第288話 計画通りじゃ


 大食い大会が終わり、直ぐに宿に帰ったヨコヅナとカルレイン。

  

「オラってそこまで大食いじゃなかったんだべな。カル以外には負けるつもりなかったんだべが…。ちょっと吐きそうなぐらい苦しいだよ」


 直ぐに帰って来たのはヨコヅナがホットドッグを食べ過ぎて苦しかったからだ。

 ヨコヅナも大食いに自信があったから、ホットドッグ大食い大会に出場したのだが、結果は五位。それも四位とは結構な差があった。

 

「食欲減退していた影響で胃が小さくなっておるのかもの」

「……そうだべな」


 ヨコヅナ自身も以前ならもっと食べれたと思っている。それも含めヨコヅナは大会の結果にちょっとショックを受けていたりする。


「あの二位から四位の三人は、こういう大食い大会で勝つ為に毎日大量に食べる鍛錬を行っている者達じゃろうな。今のヨコがあやつらに大食いで挑むのは、唯の力自慢がヨコにスモウ勝負を挑むのと同義じゃ」

「……そんな相手に勝って優勝したカルはほんと凄いと思うだよ」

「わはは、我は天才じゃからな」

「便利な言葉だべな、それ」


 カルレインは色々な意味で規格外だと改めて思うヨコヅナ。


「それで、次はゴゴ洞窟の入るだか?」

「うむ。ヨコが中級になった事で、我らだけでゴゴ洞窟に入れるようになったからの」


 ヨコヅナはヤクト達の推薦を受けてまで中級になりたいとは思っていなかった。だが、カルレインが昇級するよう説得した。ゴゴ洞窟の探索依頼を請けるにはパーティーに中級冒険者が一人は必要となる。

 説得したのは、カルレインがゴゴ洞窟に入りたいだけというわけではない。


「洞窟ではヨコが倒したバジリスクと同等レベルの魔獣と遭遇する可能性は高いそうじゃ。我とヨコだけならどうとでもなるが…」


 ヨコヅナが下級のままでは、ゴゴ洞窟に入るに場合、エルリナ達と一緒になるだろう。場合によってはクレアとアルも一緒に。

 

「他の者を連れて行くと逆に危険じゃ、我でも流石にフォローしきれぬ」


 はっきり言ってしまえば、カルレインにとってヨコヅナ以外は足手まといでしかない。そしてヨコヅナはエルリナ達が危なければ身を呈して助けることもカルレインは分かっている。

 その辺の理由からヨコヅナに昇級するよう説得したのだ。


「ヨコ、怪我の具合はどうじゃ?」


 ヨコヅナは料理を作ったり大食い大会に出たりと平気そうな振る舞いをしているが、それは日常生活での話だ。ヴィーヴルやガルムに襲われて負った怪我の影響で、今のヨコヅナは戦闘を想定した場合万全な状態とは言えない。


「……あと、二日で大丈夫だべ」

「では、三日後に洞窟に入るか。アイテムを整えたり、一応情報収集もするつもりじゃから丁度良いの」


 カルレインは情報無しに飛び込むのも面白いかとも思っていたが、情報収集も冒険者の醍醐味なのでイベントの一つとして楽しむつもりだ。


「そうだべな。オラも装備を新調しないといけないべ」


 ヨコヅナは身に着けているモノをガルムにボロボロにされたので、新しいものを買う必要があった。


「では明日は別行動にするかの、我は情報とアイテムを、ヨコは自分の装備を。金はあるのじゃから次は質の良いモノを買うのじゃぞ。ヨコは貧乏性なところがあるからの」

「……まぁ、動きやすいのがあれば買うだ」

「身を守ることも重視せい。せめて籠手だけでも、とびっきり頑丈なのを買っておけ」

「そうだべな。…飯はどうするだ?」

「昼は適当にすます。晩はあの酒場で頼むのじゃ……ひょっとしたら、道中エルリナ達やクレア達と会って、あやつらも連れて行くかもしれぬから、そのつもりの量を作っておいてくれぬかの」

「……分かっただ。多目に作っておくだよ」

「うむ、頼むぞ」



 次の日、

 カルレインは組合所に行き受付係に、


「ゴゴ洞窟の情報が欲しいのじゃ」

「…今日は一人か?」

「うむ、ヨコは別行動じゃ」


 その受付係は登録時から何度もやり取りをしているので、カルレインがヨコヅナの相棒だと知っている。


「中級に上がってすぐ、それも新人がゴゴ洞窟に入るのはお勧め出来ないのだがな…」


 そして、ヨコヅナが中級に昇級した事も知っているので、ゴゴ洞窟の情報を求める理由も察せれる。


「規則上問題はないじゃろ。それにガルム11匹を討伐したヨコなら、一人でもゴゴ洞窟に入る実力があると認められるはずじゃぞ」


 ゴゴ洞窟は中級五人以上のパーティーで入ることが推奨されている、だが、ガルム11匹に襲われたら並の中級五人のパーティーでは逃げる選択肢しかない。つまり、中級五人よりヨコヅナの方が強いとも言える。


