第284話 天然タイプじゃな
ヨコヅナは知らないが、
『蒼天の四星』は全員が上級冒険者で、ナインド町でトップとも言われている冒険者パーティー。
「唐突過ぎるだろ。勢いだけで会話を進めるのは貴様の悪い癖だ」
長身のダークエルフの男性冒険者ゼット。職業:弓使い。
「あははっ!速攻で断られてる~、ヤクトってばダッサ~い」
ギャルっぽい猫耳尻尾の女性冒険者リニャ。職業:斥候。
「まずは傷の手当て」
魔女っぽい服装で巨乳な女性冒険者ミニーチ。職業:魔法使い。
「…そうだな、少し焦り過ぎたようだ。ミニーチ、彼に傷の手当てをしてあげてくれ」
リーダーで青髪青瞳正統派系イケメンの男性冒険者ヤクト・リーロス。職業:剣士。
「自分で出来るから傷の手当てしてもらう必要ないだよ」
ヨコヅナの声からは明らか不機嫌さが感じられる。
「さっきも言ったがそんなに警戒しなくてもいい。僕達は決して敵ではない」
「人の獲物を横取りしておいてよく言うだな」
ヤクトはヨコヅナの危ないところを助けたと思っている。
だが、ヨコヅナからすればイケメンに獲物を横取りされただけだ。
「いや、横取りするつもりなどない、ヨコヅナを助けようと…」
「それなら、もっと早く出て来ていいはずだべ。オラがあの魔獣と戦ってる時から見ていたんだべから」
あの魔獣とはブチかまし勝負をした魔獣だ。
「…気づいていたのか」
「気づいてないだよ」
ヨコヅナはカマをかけたのだ。
さすがに命がけ勝負の最中ではヨコヅナでも他の気配には気づけない。
「……ははは、まいったな。でも本当に横取りするつもりなんて無かったんだ。僕達が倒した分も含めてガルムの討伐は全てヨコヅナの手柄として良い」
狼に似た魔獣はガルム。一匹でも並みの中級冒険者は苦戦する。十匹の群れだと中級冒険者パーティーは逃げる選択しかない。
「それに後処理も僕達でやろう。ゼット、リニャ、頼む」
「はぁ~、新人にしてやられるとは情けないリーダーだ。一つ貸しだぞ」
やれやれと言った感じに後処理を始めるゼット。
「えぇ~…、あ、それならワタシはお礼にこのヴィーヴル欲しい」
「バカを言うなリニャ、全然つり合いが取れないだろ!」
「目だけでも良いから~」
「リニャ、無理言い過ぎ」
「くだらない冗談言ってないでリニャもやれ」
「むー。ヤクト、百つ貸しだからね」
「百!?」
ガルムの後処理はヤクトとゼットとリニャがやり、
「手当てする」
「自分で出来るだよ」
「手当て」
「自分で…」
「手当て」
「自…」
「手当て」
「…お願いするだ」
ヨコヅナの怪我の手当てをミニーチがすることになった。
ヨコヅナの手当てとガルムの後処理が終わり、
「あとはヴィーヴルだな…」
「解体は専門化に任せるのが良いだろう。誰かが町から台車を取って来るしかないな」
ヤクトとゼットがそんな会話をしているのを聞いて、
「あんたら何でそんな話しをしてるだ?」
「このヴィーヴルはとてもレアな魔獣だから…」
「オラは何でそれをあんたらが話し合ってるのかを聞いてるだよ」
「あ…すまない、ヨコヅナの意見も聞くべきだな」
「違うだよ。どうするかはオラが決めるだ」
ヴィーヴルを狩ったのはヨコヅナだ。決定権はヤクトではなくヨコヅナにある。
「さっきも思っただが、あんた自分が絶対正しいとでも思ってるんだべか?」
「…そんなつもりはないが、少なくとも下級の君よりは最適な対処ができると思っている」
「どうしてオラが下級だと知ってるだ?」
「『バジリスク殺しの新人』の噂は僕の耳にも届いているからね」
ヨコヅナもその噂が広まっている事は知っている。だが、
