第290話 靴屋の倅は転生者? 11

 


 皆でヨコヅナ君の料理を楽しんでると…

 店の扉が開きそして、


「…お、本当にこの酒場が行きつけなのだな!ヨコヅナ」


 『蒼天の四星』のヤクトさんが現れた。

 ヤクトさんだけでなく、猫耳ギャルのリニャさん、巨乳魔女のミニーチさん。ダークエルフのゼットさん、も一緒だ。

 一緒に大食い大会を観戦しに行った時に、ヨコヅナ君の友達として自己紹介してもらえた。


 ヨコヅナ君はヤクトさんを見て一瞬目を見開き、あ、不機嫌そう…。


「何であんたがここに来るだ?」

「リニャとミニーチからここがヨコヅナ君の行きつけの店と聞いてね」


 ヨコヅナ君は視線を女性二人に移す。


「前の時、言わないって約束したべ」 


 ヨコヅナ君のその言葉に、


「言ってない」


 ミニーチさんは即座に答える。ミニーチさんって巨乳魔女なだけじゃなくて無口キャラなんだな。


「リニャ」

「ごめーんヨコっち、口が滑っちゃった~」


 てへぺろするリニャさん。あざと可愛い!

 リニャさんもミニーチさんも良いキャラしてるな~。


「すまないヨコヅナ君。楽しく食事しているところに押しかけて」


 ゼットさんは前回も謝罪してたな。常識人でパーティーメンバーに振り回される系のキャラかな。


「邪魔しに来たわけではないヨコヅナ。僕達も一緒に食事を楽しみたいと、っ!……ミートスパゲティじゃないか!」


 ヤクトさんがミートスパゲティを見て目を輝かせてる。好きなのかな?


「この酒場のメニューにはミートスパゲティがあるのか、店主!僕にも同じものを」

「だから俺に言うんじゃねぇボケ!」


 店主に注文頼んだらボケ呼ばわりされるとか、どんな酒場なんだよ!まぁ店主に頼んでも料理は出てこないから、その通りではあるんだけどさ。


「…では誰に言えばいいのだ?」

「ヤクトそれ作ったの多分ヨコっちだよ」

「ヨコヅナが?」

「ヨコっちの料理の腕マジプロキュー。この前の魚のパン粉焼きとかチョベリ美味だったー」

「ローストビーフ、最高」

「…なるほど、二人が突然ヨコヅナ君をパーティーに加えることに賛同したのはそれが理由か」

「そのミートスパゲティを作ったのはヨコヅナなのか?」

「……そうだべ」


 渋々と言った感じに肯定するヨコヅナ君。


「まさか、僕達がここにくると読んで、僕の好物のミートスパゲティを作ってくれたのか!」

「…本気でそう思ってるなら、頭の中を医者に診てもらった方が良いだよ」


 ヨコヅナ君ほんとヤクトさんには辛辣だよな。


「良いトマトが手に入ったか作っただけだべ」

「そうか。理由はともかく僕にも是非ヨコヅナが作った料理を味わわらせて欲しい。もちろん金は払う」

「オラは店員じゃないべから、注文は受け付けてないだよ」

「そんな事言うなしー。ワタシもヨコっちの料理食べたいよ~」

「ヨコの料理、食べたい」


 おっと、またリニャさんとミニーチさんの色仕掛け交渉だ。


「おい!いい加減にしとけよ。大将は作らねェつってんだろうが」

「さっき「邪魔しに来たわけではない」と言っていましたよね」

「思いっきり邪魔なのー」

「さっさとどっか行ってくれる」


 今回はこちらの女性陣も黙っていない。

 まるで間に火花が見えるようだ!


「お前達止めろ」


 ここで常識人のゼットさんが割って入る。

 リニャさんとミニーチさんをヨコヅナ君から引き離す。


「押しかけて食事を邪魔し、さらに料理を作くらせるなどあり得ないだろ。ヤクト今回は諦めろ」


 そしてヤクトさんも説得。手際が良い!これはそうとう場数を踏んでいるぞ。


 思わず心の中で解説しちまったが、これで収集がつくかな。

 と、思い気や、


「……では一つ勝負をしないか?ヨコヅナ」

「勝負?」


 どうやらヤクトさんは諦める気が無いようだ。


「冒険者の集まる酒場では良く行われる勝負だ。他の者も余興として楽しめる。楽しめるなら邪魔した事にはならないだろ」


 ヤクトさんは空いているテーブルの前に移動し、肘をつけるように腕を置く


「アームレスリングで勝負だ。僕が勝ったら料理を作ってくれ」


 おぉ!?アームレスリングでヨコヅナ君に勝負を挑むの?