「そうなのだがな……。正直に言うと、二人は期待の新人で今後も稼いでくれそうだから、無茶して死なれると組合所にとっても大損と言えるんだ」

「…正直に言い過ぎではないか?」

「さらにぶっちゃけると、組合所長から「久々の金のなる木だ、大事に育てろ」と言われている」

「ぶっちゃけ過ぎじゃろ。そんな冒険者組合の情報などいらぬから、ゴゴ洞窟の情報をくれぬか?」

「…仕方ないな。モノによっては有料になるぞ」

「うむ、構わぬ。命に係わる事なのじゃからな。…ところで、ヨコだけでなく我も期待の新人と思われておるのか?」


 カルレインのその質問に受付係は一応周りを確認して他には聞こえないぐらいの声量で、


「攻撃力のある光魔法が使用できると情報を得ている。組合は冒険者の実力を把握する為に個人情報も集めている」

「…組合では個人情報も売買しておるのか?」

「買う事はあっても売る事は基本ない。罪を犯し討伐される側にならない限りはな。困ったことに冒険者崩れが野盗になるなどの事例は多くてな」

「なら個人情報を集めるのは必要なことじゃな。我らには関係ない事じゃが」

「そうであることを切に願うよ」




 カルレインはロビーにあるテーブルに座りで、ゴゴ洞窟の情報資料を読む。


「…ふむ。やはり中で一泊するつもりでアイテムを揃える必要があるの」


 ゴゴ洞窟とはいえ入口付近ではレア魔獣やレア素材は見つからない。ゴゴ洞窟までの往復時間も考えると、日帰りでは唯行って帰って来るだけになるだろう。


「あれ…カル、来てたんだ」

「おはようカル。ヨコヅナは?」


 組合所に来たアルとクレアが話しかけてきた。


「おはようなのじゃ。今日ヨコとは別行動じゃよ」

「そうなの…また釣りにでも行ってるの?」

「いや、この前釣りに行った際、装備がボロボロになったから新しいのを買いに行っておる」

「…それだけ聞くと、一体何を釣りに行ったんだよってなるよな」

「釣ったのは普通の魚じゃがの……他に陸の獲物が取れただけで」

「ホント非常識よね。こんな直ぐ差が開くなんて…」


 以前アルと話していた時、クレアが不機嫌だった理由は、ライバル視しているヨコヅナが中級に昇級出来ると聞いたからだ。決して太ったからではない…と、本人は言う。


「よう、カルにクレア。それとアルも」

「おはようございます」

「おはようなのー」


 更に『龍炎の騎士』の三人もやって来た。密かにアルは自分の名前も呼んでもらえたことに喜んでいたりする。


「大将はどうしたんだ?また昇級審査か、二階級特進か?」

「それだとヨコヅナ殿が死んだことになりますよ」

「それに冒険者は死んでも昇級なんてしないのー」

「ヨコは生きとるぞ、今日は別行動じゃよ」


 カルレインとヨコヅナはセットのイメージが強い為、カルレインが一人だとつい皆ヨコヅナの事を聞いてしまう。


「カルちゃんは何読んるのー?」

「ゴゴ洞窟の情報じゃ」

「もうゴゴ洞窟に入る気ですか!?」

「うむ。今日明日で準備して、明後日に入る予定じゃ。ヨコが中級になった事で我ら二人だけでも洞窟に入れるようになったからの。折角ナインドに来たのじゃからゴゴ洞窟に入らないのは勿体ないじゃろ」

「そんな温泉じゃねぇんだからよ。焦ってゴゴ洞窟に入る必要……いや、あるのか」

「うむ。時間はもうあまりないのでの」


 一か月の限定の為、ヨコヅナとカルレインが冒険出来る期間は残り少ない。


「二人だけで入るの?」

「そうじゃ」

「私も連れてってよ。アルは置いてくからさ」

「おいおい、俺だけ仲間外れにするなよ。足手まといみたいだろ」

「みたいじゃなくて、足手まといなの」

「そんなにハッキリと!?」

「アルは関係ない。今回は我とヨコの二人だけ行く」


 カルレインの言葉は強い口調でもないのに、否定を許さない力が込められたいた。


「……分かったわよ」


 ちょっと拗ねたような表情になるクレア。


「本当に危険な場所なのですよ、下級がゴゴ洞窟に入ることはまずないです。私もありませんし」


 ゴゴ洞窟の入る下級冒険者は滅多にいない。居るとしたら常識外れの、バカか強者かの、どちらかだ。


「エルリナとウィピはゴゴ洞窟には入った経験はあるのか?」

「あるぜ。上層エリアだけだがな」

「それでも結構強い魔獣と遭遇して危険だったのー」

「ふむ…では、これからゴゴ洞窟探索に備えてアイテム買いに行くので付き合ってくれぬかの?」


 組合から情報を購入したがやはり生の声は重要だ。それにヨコヅナが居ないので荷物持ちも欲しいと思っている。


「…まぁ、カルの頼みなら、買い物に付き合うのも、洞窟での事を教えるのも、断りはしないけどよ~…」

「親しき中にも礼儀ありなのー。冒険者に頼み事するなら報酬が必要なのー…」


 エルリナとウィピが何を要求しているのかカルレインは分かってる。

 と言うより、


「分かっておる。昼飯と晩飯は我の奢りじゃ。もちろん晩飯はヨコの料理じゃぞ」

「乗った!」

「乗ったのー!」

「…あの、それは私も含んで貰えてるのでしょうか?」

「含んでおるぞ。我から『龍炎の騎士』に頼み事をしているのじゃからな。荷物の量も多くなりそうじゃから分散して持って貰えると助かるのじゃ」

「え、それだと私は?」

「俺は?」

「クレアとアルは一緒に行くメリットがないの~」

「そんなこと言わないでよ、アルを荷物持ちでも何でもこき使っていいから」

「俺だけ!?」

「アルが来たくないなら来なくて良いけど」

「行きます。荷物持ちも何でもするのでご一緒させてください!」

「ふむ、では六人行くとするかの(ニヤリ)」


 カルレインは昨日ヨコヅナと話をしている時からこの状況を想定していたのだ。

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