第282話 靴屋の倅は転生者? 7



 みんなでヨコヅナ君行きつけの酒場に移動し、

 

 俺は、ザンゲフさんと、『狂獣』ことピエルさんと一緒のテーブルに座っている。


 マジかよ~……、


 人数多いから二つのテーブルに分かれて座ることになったのだが、


「腹減ったの」

「そうね、早くご飯出来ないかしら」

「ここに着いてから作り始めたのですから、時間かかりますよ。それより…」

「大将って『狂獣』と知り合いだったのか?」

「カルちゃんも知り合いなのー?」

「ヨコも我も初対面じゃよ。知り合いの知り合いと言ったところじゃ」

「人族と仲良くするビーストマンなんて初めて見たわ」

「組合が冒険者と認めているので、危険はないとは思いますが…」

「『狂獣』は混血らしい……あの左腕を見るに本当のようだな」

「ジロジロ見るのは良くないのー」


 女性陣と男性陣で別れてしまったのだ!


 ヨコヅナ君入れたら、四人だから数的に分け方は正しいんだけど…、

 あっちとこっちで全然雰囲気違うんだよ。

 ザンゲフさんはエルリナさんと一緒じゃないから不機嫌オーラだしてるし、ピエルさんは表情分かんなくて、しかもヨコヅナ君が厨房に行ってから何も話さないし。

 ……ここは俺が話を振るべきなのか?新人なのに?

 いや、新人だからかこそ、自己紹介的な感じで話しかけれるかな……人族が嫌いって聞いたけど、ヨコヅナ君には普通だったし大丈夫だよな…、


「えと、俺はアルと言います、新人冒険者で、ヨコヅナ君とは同期で友達です」

「そうか、私はピエル。こんな見た目だが君を食べたりなどしないから安心していい」


 ちゃんと返してくれた!しかも冗談混ぜて和ましてくれてる!全然笑えないけど…、


「ヨコヅナ君とは知り合いなんですか?」


 カルの声が聞こえてたから、直接の知り合いではないことは分かってるけど、ここは話を続ける為にあえて質問する。


「いや……私の友達の恩人。そう思ってくれればいい」


 なるほど、なるほど、さっきの手紙はその辺が書かれていたって事だろうな。

 でも、手紙の内容を聞くわけにもいかないから…。


「ピエルさんは上級冒険者なんですよね」

「組合はそう認定しているな」

「凄いですね。上級なんて…」

「別に凄かねぇよ」


 ミスった!ザンゲフさんは中級だ。親切にしてもらったのに、上級ってだけでピエルさんを褒めたりしたら良い気しないよな。


「そいつはソロのフリー討伐で魔獣・魔モノを狩ってるだけだ。大物も狩ってるから上級に認められてるが、俺から言わせればそいつは冒険者じゃね、ただの狩人だ」


 あれ、怒った理由が俺が思ってたのと違う…。


「ほぉ…では貴様の考える冒険者とはなんだ?」

「依頼を請け、どんな魔獣・魔モノからでも対象を守る。どんな危険な場所からでもレア素材を持ち帰る。それが冒険者だ」

「フっ、なるほど。貴様は冒険従業員か」

「なんだとコラ!」


 でも険悪な雰囲気は増してる…、


「そ、その冒険従業員って何ですか?」

「この男が言ったような組合に評価されやすい依頼ばかりをこなす冒険者のことだ。会社で出世したい従業員のようにな」


 ……言われてみれば、そんな感じもするな。


「冒険者とは、文字通り冒険をする者。そして冒険とは未知を開拓し新しいモノを発見する事だ」

「お前が言ってんのはガキの夢物語の冒険ごっこだ!それなら組合に登録する必要もないだろうが」

「私が冒険者組合に登録しているの色々と便利だからだ、国外に行くときとかな」

「お前も昇級審査受けて上級になったんだろ、だったらお前も従業員って事だろうがよ」

「昇級すれば利便性が増えると聞いたから上級になっただけだ。そうでなかったら下級のままだっただろうな。私にとっては階級などどうでもいい」


 やべぇ、会話が弾んできたけど、予想外にヒートアップしてる!?しかも絶対結論出ないパターンだ。


「アルはこいつの考えなんて気にすんなよ」


 俺の方にも火の粉飛んできた…あ、俺が初めた会話だった…、


「似たような事を口にした冒険者を何人も見てるが、全員ろくな目にあっていない」

「それは弱いからだ。弱肉強食の世界だからな」

「……ちっ」


 ピエルさんが言うと「弱肉強食」の説得力パネェ~。


「……アルが来るべき世界ではないのは確かだがな」

 

 ん……今のは、つまり…、


「それは、俺が新人でまだまだ弱いって意味ですか?」

「そうだ。そして伸びしろも感じない」


 伸びしろも感じない……つまり俺は弱いままってこと?


