第289話 靴屋の倅は転生者? 10


 やったー!女性陣とお出かけだ!と最初は喜んだんだけど、


「はぁ~、重かった…」


 本当に容赦なく荷物を持たされた。カルだけじゃなくて皆も買い物してそれ全部俺が持たされた。

 いや、何でもするって言ったし荷物持ちは男の役目だと思うから良いんだけどさ…。


「言ってた通り皆と一緒に買い物してたんだべな」


 今は、買い物も終わりいつもの酒場に到着して、ヨコヅナ君が出迎えてくれた。


「もう少しかかるから、席に座って待っててくれだべ」

「あっち端の席にしないか?荷物も多いし」

「そうじゃな…」

 

 よしさりげなく誘導成功、端の席は角テーブルだからくっつければ別れる必要はない。


「……ヨコ、なんか疲れておらぬか?」


 厨房に行こうとするヨコヅナ君にカルがそう声をかけた。

 ん……疲れてる?俺にはそう見えないけど、相棒のカルには分かるのかな?


「今日買い物してたら、全然知らない冒険者から一緒に組もうとしつこく誘われただよ。それも一組や二組じゃなく。最後の方は逃げるように買い物してたからちょっと疲れただ」


 …強引なパーティー勧誘に会ったって事か。


「そんなのぶっとばせばいいじゃない?」


 クレアはあいかわらず乱暴だな。でも俺もヨコヅナ君が逃げる必要はないと思うな。


「相手がほとんど女性だったんだべ。冒険者ってより遊女みたいだっただ」


 遊女みたいな冒険者…それって、エロい冒険者ってこと!?俺も誘われたい!!

 この世界での遊女は前世でいうところのキャバ嬢と風俗嬢を合わせたような感じらしい。俺は遊館に行った事ないからよく知らないけど……あれ、てことはヨコヅナ君は…、


「「「あぁ~…」」」


 ヨコヅナ君の言葉に『龍炎の騎士』の三人は何かを納得する。


「まぁ、疲れたと言っても、気疲れだべから心配ないだよ」

「肉体的疲労の方が心配せん。自分が何故ここに来ておるのか、忘れたわけではあるまいなヨコ」

「…忘れてないだよ。周りが勝手に心配したからだべ」


 そう言ってヨコヅナ君は厨房へと入っていった。

 何故ここに来たか?この酒場に…って意味じゃないよな…。


「ヨコのやつ…あれでは本当にぶり返しかねんぞ」


 …どういう意味か聞きたいけど、カルの雰囲気がいつもと違うから聞きづらいな。もう一つの気になった事を聞こう。


「さっき言ってた遊女みたいな冒険者って何なんですかね?」

「…まぁ、アルも一応気をつける必要あるから教えておくか。実力のない女性冒険者の中には、好意があるかのような態度で男性冒険者に近づき、報酬を貢がせる為にパーティーを組む連中がいるんだよ」

