第304話 定着せんじゃろな


 試合後の実況席でのニュウ、リア、ヘンゼンの解説。


『ほんっとうーに強いですね『不到』選手。ビックルーキーと紹介しましたが、早くも強者の貫禄が出てたように思えます。リア様試合の戦評をお願いします』

『そうね、全てにおいて『不倒』が上だったけど、敢えて言えば技の差が大きいわ。試合前に言おうとした事だけど、即効性のドーピングは力は増しても技の精度が落ちるのよ。そもそもの技量が低いからドーピングを使った方が強いのでしょうけど』

『確かに今日の『不倒』選手は多彩な技を使いましたね。速すぎて実況出来なかったのですが、腕を掴む前『デスエンド』選手が顔面に喰らったのは、高速の張り手ですよね』

『ええ。今まで見た『不倒』の張り手の中でも一番速い。肘打ちと違ってこっちは『スピード』から学び取れたようね』

『それと実況出来なかったのがもう一つ。『デスエンド』選手の拳をあっさり止めたあれです。受け技なのでしょうか?驚きと何より違和感が凄かったのですが』

『……あれは私の知識にもない技なのよ、少なくともケンシン流にはないわ。ヘンゼンは知っているかしら?』

『…ケンシン流はコクエン流の派生格闘技だが伝わっていない技が幾つか存在する。その中に【身切受け】という受け技がある。『不倒』が拳を受け止めたのはその技の応用である可能性は高い』

『身切受けですか…どういう技なのですか?』

『例えば全力を10として、相手の拳10に対して掌10で受け止めたらダメージを負う。なので、初めは3、少し退いて5、さらに引いて7、最後に10で受け止めたらダメージを最小限に出来る、簡単に言えばそういう技だ』

『……そんな面倒な受け方をしなくても、かわすなり受け流すなりすれば良いと思いますけど?』

『本来は対武器での技で、かわせない場合の最終手段だ。身切という技名は身を切らせて受け止めるところからついたと聞いている』

『対武器…ね。『不倒』がその技を習った理由が分かったわ』

『ケンシン流に伝わらなかったのは、対武器を想定していないからですか?』

『それもあるかもしれないが、何よりケンシン流の開祖が習得出来なかったからだ。俺も説明は出来ても約束稽古ならともかく試合で使う事は出来ない』

『…『不倒』選手は疾動や破撃を失敗してましたよ。なのにもっと難しい技を使えるのはおかしくありませんか?』

『その秘訣は『不倒』が肘打ちの素振りを続けていたことにある』

『あ、そこは私が解説したかったのに…、まぁ今回はヘンゼンに譲るわ』

『それは助かる、俺も『不倒』選任解説者として仕事をしなくてはいけないのでな。あの時『デスエンド』が立ち上がっても『不倒』は素振りを続けていた。誰がどう見ても大きな隙だ。そして寸前に頭に一撃喰らってる者からすればやり返したいと考える可能性は高い。つまり『不倒』は頭部への攻撃を誘ったのだ。そして『不倒』の予想通り『デスエンド』は頭を狙って殴りかかって来た。どこに攻撃が来るのかが分かっているなら約束稽古と同じだ』

『…それは『不倒』選手が駆け引きを使ったという事ですね』

『その通りだ。年齢的に伸び盛りとは言え、『不倒』の成長は留まるところを知らないな』

『まさにそうね。今回は観客を意識した戦い方もしていたようだし。一応解説しておくと、最後逃げる『デスエンド』を持ち上げたのは演出で『不倒』はさらに攻撃するつもりはなかったと思うわ』

『もし『デスエンド』がイケメンだったらあのまま顔面を床に叩きつけてたかもしれないがな』

『それは否定できないわね』

『いずれにしろ今後も『不倒』選手の試合は期待出来るという事です!。皆様次の『不倒』選手の試合も是非観戦に来てください!!』




 試合後の観客席でのラビスとカルレインの会話。


「モグモグ、ゴクンっ…あの程度で中の上なのか、レベルが低いの」

「お陰で稼げるので会社としては喜ばしい事ですがね」

「観客は盛り上がっておったが、我は見ていてつまらん。武九王とかいうトップ選手がおるのじゃろ。そやつらと試合は組めんのか?」

「試合の申し込みは来ていますが、賭け金が合わないのですよ。武九王が所属しているのはいずれも大組織ですので」

「組織としてセレンディバイト社が弱小ということか」

「中の下といったところですね。ただ、ヨコヅナ様を倒すことの価値が上がっていますので次は上位の選手と試合を組めると思います」

「今日の試合を観るに上位もあまり期待できなさそうじゃがの」

「解説で言っていた通り、ヨコヅナ様が成長が著しいですからね」

「わはは、我が冒険に連れて行ったおかげじゃな」

「多分に運の要素が多いですが、そうなりますね。では私は控室に向かいます」

「うむ。途中、係の者がおったらここ来るよう伝えてくれ。料理の追加を頼みたい。我を避けておる気がするのじゃが、気のせいかの」

「……原価で計算しても元をとっていそうですからね。さすが『無限胃袋』のカルレイン」

「何じゃそれは、ヨコが言ったのか?」

「いえ、ナインド町で少し情報収集したのですが、割と広まっていましたよ。カル様の異名になりそうです」

「要らぬはそんな異名!」

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