「ふざけた事言ってんじゃんねぇ!」


 ドンっとテーブルを叩くザンゲフさん、今までのよりずっと怒ってる。俺の為に怒ってくれてる?


「アルは素質ある、俺が保証してやる。冒険ごっこしてるお前がつべこべ言うじゃねぇ!」


 ザンゲフさん。あんた本当の本当に良い先輩冒険者だ。


「……確かに私が口を出す事ではなかったな」


 そしてピエルさんは口を閉じる。ザンゲフさんもまだ怒り収まらない感じだが同じく口を閉じる。

 最初より雰囲気悪くなっちまった!余計な事しなきゃよかった……。


「料理、出来ただよ」


 待ってたよ~ヨコヅナ君、心の友よ~。


 メニューは、

 焼肉丼だ!!見ただけで分かる、絶対美味いヤツやん!

 トッピングっぽく、半熟玉、千切りキャベツ、刻みショウガが皿に用意してくれてる。

 あとお吸い物のようなほぼ透明で具の少ないスープ。


「使ってる肉は牛バラだから脂っこく感じてきたら…」

「モグモグっゴクンっ、美味いのじゃ!!」


 ヨコヅナ君が説明してるのに、我慢できずカルが食べ、そしてみんなも食べ始めた。 

 ほ ん と マ ジ で 美味い!!!

 見ただけで分かったけどそれ以上に美味い!!。タレは前世の甘辛焼肉タレに似てる、米とあっててメチャウマだ!!



「わはははっ。ローストビーフも良かったが我はこういうちょっと雑な料理も好きじゃ」

「確かにな!ローストビーフもめっちゃ美味かったけど、これはこれでめっちゃ美味い」

「半熟卵を乗せても凄く美味しいの~。ローストビーフも美味しかったけど、これも美味しいの~」

「脂身の多い部位ですが、千切りキャベツや刻みショウガを一緒に食べることでしつこくなくドンドン食べれますね。ローストビーフもとても美味しかったですが、これも本当に美味しいです」

「ほんと美味しい!!…でも、ローストビーフって何?皆だけズルい!私もそれ食べたい!」


 女性陣は仲良しだな~。

 引き換えこっちは……ザンゲフさんもピエルさんも夢中で焼肉丼をかきこんでた。


「デルファから、ピエルは焼いた牛肉と米を一緒に食べるのが好きだって聞いてたから作ってみただ、どうだべ?」

「………(コクコクコクコク)」


 ヨコヅナ君の質問にピエルさんは無言で何度も頷く。とても美味しいと言う意味だろう。無言なのはかきこみ過ぎて黒豹なのにリスみたいに頬がパンパンだからだ。


 因みにピエルさんはこの店に来た時から左腕の装備を外してて、だから普通に食事出来ている。

 ピエルさん左腕だけ人族の腕なんだよ。予めザンゲフさんから混血と聞いてたからあまり驚かずに済んだけど、聞いてなかったら「え!?」ってなってたと思う。

 驚く部分はそれだけじゃなくて、その腕に装備をつける為の金具が付いてんの、肉に食い込んでる形で。

 本当は食事前の会話で「改造手術とかしたんですか?」と聞きたかったぐらいだけど、絶対地雷だと思うから聞かなかった。

 

