第299話 土産は全て同じじゃ


「そうかい。ピエルに会えたんだね」

「初めは少し警戒されただが、デルファの手紙を渡したら直ぐ警戒を解いてくれただよ」


 場所はセレンディバイト社事務所。 

 

「ピエ君元気だったっすか?」

「元気だったべ。またすぐ国外へ冒険にいくと言ってただ」

「ピエル、帰ッテコナイ?」

「あ~、別れ際に誘ったんだべが、「混血差別を無くそうとしている時に、私が居ては邪魔になるだろう」ってやんわり断られただよ」


 ヨコヅナは元ロード会メンバーに、ナインド町でピエルと会った時のことを話していた。


「手紙を送ると言ってたべ」

「前の手紙届いてから一年以上経つよな」

「安否確認の為にももっと送って欲しいよね」

「ピエルは面倒くさがりのところあるからな」


 何年も帰ってきてないピエルだが、古参メンバーは変わらず仲間だと思っている。


「ピエルさんマ人が嫌いって聞いてたけど、ヨコとは普通に接してくれたんだね」


 オリアはロード会に入ったのはピエルが冒険者になった後、当時は時々ロード会に顔を見せに帰ってきてたピエルと数える程度会話した事があるだけで古参メンバーほど親しくはない。

 

「全然普通だったべ。寧ろオラの作った牛焼肉の丼を食べて凄く上機嫌だっただよ」

「あぁ~、ピエルの好物を作ってあげたんだね。社長の腕前なら上機嫌にもなるだろうさ」

「でも、アルやザンゲフとも冒険者論を話し合ってたみたいだべ。あ、アルはオラと同期の冒険者で、ザンゲフは先輩の冒険者だべ」

「へぇ~…ピエルも冒険者になって丸くなったのかねェ」


 他の古参メンバーも意外そうな顔をしている。

 昔のピエルは『狂獣』と呼ばれるに相応しいほど荒れていた。

 それには明確な理由がある。


「ピエルの左腕は見たいかい?」

「防具の下は人族の腕だったべ。そして金具が肉に埋め込まれてただ」

「ああ、ピエルは左腕を研究所の人間に改造されたんだよ。本人の苦痛などお構いなしに、まるで使い捨ての研究材料のような扱いだったよ」


 ビーストマンとのハーフで見た目が人族からかけ離れてた為か、研究所では残酷な仕打ちを受けていたピエル。人族を恨むのも無理はない。


「そんな過去があったんだべか…」

「…まぁ、昔のことはともかく、ヨコがピエルさんと仲良くなれたんなら良かったわ。ピエルさんが喜んだ、その牛肉の丼料理を私も食べてみたいわね」


 暗い雰囲気になりそうだったのでオリアが話題を切りかえ為、焼肉丼の話に戻す。食べ物の話をすれば、


「あーしもヨコやんの牛めし食べたいっす」

「オデモ食ベタイ」


 エフやジークが乗ってくれると分かっているからだ。


「はははっ、機会があれば作るだよ。代わりじゃないだが土産買って来たから皆食べてくれだべ」


 ヨコヅナがナインド町で買ったお土産を出したところで、


「皆さんミーティングの時間は終わりです。仕事に行ってください」


 ラビスが仕事に行くように催促する。


「えぇ~、お土産食べながらヨコやんの冒険の話聞きたいっす」


 能天気に思ってることを正直に言うエフに対して、


「クビになりたいならいいですよ」


 ラビスも凍り付くほど冷たい声で思ってることを正直に言う。


「ラビスっちほんと厳しいっす」

「話はまた今度だべ。土産は沢山買ってきたから箱ごと持って行っていいだよ。仕事の休憩中にでも食べてくれだべ」

「ありがとっす」

「アリガトウ」


 清掃班と運搬班はヨコヅナから土産を受け取り仕事へと向かう。


「それじゃ私も店に行こうかな」

「『ハイ&ロード』にはオラが顔見せがてら土産を持って行くだよ。今日は各部所を回る予定だべから」


 ヨコヅナは今日セレンディバイト社の格部所を回る予定だ。状況を把握する為でもあるが、何より体調不良と心配させてしまった従業員に「元気だべ」と伝えるためだ。


「…ヨコ帰って来たばかりで疲れてない?」

「大丈夫だべ。休暇とってたのに疲れてるなんて言えないだよ」

「ふふ、そうね。また後で…あ、エネカちゃんにも早く顔を見せに行ってあげてね」


