第287話 靴屋の倅は転生者? 9


 ロビーは、ざわ…ざわ…という文字が見えそうなほど、ざわついていた。別にギャンブルはしてないけど。


「やぁ、ヨコヅナ。怪我の具合はどうだい?」

「あんたに心配される筋合いはないだよ」


 珍しくヨコヅナ君が不機嫌そうだ。相手がイケメンだからかな?…ヨコヅナ君に限ってそんなことないか。

 てか、突然話に割り込んできたこの正統派イケメンは誰なんだろう?


「『蒼剣』のヤクト…、いや『蒼天の四星』全員!?」


 ザンゲフさんも驚いてる。

 正統派イケメンの後ろにはパーティーメンバーだと思わしき三人。


「ヤッホー、ヨコっち」


 猫耳尻尾の女性冒険者、萌える!ちょっとギャルっぽい感じするけどそれがまた良い!萌える!


「ヨコ。二日ぶり」


 巨乳だ!魔女っぽい格好で巨乳の女性冒険者だ!二次元でしかあり得ないと言われるぐらい、バストが大きいのにウエストは細いが現実化している!

 

「割り込んですまないなヨコヅナ君、他の方々も」


 ダークエルフ!?の男性冒険者……男は別にいいか。



 俺は小声で、


「ザンゲフさん、有名人っぽいですけど誰ですか?」

「全員上級冒険者で、ナインドでトップとも言われる冒険者チームだ」


 『冒険者の町』のナインドでトップ!?それこの国でトップと言えるって事じゃないのか!?。

 ……この流れ的に、この人たちがヨコヅナ君を中級に推薦したんだろうな。

 

「中級には昇級出来たかい?」

「…出来ただよ」

「それは良かった。僕達の推薦があるとは言え下級での依頼回数3回では昇級は厳しいかと思ったが、無事昇級出来たようだな」

「やっぱり」


 あ、思わず声に出ちまった。

 そのせいか正統派イケメンがこっちに視線を向ける。


「君はさっき彼が運が良いと言ったね。それは大きな間違いだ。あの状況で生き残れる者は上級冒険者でもそうはいない。彼が中級になれたのは実力であり運ではない」


 怒られてる…わけではなさそうだけど、反論は許さいと言うような目で少し怖い。

 

「それで、何かオラに用だべか?」


 視線がヨコヅナ君に戻った、正直助かった。

 何だろこの人、ザンゲフさんやピエルさんを始めて見た時も怖いと思ったけど、それとは違う怖さがある。


「ヨコヅナの昇級を祝おうと思ってな」

「祝ってもらう筋合いないだよ」

「遠慮することはないぞ、ヨコヅナ」

「遠慮してないだよ」

「照れ屋だな、ヨコヅナは」

「照れてないだよ」


 ……やっぱりヨコヅナ君、この人の事嫌いっぽい。生意気だと突っかかるザンゲフさんにも普段はニコニコ笑顔で接するのに…。イケメンだからか?いや、まさかな。


「なるほど、あの時と同じように、こちらの本心を見抜いているわけか。さすがだなヨコヅナ」

「……あんた実はバカなんじゃなだか?」


 ヨコヅナ君が辛辣なツッコミをしてる!?


「本心を言おうヨコヅナ。初めて会った時も言ったが、僕達と一緒に冒険しよう」


 その言葉にロビーが騒然とする。

 トップの冒険者パーティーが登録して一か月も経っていない新人を勧誘してるわけだから無理もないか。

 

「断るだよ」


 でも、ヨコヅナ君は即答で断った。 


「前もそう言ったべ。あんたのパーティーに入る気はないだよ」

「そんな事言うなしー、ヨコっち仲間になれしー」

「ヨコ、一緒に冒険、する」


 ヨコヅナ君の断りの言葉に先に反応したのは、猫耳ギャルさんと、巨乳魔女さん。ヨコヅナ君に両脇に立つ。いや、腕を取るようにして寄り添ってる?と言うか胸が当たってませんか?「当ててんのよ」ですか!?

 羨ましい過ぎるんですけどヨコヅナ君!

 あ、それを見てクレアや『龍炎の騎士』の女性陣がイラッとしてる……。

 俺は小声で、


「ザンゲフさん、あの女性二人も上級冒険者なんですよね?色仕掛け要員とかじゃないですよね?」

「そうだ、ああ見えて凄腕の冒険者だ。…正直俺より強い」


 マジで!?