「ザンゲフはどうだべ?」

「モグモグっゴクン。まぁ……滅茶苦茶美味ぇよ」


 おおぉ!嫉妬心を超えてザンゲフさんがヨコヅナ君を褒めた。


「ヨコヅナ君、この焼肉のタレってどこかで売ってるの?」


 市販のタレなら近い焼肉丼が作れるんだけど…


「このタレは色々混ぜてオラが作っただよ」


 だと思った。市販で売ってるなら今までも食べてるはずだし、


「タレから自分で作ってんのかよ。お前冒険者じゃなくて料理人やれよ」

「その考えには私も深く同意する。今まで食べた牛めしの中で一番美味い」


 二人、さっきまであんなにギスギスしてたのに、今は意見を合わせてる。当然俺も同意見だ。

 ゴク…お吸い物も美味しい。口の中がリセットされるみたいで、無限に焼肉丼を食べれてしまいそうだ。

 

「お替りあるから欲しい人は…」

「「「「「「「「お替り!!!」」」」」」」」




 食事中、ヨコヅナ君にザンゲフさんとピエルさんの冒険者論を話してみたら、


「両方やればいいと思うだよ」


 あっさりとそう言い、


「両方と言うより、何でも好きにやれば良いと思うだよ。冒険者は型にはまらない自由な生き方、だとオラは思ってるだよ」

「ケっ、新人の癖に分かったような事言うじゃねぇか。正しいけどよ」

「ああ。ヨコヅナの言う通りだ。デルファが認めた人族なだけある」


 ヨコヅナ君は既に自分の冒険者論を持っていた。

 そうか。俺は俺の冒険者論を見つければいいのか。


「オラも冒険者として、また『国営農業』の依頼を請けて畑仕事がしたいと思うんだべが、カルが「それは冒険者ではない」と言うだよ」

「それは冒険者じゃねぇよ」

「それは冒険者ではないな」


 俺もそれは冒険者じゃないと思う。やっぱり少しは冒険者の枠組みはあるべきだな。



 食事後、

 店を出てヨコヅナ君とピエルさんが二人で話してる。そして、握手をして別れる。

 あれ、俺の方にピエルさんが来た。


「アル、私が口を出す事ではないがこれだけは言っておく」


 あ、俺を弱いと言った時の続きかな、


「食事前「弱肉強食は当然」と言ったが、それは弱い者が死んでも良いと言う意味ではない。生き残る事こそが最優先、時には逃げることも正解だ。覚えておくといい」


 ピエルさんのそれだけで言って帰ってしまった。


 今のって…つまり…、


「あいつ見た目と違って優しいのね」


 クレアが声を掛けてきた……けど、優しい?


「俺には、「お前は弱いから冒険者を辞めろ」と遠回しに言われたように聞こえたんだけど?」

「それはそうよ。そう言ってたんだから。ビーストマン族はね、相手の戦闘力を見抜くのに長けてるの」

「…ピエルさんは混血らしいぞ」

「それは私も聞いたわ。でもあいつ、組合所に入って来てからずっとカルを警戒してた」

 

 …あの時の視線はヨコヅナ君じゃなくて、その肩に乗ってるカルに向いてたのか。


「そして話しかけてきたヨコヅナにも警戒してた。対面してヨコヅナも警戒に値する相手と見たようね。手紙を読んだ後は警戒を解いてたけど」


 それは俺も分かったけど…、


「……結局クレアは何が言いたいんだ?」

「あいつの戦闘力を見抜く能力は本物。そんな上級冒険者がアルに冒険者を辞めるように言った。これ以上は言わなくても分かるでしょ」


 ……俺に冒険者は無理、弱いから死ぬ可能性が高い。

 クレアはそう言いたいのか?

 でもザンゲフさんは素質あるって言ってくれた……、

 いや、そうじゃない。

 ヨコヅナ君の言った「冒険者は自由な生き方」それはあの二人も認めた……なら、


「俺の生き方は俺が決める、冒険者だからな」

「そう……それならもうしばらくはパーティーでいてあげるわ」


 クレアはいつも上からだな…実際実力的に上か。でも、これから追い越せばいいだけだ!クレアもヨコヅナ君もピエルさんも。


「あ、そうだ。明日からまた二日間別行動ね」

「え?またヨコヅナ君達と冒険?今度は俺も…」

「今度はヨコヅナも別行動よ。女性陣だけで温泉に行くの。だからアルは連れていけないわ」


 温泉!?絶対エロハプニングあるイベントじゃん!!

 ヨコヅナ君も行かないなら口には出せないけど、


 俺も連れてってくれよ~…よ~…よ~。

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