第296話 靴屋の倅は転生者? 13


「ぐぅ~…がぁ~…デへへっ、チーレム主人公ってモテすぎて困るな~…ぶへぁっ!?」


 寝ているとクレアに叩き起こされた。凄く良い夢見てた気がするんだけどな…、


「明日王都に行くことになったわ。アルはどうする?」


 おうと?……寝起きで頭が回らない、頭も痛いしちょっと吐き気もする。昨日無理矢理ザンゲフさんに付き合わされたからな…。

 おうとって嘔吐じゃないのよな…王都のことか。


「急にどうしたんだ?」

「ヨコヅナが急に帰ることになったのよ、だから私も一緒に王都に行こうと思って」

「ん?ヨコヅナ君達はゴゴ洞窟に行くんじゃなかったか?」

「休暇が終わりになったから延期ですって。黒い女が迎えに来てたわ」


 黒い女?…よく分からないけど、ヨコヅナ君の本業が忙しくなったってことかな。


「アルも行く気あるなら、今日中に荷物まとめて」


 …クレアはほんと自由奔放だな~。まぁ、俺も王都は行くのは反対しないけどな。


「分かった、俺も王都へ行くよ。荷物まとめとく」


 冒険者は王都の女性にモテるだろうか?




 次の日、朝一の王都行馬車に乗ったんだけど…、ヨコヅナ君と一緒に黒いメイドがいた。

 クレアが言ってたヨコヅナ君を迎えに来た黒い女かな…、昨日聞いた時はダークエルフとかかと思ってたんだけど違った。肌は白い、髪とか服とか靴とか肌以外が黒い。あと顔にフィットする黒いサングラスをしてる。

 

「ラビスと申します。ヨコヅナ様の補佐をしております」

「アルです。ヨコヅナ君とは冒険者の同期で友達です」


 馬車に乗る前に簡単に自己紹介はした。したんだけどヨコヅナ君の補佐ってどういうことだろう?

 これがカルに仕える侍女ならまだ分かる、カルは冒険者をしているが、その正体はお忍びの皇女かもという……あれ?でも…、


「なぁ、クレア…」


 俺は小声でクレアに声をかける。


「何?」

「前に、カルが八大魔将『死光帝カルレイン』の子孫かもって話をしただろ」

「したわね」

「当時カルレインが統治していた国ってワンタジア王国なのか?」

「違うわ。『死光帝カルレイン』が統治していた国は、今でいうエイツゥ連合国よ」


 エイツゥ連合国…確かこのサードリカ大陸で一番大きく、そして様々な種族が一緒の暮らしている国だと聞いたことがある。

 だとすると、カルがお忍び皇女でヨコヅナ君が護衛だという俺の推理は無理があるな。てか、ヨコヅナ君がちゃんこ鍋屋を経営している時点で推理は破綻してるか。

 ……いや、待てよ。もしカルがワンタジア王国の事を調べる、諜報員的な役割も担っているなら、ちゃんこ鍋屋は周りを欺くカモフラージュの可能性があるな。

 見た目に反してカルが切れ者なのは分かっている。

 

「カル、お土産のお菓子食べたら駄目だべ」

「これは我が自分用に買ったモノじゃ、モグモグ…ひがひほひへふほ」


 我慢できずに土産を食べるあの姿も、周りを欺く……いやあれは素かな。カルが食いしん坊キャラなのは揺ぎようのない事実だからな。

 でも、ヨコヅナ君がちゃんこ鍋屋を経営していると聞いた時から違和感はあったんだよな。王都で料理店を出すにはかなりの資金が必要なはずだ。ニーコ村の農民で若いヨコヅナ君に用意出来るとは思えない。誰か資金提供者がいると考えられる。それがカルと考えたら辻褄が合う、皇女なら資金を用意できるだろうし。

 ヨコヅナ君の料理の腕を知って資金提供しちゃんこ鍋屋を開かせた。

 冒険者の情報収取が酒場だったりするように、王都で飲食店を開くことで多くの情報を集めようとしている可能性は無きにしも非ずだよな。

 そして、ラビスさんは…、

 

