第293話 挽回は出来なかったようじゃ


「さてと、行くべかな」

「うむ」

 

 ヨコヅナとカルレインは宿を出て冒険者組合へと向かう。


「昨日は中々に盛り上がったの」

「そうだべな」


 盛り上がったというのは当然、酒場で皆とちゃんこを食べた時の話だ。

 アルは鍋パと思っていたいが、あの酒場には厨房で使うデカい寸胴鍋しかないので、ちゃんこは丼の器で一人一人に出された。そして、出されたちゃんこの食べた皆は「ふぅ~…美味しい」としみじみと呟いた。


「やはりヨコの料理と言えばちゃんこじゃな。もちろん他も凄く美味いが、あの深くも優しい味は一番の得意料理所以じゃの」

「でもやっぱり、寒い時期に食べたらもっと美味しいだろうな、って皆言ってただな」

「まぁ、そこは仕方あるまい。それに試作と言っとったトマトちゃんこ、あれは暑いこの時期にあっていると思うぞ」


 ヨコヅナは定番のちゃんこだけでなく、トマト味ベースのちゃんこ鍋も作った。カルレインだけでなく皆もトマトの酸味が適度に効きたちゃんこを美味しいと言ってくれていた。


「試作ということはちゃんこ鍋屋のメニューに加えるつもりか?」

「時期限定の旬の食材を使ったちゃんこ鍋とかあってもいいかもと思ってるだ」

「うむ、それは良い考えじゃと思うぞ」

「でも、まだ納得はいってないから、ヨルダック達に相談しないとだべな」

「ほんとちゃんこには拘るの。昨日ちゃんこ以外にでた牛肉の野菜炒めじゃが、あれはゼットかユユクが作ったのじゃろ」

「カルには分かるだか、タレはオラが作ったモノなんだべがな」


 ちゃんこだけでは物足りないという者もいるかと思い、作ったもう一品が、

 牛肉とキャベツと人参のピリ辛炒め。もちろん米は焚いている。

 こっちは手伝いを申し出てくれたゼットとユユクに指示をして作ってもらった。

 皆美味しいと喜んで食べていたが、


「タレだけ同じでも、我からすれば全然違うからの。やはりヨコが作った飯が一番美味い」

「ははは、そうだべか」

 

 ヨコヅナの料理の一番のファンを決めるならやはりカルレインで確定だろう。


「アームレスリング大会も面白かったの」


 皆がある程度腹を満たした辺りで、ヨコヅナにザンゲフがアームレスリングで勝負を挑んできた。アルからヨコヅナとヤクトのアームレスリング勝負の話を聞いてエルリナにカッコいいところを見せれるチャンスと思ったようだ。

 体格から分かるようにザンゲフも「俺はアームレスリングで今まで負けた事が無いぜ」と言えるほど強い。

 だが、普通にヨコヅナが勝った。エルリナは「やっぱりな」という反応だった。

 そのあと「俺とも勝負だ」「俺ともだ」「俺とも」とザンゲフの仲間にも挑まれ、流れで男性陣全員(※怪我をしているヤクトは除く)とヨコヅナはアームレスリングで勝負し全てに勝利した。

 一番強いのはヨコヅナと決定した後、二位以下の順位も決めようとなって、総当たり戦のアームレスリング大会が行われた。


「一番盛り上がったのは二位決定戦とビリ決定戦じゃったの」

「ビリは決める必要あったんだべかな…」


 二位決定戦はザンゲフ対ゼット。

 白熱した接戦の末、勝利したのはゼット。エルリナは負けたザンゲフを見て、「お前戦士だろうが、なっさけねぇな」と白い目を向けていた。

 二位はゼット、三位がザンゲフ、四、五、六はザンゲフの仲間の三人で、

 ビリ決定戦はアル対ユユク。

 こちらも白熱した接戦で、勝利したのはユユク。女性陣は負けたアルを見て「ああ~…やっぱりモテない男性冒険者の典型だ」とハモリ、アルはちょっと涙を零していた。


「余興じゃし楽しく盛り上れたから良いじゃろ。……王都に帰る最終日前にもまた皆で集まるのはどうじゃ?」

「いいだべな。皆の都合があうならだべが」

「ヨコの料理を食べれるなら、都合を空けてでも来るじゃろ」


 などなど話しているうちに組合所に着いた二人。

 請ける依頼はゴゴ洞窟探索と決ているので、受付で申請してすぐ出発…、

 

 のつもりだった。


「お久しぶりです、ヨコヅナ様カル様」


 ロビーで二人を待っていた、漆黒のメイド服を着たヨコヅナの補佐、


「「ラビス!?」」


 ラビスの姿を見るまでは。

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