「特に実力のある若手新人が狙われます。ヨコヅナ殿は格好の獲物と言えますね」

「ヴィーヴルを狩ったり、『蒼天の四星』に誘われたりして、ヨコちゃんの噂はさらに広まったのー」


 ……つまり金目的でヨコヅナ君に近づいたってことか。


「…じゃが、今までは全くなかったぞ。その理屈じゃとバジリスクを狩った後から誘われるのではないか?」

「それはカルが一緒に居たからだな。あの連中なりにルールがあるみたいでな、異性のパーティーメンバーが一緒にいる場合は誘わないらしい」

「ヨコヅナ殿が話してないだけで、今までも一人の時は誘われていたのかもしれませんね」

「それに組合所内では勧誘しないっぽいのー。昨日噂が広まって今日ヨコちゃんが一人で買い物してたから、一気に集まったんだと思うのー」


 なるほどな~…羨ましいような羨ましくな…、いや、金目的でも沢山の女性冒険者からお誘いされるのは羨ましいな。…でも相手にもよるか、


「あの連中のせいで女性冒険者全員がそういう目で見られたりするから、私らからしても迷惑な連中だよ」

「本当です。実際私は「報酬恵んでやるから、一緒に組もうぜ」などという誘いを何度かされたことがあります。その都度剣を突きつけて追っ払いましたが」


 シアンさんもそういうことするんだ…、いやでも、シアンさんプライド高そうだからあり得るか。


「ウィピは昔、逆パターンの勘違い男の髪毛を焼いてやったことあるのー」


 え、髪毛を焼いた!?ウィピさん見た目に寄らず過激だな…。


「逆パターンって何?」

「イケメン男性冒険者が女性冒険者に貢がせるパターンも稀にあるのー、一応クレちゃんも気をつけるのー」

「そんなの相手にするわけないでしょ。もし私に言い寄って来たら尻の穴に矢をぶっ刺してやるわ」


 クレアが一番えげつない事やろうとしてる!?

 まぁ、クレアはそういう男にひっかりそうに無いよな。……でも万が一ってこともあるから、買い物とか出来るだけ俺も一緒に行くようにするか。


 ヨコヅナ君逃げるほど嫌だったのかな。そもそも…、


「ヨコヅナ君何でお金目的って分かったんだろ?そんな冒険者がいるって知ってたのかな?」

「いや、さっき言ってたように遊女と似た雰囲気を感じ取ったのじゃろ」

「……ヨコヅナ君って遊館とか行くの?」

「いや、遊女によく店に誘われるだけじゃ。似たような理由でヨコは遊女からしても良い獲物らしい。全て断っておるがの」

「そうなんだ……」


 ちょっと残念、もし行き慣れてるなら一緒に連れてって……。


「「「「……」」」」


 やべっ、なんか女性陣の目が冷たい、心読まれた?


「そ、それにしても、魔獣にだけじゃなく、女性冒険者にも遊女にも獲物として狙われるなんて、ヨコヅナ君は余程美味しそうに見えるだな。な~んて…」

「「「「………」」」」


 やっべぇ~、女性陣の目がさらに冷たくなった、冗談にならなかったかな…、


「そのせい…と言うか色々あったせいで、ヨコは若干女性不審気味じゃがの」

「え、女性不審?」

「うむ。ニーコ村で暮らしてた時は全然じゃったのに、王都で暮らすようになってからは一気に年頃の女性と接する機会が増えての」


 ん…ヨコヅナ君がニーコ村出身なのは聞いたけど、王都にも住んでたことあるの?


「じゃが出会ったのが、ヨコに説教と腹パンするのが趣味の女じゃったり、手合わせで模擬剣を使ってヨコをボコボコにする女じゃったり、仕事でヨコがミスすると容赦なく鞭で叩く女じゃったりと、暴力的なのが多くての」