「昨日聞かせて頂いた話を簡単にまとめたのですが…、ヨコヅナ様を主人公に冒険小説が書けそうです。私が執筆してもよろしいですか?」

「駄目とは言わないだが…オラが主人公で面白い小説になるとは思えないだよ?」


 何か執筆活動を始めようとしてるけど、ラビスさんは本当はカルの侍女兼凄腕の諜報員。

 俺のオタクとしての勘がラビスさんは只者ではないと言ってるんだよな~。


「なぁ、クレア…」

「今度は何?」

「ラビスさんって唯の侍女って感じがしないんだけど、どう思う?」

「アルにしては察しがいいわね、中々の実力者だと思うわ。特にあの希薄な気配、実は暗殺者とか言われても納得できるわ」


 …クレアがそこまで言うなら、本当に諜報員かもしれないな。

 ヨコヅナ君の補佐を名乗っているのはカモフラージュかな…、実際ちゃんこ鍋屋で働いているのかも。それどころか、ちゃんこ鍋屋で働いている従業員は全員カルの部下で諜報員って可能性もあるな。

 でも、ヨコヅナ君まで諜報員とは思えないから……、ヨコヅナ君はカル達の本当の目的は知らず、利用されているだけ……?

 

 今完全な推理を立てるのは無理だな。王都にいる期間にヨコヅナ君のちゃんこ鍋屋にも食べに行くだろうし、店の様子見て考えよう。




 で王都に着いたんだけど、


「何で私は入れないよ!」


 王都の門でいきなり問題発生、門兵に止められ、今は取調室みたいなところにいる。

 止められた理由はクレア、


「王都で暴れられたら困るからだ」

「何で暴れることが前提なのよ!エルフ差別ってわけ!」

「そういう決まりだ。エルフ族だけでなく他種族全部な」


 王都に人族以外の種族は入れないらしい。そう言えばテンテン村でも他種族に対しての差別意識があったな。王都の方が差別が酷いのか。


「ラビスも知らなかったんだべか?」

「知っていましたよ。門兵さん、人族以外の種族の方でも入れる方法の説明もしてください」

「何よ入る方法あるなら先に言いなさいよ」

「チっ…」


 舌打ちとか、態度悪いな…、


「他種族の者が王都に入るには、特別な許可証か身元保証人が必要だ。その様子じゃあ許可証なんて持ってないだろ。そして保証人になれるのは原則準貴族以上の地位にある者だ。知合いにいるか?とてもそうは見えないが」


 こいつ、いないと決めつけてるな、まぁ俺の知り合いにはいないけど…、


「貴族の知り合いならいるわ」

「え、クレア、貴族の知合いなんていたのか?」

「シアンが貴族らしいわ」


 シアンさんって貴族なんだ!?あぁ~冒険者にしては立ち振る舞いとか食事の仕方とか上品だなって思ってたんだよな…、シアンさんはちょっとキャラ薄い感じだったけど貴族令嬢で冒険者という裏設定があったのか。


「保証人になってもらえるなら連れて来てくれ」 

「今は無理よ、ナインドにいるんだから」

「それじゃ許可は出せないな」

「何でよ!」

「事実確認が出来ないからだよ!時間の無駄だ、さっさと帰れ」


 本当に態度の悪いなこいつ…まぁ、クレアが相手じゃイラつくのも分からなくはないけど、


「説明不足ですよ門兵さん。保証金を払う事で王都に住んでいる者なら平民でも保証人になれるはずですが?」

「それならオラが保証人になれるだな」

「…確かになれるが、初回の場合入国料を含めてこの金額になるぞ。払えるのか?」


 門兵が一枚の紙を机に置く。金額が書かれてるけど…、マジかよ、高すぎだろ!?


「保証金だけでも平民の平均年収を超えてるぞ、あり得ないだろ」

「平民ではポンと払えない金額だから、払える者が保証人と認められるんだよ」


 こんな金額ヨコヅナ君でも払えな…、


「これで足りるだな。ラビスが貯金を下すように言った理由はこれだべか」


 ヨコヅナ君がドンっと重たそうな麻袋をテーブルに置く。

 門兵が中身を確認すると目を見開く。そして数えながら麻袋からお金を出していく。必要な金額を出しても麻袋にはまだまだお金が残ってるように見える。

 ヨコヅナ君なんでこんな大金…、あ、あれか!