「わはは、それは面白い余興じゃな。ヨコ相手してやれ」

「カル…」

「勝手な推薦とは言え、そ奴らのお陰で中級になれたのじゃ、今日の材料費は全て我持ちじゃしよいじゃろ。情報収集もしたいしの」

「……分かっただよ」


 確かに面白そうなイベントだ!店にいる他の客達も見物に集まってきた。酒場でよくある余興なのは本当のようだ。


「テーブルが壊れたら店に迷惑が掛かるから、逆の手はテーブルの上に置くやり方で勝負するだよ」

「いいだろう。体格差があるからと手を抜くなよヨコヅナ。僕はこう見えてアームレスリングで負けた事がない」


 ヤクトさんの身長は…180近いかな。体重は分からないけど細マッチョって感じだ。弱そうには見えないけど、ヨコヅナ君相手に勝てそうにも見えない。

 でも、ナインドでトップと言われる冒険者だもんな、見た目よりずっとパワーがあったりするんだろうな。


「そうだべか」


 まるで動じてないヨコヅナ君も自信ありそうだ。アームレスリングって、腕相撲だもんな、そりゃ自身あるか。

 ヨコヅナ君もテーブルに肘をつき、手を握り合う。


「開始の合図はワタシが出してアッゲるー」


 リニャさんが握り合った二人の手の上に軽く手置く。


「頑張れよ大将!」

「頑張ってくださいヨコヅナ殿!」

「ヨコちゃん頑張れなのー!」

「勝ちなさいよヨコヅナ!」


 女性陣からヨコヅナ君に声援が飛ぶ。いいな~、俺が勝負しても応援してくれるかな…。


 こういう展開で、漫画やアニメを元に起こりそうなストーリーを予想すると……。

 本命は、白熱した勝負の末、引き分けて二人に友情が芽生える。

 対抗で、体格差が劣るヤクトさんが勝って、ヨコヅナ君がヤクトさんを認める。

 大穴に、瞬殺でヤクトさんの腕が折れる程の力で叩きつけてヨコヅナ君が勝つ。

 の3パターンかな。

 チートキャラ感が出て来てるから、ヨコヅナ君の瞬殺勝ちは大穴ではなくド本命に思えるけど、ストーリーとして考えると面白味が少ない。


 さて、どれになるかな…。

 

「Ready …go!!」


 やけに発音のいいリニャさんの合図、

 そして、


 グッ…


 腕はどちらにも傾いていない!やはり引き分けか?

 いや、でも少しづつ…


「さすがだ、ヨコヅナ…しかし、…僕も先輩の…上級…冒…」


 何かブツブツ言ってるヤクトさんの腕が、ゆっくり傾いていき、そしてピトって感じでテーブルにつく。


 店内が静まり返る…、


「普通じゃん!?普通にヨコヅナ君が勝ってるじゃん!!」


 つい、声が出ちまった!でも、これは仕方ないって。見たまんま体格が大きいヨコヅナ君が瞬殺でも接戦でもなく普通に勝ったんだぜ。ストーリー的に面白味0だよ!

 