「大将の周り女、暴力的過ぎだろ。私でもそんなことしねぇぞ」

「さらに金を稼げるようになったら、金目的の令嬢や遊女に囲まれるようになったり」

「遊女はともかく、令嬢まで全て金目的にしないで頂きたいのですが…」

「挙句の果てに昔から知り合いの女の仕事を手伝ったら、犯罪に巻き込まれそうになったり」

「それはもう洒落になってないのー」

「と、まぁ、女性が関わる事で色々あっての」

「色々ありすぎでしょ!そんなの女性不審にもなるわよ!」


 ……ヨコヅナ君、冒険者になる前から凄い人生歩んできたんだな。


「ヨコヅナ君って冒険者になる前は王都で働いてたの?」


 俺のその質問に全員「え?」って顔になる。

 それを見て俺も「え?」って顔になる。


「アルに言ってなかったっけ?ヨコヅナは王都で料理店をやってるのよ。料理人になったらいいと思ってたけど、本職が料理人なんですって」

「……聞いてない。王都で料理屋?」

「ああ、ちゃんこ鍋屋っていう王都でも人気の店だぜ。私は王都に行った時はよく行くんだよ」


 ちゃんこ鍋屋!?横綱がちゃんこ鍋屋をやってる…まんまじゃん!。

 エルリナさんがヨコヅナ君を大将って呼ぶのは、ちゃんこ鍋屋の大将って意味か。

 料理が上手なのも納得がいった……けど、


「なんで冒険者やってるの?お店は?」

「長期休暇とっての気晴らしじゃ」

「だから、ヨコヅナとカルは一カ月限定の冒険者なんだって」


 気晴らし…一カ月限定の冒険者……。そんな遊び感覚で…。

 あ、でも初めてここで食事した時、冒険者になりたいわけじゃないって言ってたな。カルもただ楽しそうだからなったって、

 俺とはそもそも前提が違ってたんだ。そりゃ釣りにも行くよな、休暇を楽しんでるだけなんだから。

 一カ月ってことは…。


「もうすぐ王都に帰るってこと?」

「そうじゃな、次のゴゴ洞窟探索と、もう一つぐらい依頼受けて終わりじゃろうな」


 そっか……なんか、ヨコヅナ君が帰ると聞いて寂しいと思うより……嬉…。


「料理出来ただよ」


 あ……、美味しい料理が食べれなくなるからやっぱりヨコヅナ君いなくなるのは残念だな。


 メニューは、

 ミートスパゲティ…これは予想外なのがきた。ヨコヅナ君は絶対米を食べるってイメージあるから。いつもライスが大盛で出てくるし。

 スープは…小松菜かな、と、キノコのスープ。

 それとポテトサラダ、俺結構好物だ。


「この前……あ、いや、今の時期トマトが美味しいから作ってみただよ」


 他の皆もどこか意外そうにしながら、食べ始める。


「モグモグっゴクン…。美味いの!ヨコがパスタ系の料理とは意外に思ったが、苦手というわけではないのじゃな」

「ミートスパゲティとか久々に食ったけど…美味いな」

「私もパスタ系の料理は食べますがミートスパゲティは久々です。どこか子供っぽいイメージがありましたが、これを食べたら子供っぽいとか言えませんね」

「ウィピはミートスパゲティ好きなのー!肉の旨味とトマトの酸味が絶妙にマッチしててとても美味しいのー!」

「ローストビーフほどのインパクトがないから残念に思ちゃったけど、これはこれで美味しいわね」


 女性陣が言うようにこのミートスパゲティ美味しい。ソースはもちろん、パスタがアルデンテだ。

 それにポテトサラダも美味い。具材が大き目にカットされてるゴロゴロ系で、ちゃんとサラダって思えるポテトサラダだ。

 スープも美味い!ヨコヅナ君のスープはいつも地味に美味しい…あ、鍋料理と通ずるモノがあるのかな。


「さっきヨコヅナ君の本職が料理人って聞いたんだけど、納得以外の何ものでもないよ」

「……厨房にも立つだが、オラは料理人ではなく経営者だべ」


 ヨコヅナ君が経営してるんだ!?…まぁ、ちゃんこ鍋屋だもんな。


「ヨコヅナの店に行ったら、ヨコヅナが作った料理全部食べれるの?」


 お、行く気かクレア。確かに俺も王都に行きたいな。


「…全部はメニューにないだ。ピエルがいた時に作った牛焼肉の丼は無いだよ」


 焼肉丼ないの!?あんなに美味しいのに…。


「あとスープ系もないだな、ちゃんこがあるべから。でも他の料理はソースの味が違ったりはするだが、店のメニューにあるだよ」

「なら良かったわ。ヨコヅナの料理どれも美味しいからまた食べたいと思ってたの。その店に行けば食べれるのね」

「オラが作るわけじゃないだべがな」

「そうなの?」

「でもオラが作るより美味しいだよ」

「そう…それなら良いわ」


 …クレアの中では行くこと確定してるんですね。俺に相談する事もなく…まぁ、仮に俺が行きたくないと言ったらクレアは一人で行くんだろうな。

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