「今回は僕の独断ではなく、『蒼天の四星』総意での勧誘なんだ。少しは検討してくれないかな?」

「オラの返事は変わらないだよ。断るだ」

 

 おぉ~!ヨコヅナ君色仕掛けにもまるで揺いでいない!!年頃の男としては逆に心配になりそうだ。


「そろそろ我も口を出させてもらおうかの」


 ヨコヅナ君の肩に乗っているカルがそう言う。あれ?いつの間にヨコヅナ君の肩に乗ったんだろ……?


「「「「なっ!?」」」」


『蒼天の四星』の4人も気づいていなかったみたいだ、寄り添っていた女性二人はヨコヅナ君から離れた。


「昇級祝いだけならともかく、ヨコを勧誘すると言うならパーティーメンバーである我にも口出しをする権利があるじゃろ」

「…『バジリスク殺しの新人』は肩に銀髪の少女を乗せていると聞いていたが……なるほど、ヨコヅナ同様只者ではないようだな。僕は『蒼天の四星』のリーダー、ヤクト。君の名前を聞いていいかな?」

「我はカルレインじゃ」

「カルが口出す必要ないだよ。断る以外に選択肢ないんだべから」

「そう言うでないヨコ。折角冒険者らしいイベントなのじゃから我も混ぜるのじゃ」


 …あぁ~分かる。新人離れした活躍で、トップ冒険者パーティーに勧誘されるイベント。これもお約束の一つだよな。


「ヨコヅナとカルレインは二人パーティーなのかな?それもと他にもメンバーがいるのか?」

「正式パーティーとしては我らは二人じゃ」

「ふむ。ヨコヅナを加えて『蒼天の五星』とパーティー名を改名するつもりだったが、『蒼天の六星』と改名することになるか…」

「オラは断ってるんだべから。改名の必要なんてないだよ」


 いつもニコニコ笑顔のヨコヅナ君が、少しキレ気味だ!?


「カルレインの実力もしっかり見ておきたいな」

「ほぉ、我の実力を見たいと言うか?良かろう」


 逆にカルはノリノリって感じだ、……楽しんでるだけっぽいけど。


 カルが人差し指を向け…


「あ!カル、そろそろ行かないと間に合わないかもだべ」

「む……、そうじゃな」

「予定があるのか?依頼か?」

「そんなところだべ。だから話はもう終わりだべ」


 昇級審査受けてたのに、依頼の申請もしてたの?


「いや、可能なら同行させてもらいたい」

「一緒に来たいなら好きにすればよい。ヨコも良いじゃろ?」

「……別にいいだよ。見に来るのを禁止する権利はオラにないべからな」

「では、カルレインの実力を実践で見させてもらおう」




 何人ついて来ても問題ないと言うので、俺とクレア、『龍炎の騎士』の三人もヨコヅナ君達について行った。

 その先での出来事を見て、


「バカな!?」

「あり得なくない!?」

「信じられん!?」

「怪物!?」


 カルレインの凄さに驚愕する『蒼天の四星』。


 ……いや、確かに凄いっちゃ滅茶苦茶凄いんだけどさ、


『第五回ナインド町ホットドック大食い大会!優勝者は~…無限の胃袋を持つ銀髪の少女!!カルレイン選手です!!!』

「わはははっ!楽勝なのじゃ!」


 大食い大会じゃん!!依頼じゃないじゃん!!

 ヨコヅナ君、畑仕事や魚釣りだけじゃなくて、大食い大会も冒険者の仕事だと思ってるの!?


「カルは大食いだと思ってたけど、まさかこれほどとはな」

「普段は寧ろセーブしてるぐらいなのですね」

「あれだけ食べて体型変わらないとか羨ましいのー」


 この大食い大会のレベルは高かったと思う。

 だって、力士のヨコヅナ君ですら五位なんだぜ。

 四位から二位は、ホットドッグをソーセージとパンを分解して食べたり、ジャンプして胃の容量増やそうとしたり、プロのフードファイターっぽかった。

 だが、そんな強豪をものともせず、二位に大差をつけてカルが優勝した。

 明らかカルの体積より食べたホットドッグの体積の方が大きいように思えるんだけど……。


「なぁ、クレア」

「何?」

「エルフの伝承に、八大魔将の一人『死光帝カルレイン』は無限の胃袋を持つ、とかあったりするのか?」

「ないわよ」


 だよな。

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