 そう言ってオリアも『ハイ&ロード』へと向かう。



「最初はエネカ姉のところに行くだべかな」

「そうですね。次に清髪剤工場。エステ店、『ハイ&ロード』、ちゃんこ鍋屋の順が宜しいかと」

「それなら私もエステ店までは同行するよ。エネカに話もあるしね」


 デルファが同行を提案したタイミングで、


「デルファ、昨日頼まれてた仕事終わった」

「ありがとうイティ」


 イティがデルファに書類を渡しに来た。

 イティもピエルの話をしていた時は部屋に居たのだが、エフ達と一緒に部屋を出たのでヨコヅナは帰ったのだと思っていたのだが。


「…イティにも仕事してもらってるだか?」


 ロード会時は簡単ことを手伝ったりしていたが、セレンディバイト社になってからイティは仕事を手伝つ事は無かった。

 

「社長がいなかったんでまだ雇ってはいないよ。この一か月弱試して問題無かったから、正式に私の手伝いとして雇いたいんだけど許可してくれるかい?」


 だが、ヨコヅナの休暇中に心境に変化があったようだ。


「……デルファには三部門も任せてるから、手伝いは必要だべな。…ラビスはどう思うだ?そもそも年齢的には大丈夫だべか?」

「デルファさんの手伝いとしてのアルバイト契約なら法的に問題ないです。簡単な事務仕事に関しては中々早く正確です」


 イティをギャンブル店やエステ店で働かせることはもちろん出来ないが、デルファの手伝い程度なら正式は手順を踏めば法にもひっかからない。

 ラビスも試しで任せた事務仕事の確認をしたが悪くないできだった。


「今後の成長も考慮して雇うのは有りと私も考えます」

「ラビスとデルファがそう言うなら反対はしないだが、……イティはどうしてセレンディバイト社で働きたいだ?」


 ヨコヅナに質問されたイティは、


「デルファ達の手伝いをしたいからだよ。それがアイリィを助けることにもなるんだろ」

 

 不満顔をしながら答える。


「はははっ、それなら採用だべ。改めてこれから宜しく頼むだよ」

「勘違いするなよ。雇われるけどウチはお前が嫌いだ!」


 自分が雇われる会社の社長であるヨコヅナに、正面から嫌い発言をしてイティは部屋を出て行った。


「…許してくれたわけじゃないんだべな」


 麻薬密売の事件以降イティはヨコヅナを避けていた。目の前で家族同然のジークやデルファをボコっただから仕方がないとも言える。


「悪いね社長。イティも理解はしてるんだけど、感情が追い付くにはまだ時間がかかるんだよ」

「分かってるだよ」


 もしヨコヅナがイティの立場でも相手を簡単に許すことは出来ないだろう。


「デルファ達の為に頑張れるなら、働てもらう理由としては十分だべ」

「それ以外にもイティには思惑があるらしいけどね」

「そうなんだべか?」

「別に悪事を働こうとしてるわけじゃないさ。だから今は内緒にしておくよ。社長だってロード会に雇われた時思惑の一つや二つあっただろ」

「…そういえば前にイティとそんな話したことあっただな」

「もし害となると判断したら私が排除しますので、ヨコヅナ様は気になさらずともいいですよ」


 ラビスもイティの思惑は知らないが、害となるなら子供といえど容赦はしない。


「ラビスは厳しいねェ」

「別に厳しくはありませんよ。大切なモノが違うだけです」

「…確かにね」


 イティにとって大切なのがデルファ達であるように、ラビスにとって大切なのはヨコヅナだ。


「まぁ、一先ずイティのことはデルファに任せるだよ。損害が出そうならその時考えるべ」

「ああ、任せといておくれ。前は甘えがあってけど、本気になったイティは贔屓目無しに優秀な人材だよ」

「デルファがそこまで言うなら頼もしいべ」

「将来、社長の座を奪われないように気を付けな」

「はははっ、確かにオラも頑張らないとだべな」


 笑いながら答えるヨコヅナだが、デルファの言葉は冗談ではない。


 イティの思惑とは、正々堂々ヨコヅナより仕事が出来ることを証明し、セレンディバイト社の社長の座を奪う事なのだから。

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