えるのだが、ヨコヅナ君の姿はない。あの体格で人影で隠れてるってことはないだろう。


「店員さん」

「はーい!…ご注文お決まりですか?」

「その前に聞きたいんだけど、ここってヨコヅナが店主って聞いたんだけど。大柄で普段はニコニコしてて、肩に銀髪の少女を乗せてる…」

「あ、ヨコさんのお知合いの方ですか。そうですよちゃんこ鍋屋の店主です」

「厨房にはいないみたいだけど、料理作ってないの?」


 経営者だから常に厨房に立ってるわけじゃないみたいな事も言ってな。料理作るだけじゃ経営出来無いもんな。

 でも、折角店に来たわけだしな…。


「忙しいかもだけど会えたりしないかな」

「すみません。今日ヨコさん、店には居ないんです」

「休みってこと?」

「いえ、今日は別の仕事だと思います」  


 別の仕事?ヨコヅナ君ちゃんこ鍋屋の経営以外の仕事もしてるのか。


「詳しくご説明しますと長くなりますので、先に料理のご注文お聞きしても宜しいでしょうか?」

「そうね。私は厚切りローストビーフ、後はちゃんことライス大盛を頂戴」

「俺は鶏肉の照り焼き、それにちゃんことライス大盛を」

「ご注文承りました!」


 店員は厨房に注文を通すと、何かを持って直ぐに戻ってきた。


「こちらセレンディバイト社の案内パンフレットになります。ヨコさんはちゃんこ鍋屋の店主だけでな社長でもあるんです。詳しくはパンフをお読みください」


 パンフを置いて店員は他の客の対応へと向かった。


 え、社長って言った!?ヨコヅナ君が……?


 パンフレットには、ちゃんこ鍋屋の他に、清髪剤の購入できる雑貨店や『ハイ&ロード』というギャンブル店、あとエステ店、各事業の紹介文が載っていた。そして最後には社長のヨコヅナ君の事も載っている。


「クレアはヨコヅナ君が社長って知ってた?」

「いいえ、私も知らないわ」

「ヨコヅナ君、俺達に秘密にしてたのかな」

「……多分違うわ。話す必要が無いと思ったんじゃない。ヨコヅナが社長だからってアルには関係ないでしょ」


 ……関係ないと言えばないか。友達としては寂しく思うけど。ヨコヅナ君の方は友達と思ってないとか……本当に社長ならあり得そうだな。いや、そもそもニーコ村で農民だったのに社長って普通に考えておかしくね。年齢にしても若すぎるだろ。


 やはり何か陰謀が蠢いているのか!?

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