第283話 また我のおらぬところで…
「何で皆、釣りも畑仕事も冒険者のすることじゃないと言うんだべかな?依頼掲示板に貼り出されてるのに」
今日ヨコヅナは湖で釣りをしていた。遊びとして釣りをしているわけではない。これは列記とした冒険組合の依頼だ。湖で食用の魚を釣って来るという内容で、数ある依頼の中で報酬は最安。
ヨコヅナとしては下級になった時から請けたいと思っていたのだが、カルレインが反対した。理由は言わずもがな。
でも今日と明日はカルレインはエルリナ達と温泉に行って別行動。
だから、ヨコヅナは依頼を請けて釣りをしているのだ。
「お!きただ……中々の大きさだべ」
畑仕事同様、久々の釣りを楽しむヨコヅナ。
「でも……もう少し静かに釣りたいだな」
ヨコヅナの周りには魔獣の死骸が転がっている。
湖はゴゴの森に隣接しているので安全ではない寧ろ危険だ。釣りに集中していて襲われた者が数えきれない程いる。
ヨコヅナも同様に襲われて、全て返り討ちにした。
「場所を変えるべかな」
ヨコヅナは魚を釣る為何度か場所を変えた。その為依頼を申請した時受付係に教えてもらった釣りエリアの外に出てしまう。
ヨコヅナは受付係が魚がよく釣れるエリアを教えてくれたのだと思っているのだが、そうではない。教えられたのは比較的安全なエリアだ。当たり前過ぎてるのと、釣りの依頼を請ける冒険者が少なすぎて伝え忘れたのだ、ゴゴ洞窟に近い場所ほど危険だと。
伝え忘れた受付係が悪いのは間違いないのだが、何度も襲われているのに場所を変えてまで釣りを続けるヨコヅナを見たら「どんだけ釣り好きなんだよ!」と逆ギレするだろう。
一時的に場面は変わり、時を同じくして、温泉に来ているカルレイン達女性陣五名の会話。
「極楽じゃの~」
「ほんとね~、温泉って初めてなの私、エルフの里にはないから」
「部屋で湯に浸かるのとはやっぱちがうよな~。体が蕩けそうだぜ~」
「確かに気持ちいいのですが…少し抵抗あるんですよね。覗かれそうで…」
「覗き魔は八つ裂きにしてOKなのー」
「殺しても罪には問われないって事?」
「今んところまだ殺されたって話は聞かないな。玉を潰された奴は何人もいるらしいが」
「何故そんな危険を冒してまで覗こうとするのか、まるで理解できませんね」
「男にとってはそれも冒険なのじゃろ」
「女が男を覗く場合もあるそうなのー」
「それこそ理解できないわね」
「あ~……大将みたいな見応えある身体を覗くなら、理解出来なくもねぇかな」
「…覗きたいとまでは思いませんが、一見の価値があるのは同意します」
「シアちゃんはムッツリスケベなのー」
「違います!」
「ヨコは毎日褌一丁で稽古しとるから覗かなくても見れるがの」
「ヨコヅナは釣りに行くって言ってたわね。……あれを冒険者の仕事って本気で思ってるのかしら?」
「本気で思っとるじゃろな。畑仕事ですらそうなのじゃから」
「場所が場所だけに危険ではあるのですがね……大丈夫でしょうか?」
「大将に限って滅多なことはないだろ。エリアも教えてもらってるはずだしな」
「…またバジリスクみたいな大物狩ってたらライバルとして困るわね」
「ヨコは魔獣から美味そうに見える体質しておるからの~。可能性は0ではないのじゃ」
「なんかフラグが立った気がするのー」
場面は戻り、
「そろそろ帰るべかな。あまり釣れなかっただ。……ん…」
空が夕色に染まったので、ヨコヅナは帰り支度をしているのと、森から魔獣が現れた。
「まただべか……知らない魔獣だべな」
簡単にその魔獣の姿形を表すと大きいトカゲだ。やたら鱗がテカテカと光を反射していた。
「ドラゴン?……にしては小さすぎるだべな。それに羽もないだ…」
ヨコヅナは実物を見た事ないが絵などでドラゴンの姿形は知っている。それに近い気もするが、その魔獣は牛ぐらいの大きさで羽もない。
ヨコヅナが首を傾げていると、魔獣が頭から突進してきた。それもかなり速いスピードだ。
角が無いのは見てとれるのでヨコヅナは正面から受け止める。
が、
「っ!!?」
ヨコヅナが大きく後ろに弾かれる。危うく湖に落ちるところだ。
「見た目よりずっと重いだな、それに硬い」
ヨコヅナがその魔獣の予想外な強さに驚く。
だが、何故か魔獣は直ぐに追撃をしてこなかった。その様子は、まるで自分の一撃をまともに受けてヨコヅナが立っている事に驚いてるかようだった。
「お返しだべ!」
ヨコヅナが魔獣にブチかましを喰らわせ、弾き飛ばす。
だが、その魔獣は倒れる事もなくヨコヅナを睨みつける。
グゥルゥァァァ…
その魔獣は低く唸る。そしてまた頭から突撃する為に体勢を低くする。
だが、直ぐには動かなかった、何かを待つように…、
「こんな魔獣がいるんだべな」
当然ヨコヅナに魔獣の言葉など分からない。それでも魔獣の思ってることが分かった。
ヨコヅナは手合の構えをとる。
「ブチかまし勝負だべ!」
ドコォォンっ!!!!