「ヨコヅナ君、あのお金ってオークションに出品したっていうレアな魔獣の報酬?」

「その一部だべ」


 あれで一部なのかよ!?


「悪いわねヨコヅナ。お金は必ず返すわ」

「保証金はクレアさんが王都滞在中に問題を起こさなければ戻ってきますよ。なので問題を起こさないでください」

「言われなくても問題なんて起こさないわよ」


 …かなり心配だな~、クレア喧嘩っ早いもんな~。


「入国料は返してくださいね」

「それも分かってるわよ!倍にして返してあげるわ」

「クククっ、それは気前が良いですね」


 おいおい、クレア余計な事言うなよ、他種族は入国料だけでも平民の月収近い金額だぞ。


「保証金は足りている。それじゃ保証人はここに住所、氏名を書いてくれ」

「分かっただ」


 ヨコヅナ君が用紙に住所と名前を記入する。書かれた住所を見た門兵は、


「いや、この住所はあり得ないだろ」

「ん?…、間違ってるだかカル?」

「…あっておるぞ」


 なんだ?住所があり得ないってどういうことだ?


「この住所はヘルシ…」

「おい、随分時間かかってるな、何か問題でもあったのか?」

「え、所長!?」


 態度の悪かった門兵が立ち上がって気をつけの姿勢になる。

 所長って呼んだからここの責任者かな?


「この者がエルフ族の入国保証人になると言っているのですが…」

「ヨコヅナ殿!?」


 門兵が説明を遮って所長さんがヨコヅナ君の名前を呼んだ。


「リーゼック、久しぶりだべな」


 …ヨコヅナ君の知合いみたいだな。


「お久しぶりです。お戻りになられたのですね、休暇は如何でしたか?」

「いい気分転換が出来ただよ」

「それは良かった」

「ここリーゼックの職場なんだべな」

「はい、この東門の所長を務めています」

「…所長、お知合いなんですか?」

「ああ、この方々は私が対応するからお前は門警備に戻っていろ」

「しかし、この者は住所を偽って申告していて」

「住所を偽る?……」


 所長さんはヨコヅナ君が記入した用紙の住所を見て、


「そういうことか。住所に問題は無いからお前は戻れ」

「ですが…」

「戻れと言っているんだ」

「す、すみません。戻ります」


 所長さんに凄まれて、慌てて出ていく門兵。


「申し訳ないヨコヅナ殿。部下が迷惑をおかけしたようで」

「迷惑ってほどじゃないだよ」


 …知合いなのはあり得るとしても、この所長さんがヨコヅナ君に対して低姿勢なのは何故なんだろう?


 所長さんはヨコヅナ君から事情を聴き、


「そういうことですか。個人的にはヨコヅナ殿なら保証金の必要もないと思うのですが、規則ですので一応預からせて頂きます」


 ちゃんこ鍋屋の経営者ってそんなに信頼度高いの?


「ではこちらが、他種族の方の入国許可証になりますので、外出する時は必ず所持してください」

「って事らしいだよ、これクレアに渡しとくだ」


 ヨコヅナ君は入国許可証をクレアに渡す。


「これでもう入って良いんだべな」

「はい、問題ありません。あ、ヨコヅナ殿は真っすぐ帰られるのですか?」

「先に冒険者組合所に行くつもりだべ」


 ナインド冒険者組合所の受付で王都に行くことを伝えたら、その日の内に王都の冒険者組合所に行くことを勧められた、そうすれば明日からでも依頼を請けれるし、冒険者割引きが効く宿屋も教えて貰えるそうだ。


「クレア達に市場などを案内しながら行ったらどうじゃ。ここから組合所に行くのにそう遠回りでもないじゃろ」

「そうだべな。二人はそれで良いだか?」

「ええ、お願いするわ」

「助かるよ」

「そんな感じだべ、リーゼック」

「分かりました。お気をつけてヨコヅナ殿」


 ヨコヅナ君と所長さんの関係が気になるけど、一先ず俺らは王都に入る事が出来た。


 ナインド町ではあまりだったけど、この王都で冒険者として活躍してみせるぜ。

 そうすれば俺のメインヒロインとの運命的な出会いがあるはず!

 

 異世界転生者アルの冒険、王都編スタートだぜ!

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