「うっわー…ヤクト、ダッサ~。ちょっとヒくレベルだわ~」

「あれだけ自信満々に勝負を仕掛けてそれは無いだろ。仲間として恥ずかしくなる」

「無様」


 ほら~、お仲間さん達からも非難轟轟だよ。


「大将が言ってたようにバカなんじゃねぇかアイツ」

「バカが恥をかく余興だったのでしょうか」

「バカがバカをやっても面白くないのー」

「ナインドでトップって、一番バカって意味だったのね」


 こっちの女性陣なんてヤクトさん=バカが確定しちゃったよ。

 ただそんな中、


「ここは敗者を貶すのではなく、勝者のヨコを褒めるところではないかの」


 確かに!体格差があって有利とは言え、ヨコヅナ君は冒険者として格上から挑まれた勝負で正々堂々勝ったんだもんな。


 俺は拍手をしながら、


「さすがヨコヅナ君!ナインドトップの上級冒険者に勝つなんて凄いぜ!」


 見物していた皆もヨコヅナ君に拍手を送り、女性陣は「流石だぜ!」「凄いです」「すごいのー」「よく勝ったわ」と褒める。


「これで諦めがついただろ、帰るぞヤクト」

「……確かにこれでは、言い訳の余地がないな」


 ええ、全く。


「ミートスパゲティ……」


 そんなにミートスパゲティ食べたかったの?

 すごすごと店から出て行こうとするヤクトさんに、


「料理作ってやるから、4人とも席に座って待ってるだよ」

「っ!本当かヨコヅナ?」

「そのかわりカルに情報を渡すのが条件だべ」

「情報?」

「今ゴゴ洞窟の情報を集めていての。お主らは洞窟探索したことあるじゃろ」

「それは何度もある。…なるほど、分かった。負けたのに料理を作ってくれるのだ。僕の知る限りの情報を話そう」

「それじゃオラは料理作ってくるから、そっちは任せただよカル」

「うむ、あと我のお分かりも頼む。大盛での」

「分かっただ」



 料理が出来るまでの間、カルが『蒼天の四星』から情報収集。

 ヨコヅナ君とカルって役割分担完璧だよな~。


 しばらくして、料理が完成し話を中断して4人もスパゲティを食す。


「美味い!美味いぞヨコヅナ!僕は国の各地を回って、行く先々でミートスパゲティを食べて来たが、これは五指に入る美味さだ!」

「そうだべか。……残りの4つの店は何処にあるだ?」

「気になるなら今度一緒に食べに行こうじゃないかヨコヅナ」

「一緒になんて行かないべ。場所を教えてくれるだけで良いだよ」

 

 ヤクトさん懲りないな~。ちょっとそっちの気を疑ってしまう…。

 リニャさんもミニーチさんも「スパウマ!」「美味!」と笑顔で楽しんでる中…、


「スパゲティだけでなく、ポテサラもスープも美味しい……、ヨコヅナ君が誘いを即で断るのは…」


 ゼットさんは難しい顔で何かを考えている。

 

「もしかして、ヨコヅナ君は本職が料理人だったりするのか?ただの料理好き素人のレベルとは思えないのだが」


 おぉ!ゼットさんは常識人なだけでなく違いの分かる男なのか。推理もニアピンンだ。


「王都で料理店を経営をしているだよ。今は長期休暇を取って冒険者活動をしてるだ」


 店持ってたらトップのパーティーに誘われても即答で断るのは当然だよな。『蒼天の四星』の4人も納得したようだ。



「そう言えばヨコ、何故こっちに来てはからはちゃんこを作らぬのじゃ?」

「私もそれ思ってたぜ。何で一番の得意料理を作らねぇだ大将?」


 確かにちゃんこ鍋を作ってくれたことはないな……でも、今の時期鍋は暑くね?


「ヨコはどんな暑い日でもちゃんこ鍋食うじゃろ」


 そうなんだ…まぁ横綱だもんな。


「この店の鍵を借りて本当に自由に厨房を使えるなら作るんだべがな…」


 ちゃんこ鍋には拘りがあるから時間をかけて作りたいってことか。…まぁ横綱だもんな。


「なんだ小僧、店の鍵貸して欲しいのか………ほらよ」


 声が聞こえてたようで、店主が鍵をヨコヅナ君の投げて渡す。


「いいんだべか?」

「戸締りはしっかりやれよ」

「…ありがとうだべ」


 あの店主、ヨコヅナ君が盗みをはたらくとは思ってないんだな。


「では明日の晩は景気づけにちゃんこを頼むのじゃ」

「大将私らの分も頼むぜ!」

「もちろん私の分もよ!」

「俺も、俺の分も!」

「是非僕達にも食べさせてほしい!」

「分かっただよ。明日はみんなでちゃんこ食べるべ」


 明日の晩はみんなで鍋パだー!ヨコヅナ君が良いなら、ユユク君やザンゲフさん達も呼んであげよう。

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