(気に入らないだな)
ヨコヅナはこの男が気に入らない。
初めの勧誘も自分の誘いを断るはずがないという態度だった。
人が狩った獲物も決定権が自分にあるかのような口ぶりだった。
今の言葉も「僕に知られているのは光栄だろ」と言うように聞こえた。
(調子に乗ってるイケメンだべ)
だが、直接危害を加えられてるわけではないから、顔面を潰すわけにもいかない。寧ろ相手としては親切にしているつもりなのはヨコヅナも分かっている。気に入らないが、
「ふ~、は~……一応礼を言っとくだ。手当てと後処理、ありがとうだべ」
ヨコヅナは深呼吸し落ち着いて、この状況を終わらせることにした。
ヴィーヴルを担ぎ、そしてガルムの討伐証明の部位など、他の荷物も持つ。
「……ヴィーヴルってメチャ重じゃないの?」
「同等の大きさの岩と変わらないと聞くな」
「力持ち」
ヨコヅナは『蒼天の四星』に一応別れを言うことにする。
「それじゃオラは帰るだよ」
「そんな状態で帰るつもりか?」
「聞こえなかっただか?オラ今帰ると言っただ」
「また魔獣に襲われるとは考えないのか?」
「また返り討ちにすればいいだけだべ」
ヨコヅナは会話を終了させ、町に向けてゆっくりだが歩を進める。
「フラれたちゃったね~。ヤクト、フラれちゃったね~」
「勧誘は諦めた方がいいな」
「脈無し」
「……僕は彼の気に障るような事をしただろうか?」
「ヤクトが上から目線だからじゃない?」
「僕は親切に…いや、下級の君よりは、とか言ってしまったな…」
「だが、あれは新人の強がりとかじゃないな」
「自分の判断基準を持ってる」
「彼は組合が決めた階級など気にしないタイプか」
「ワタシも階級とかマジ意味不~って思ってた」
「意味不明とまでは思わないが、オレも階級を上げることに熱心なっている冒険者は理解出来なかったな」
「同上」
「なるほど、まずは彼を知る事が重要だな……町に戻るぞ」
「「「言うと思った」」」
「何でついて来るだ?」
「別にヨコヅナについて行ってるわけではないよ。僕達も町に戻るから同じ道になるのは必然だろ」
「だったら何で並んで歩いてるだ?先に行けばいいだよ」
「ヨコヅナと僕の歩くスピードがたまたま同じなだけさ」
「重い荷物を持ってて遅いオラとだべか?」
「重たいならヴィーヴル以外の荷物を持ってあげよう」
「必要ないだよ……あんたらも依頼で来てたんじゃないんだべか?」
「調査をしてたんだ。最近大型の魔獣が森に増えているから組合から調査依頼がでた。危険な夕方から早朝までの夜の部を僕達が担当している」
「だったら調査を続けるだよ。夜が明けるまではまだ時間があるべ」
「ガルムの群れにヴィーヴルまで発見できたんだ。その証拠と一緒に早めに帰ったとて文句を言う者などいないさ」
「……そうだべか」
「他に聞きたいことはあるかい?」
「ないだよ」
「なら僕からヨコヅナに質問をしていいかな?」
「答える気がないだな」
「答えたくない質問には答えなくていい。そうだな…ヨコヅナの好きな食べ物、料理はなんだ?」
「………ちゃんこ鍋だべ」
「ちゃんこ鍋…つまり鍋料理か、確かに寒い時期に食べる鍋は美味しいな。僕はミートスパゲティが好きだ」
「そうだべか」
「よく子供っぽいと言われるがな」
「年齢関係なく美味しいミートスパゲティは美味しいだよ」
「お!分かってくれるかヨコヅナ。僕達は気が合うな」
「合わないだよ」
その後、ヤクトの押し付けがましい会話は町に戻るまで続いた。
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