ガコォォンっ!!!!
ボコォォンっ!!!!
湖に、幾度となくヨコヅナと魔獣が頭からぶつかり合う音が鳴り響く。
……………空が暗くなり湖に映る
壮絶なブチかまし勝負を制したのは、
「ふぅ~~……オラの勝ちだべ」
頭から血を流しながらも立って、頭がカチ割れ絶命している魔獣を見下ろすヨコヅナ。
「こんなところで命がけのブチかまし勝負が出来るとは思わなかっただよ」
ヨコヅナが他の技を使えばもっと楽に勝てたかもしれない。だが、この敵はブチかましで倒すことでこそ価値がある、自分の糧に出来ると思ったのだ。
そしてこの魔獣には勝った。
「……騒音の苦情に集まったんだべかな。それとも弱ったところを狙ってたべかな」
まだ終わっていない。
森から大きな銀色の狼に似た魔獣が現れた。それも群れで、数は十を超えている。
ヨコヅナは頭の傷は決して浅くはない。
だが、
「負ける気がしないだな」
大きく四股を踏み。手合の構えを取るヨコヅナ。
「かかって来るだよ。同じようにオラの糧にしてやるだ」
また、一時的に場面は変わり、温泉宿で夕食を食べている女性陣五名の会話。
「モグモグっゴクン…うむ、町の料理屋よりは美味いの。それとたまには酒を飲むのもよいものじゃ」
「私はお酒はそれほど好きじゃないけど、こういう時に楽しむのに少し飲むのはいいわね」
「本当ですね……カルはお酒を飲んでいい歳なのですか?」
「安心せい、冒険者登録時二十歳と記入したから証明書にもそう記載されておる。確認されても問題ないのじゃ」
「幼く見えても冒険者に注意する人なんて滅多にいないのー」
「そういう問題でもないのですが……」
「まぁ硬いことは抜きでいいじゃねぇか。それよりカルは一か月以降も冒険者を続ける気は無いのか?」
「…それはひょっとしてお誘いかの?」
「裸の付き合いをして酒を飲みかわす間柄にもなったんだ。カルの魔法の実力を知ってて誘わない方がおかしいだろ。どうだ私らと一緒に冒険しないか?」
「嬉しい誘いじゃが、すまぬの。ヨコはまだまだ子供じゃから、冒険者関係なく我が付いていてやらねばならんのじゃ」
「そっかー。残念だな」
「それにヨコの作る料理が食えなくなるのは嫌じゃしの」
「ヨコちゃんも一緒に冒険すればいいのー。そうすればウィピ達もいつでもヨコちゃんの料理が食べれるのー」
「そのパーティー組むなら私も入れてよ!アルが邪魔なら捨てるし」
「酷い事言いますねクレア。料理もそうですがヨコヅナ殿は前衛としてもパーティーに欲しいですよね」
「あれだけの実力の前衛だからな。上級冒険者パーティーに誘われても不思議じゃねぇな」
「誰から誘われようとヨコは断るじゃろうがな」
「また、フラグが立った気がするのー」
場面は再度戻り、
「はぁー、ふぅー、はぁー…」
息を切らし体中傷だらけになりながらも立つヨコヅナの周りには、狼魔獣の死骸が散らばっている。
「あと3匹だべか…」
残りは3匹、だたその内1匹は他より一回り大きい。群れのボスなのだろう。
「一気に終わらせるべ…!っ」
ヨコヅナが前に出ようとして、足を止める。
ボフォォーっ!と突風が吹いたからだ。魔獣にだけ…、
「勝手に済まないが助太刀させてもらう」
声と共に一瞬にして魔獣達は、1匹は弓矢で貫かれ、一匹は首を裂かれ、ボスは一刀両断にされた。
「……何者だべ?」
ヨコヅナの前に現れたのは四人。
「警戒しなくていいよ、僕達も冒険者だから。パーティー名『蒼天の四星』、僕はリーダーのヤクト・リーロス」
全身鎧を来たのヤクトと名乗る男は兜をとる。青髪・青眼が印象的な正統派系イケメン。
「君の名前も教えてくれるかな?」
「…オラはヨコヅナだべ」
「やはり君が……噂通り、いや噂以上だな」
ヤクトは一人納得する。
そして、
「ヨコヅナ」
「何だべ?」
ヤクトはヨコヅナに手を差しだす。
「僕達『蒼天の四星』と一緒に冒険しないか?」
「断るだよ」
ヨコヅナは即答で断った。
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