第281話 靴屋の倅は転生者? 6


 ヨコヅナ君と手合わせした時から三日目。


「よーしアル、俺が先輩として色々教えてやるよ」


 そう言って俺の背中を叩くザンゲフさん。

 ザンゲフさんとしては軽く叩いたつもりなんだろうけど、俺からすれば結構痛い。


 どうも俺はザンゲフさんに気に入られたらしい。




 ヨコヅナ君と手合わせした次の日は、クレアが言ったように顎の痛みも頭痛も残っていたので安静にしていた。

 2日目には顎の痛みは少し残るも頭痛は無くなったので、鍛錬をする為訓練場に行った。

 そしたら訓練場にザンゲフさんが居た。

 自己紹介した程度の仲だが無視するのも失礼かと思ったので、軽く挨拶をしておいた。

 その後しばらく剣の鍛錬をしていると、


「アル、飯行かねぇか?」


 ザンゲフさんに昼飯に誘われた。

 適当な料理屋に入ってご飯食べながら色々話してみると、

 ザンゲフさんって、デカくて強面でとても21歳には見えないけど、割と良い人なんだよ。道中や食事中でも他の冒険者から親し気に声かけられること多かったし。

 



 で、今は組合所の掲示板に貼ってある依頼書を一緒に見ている。


「まずだな。下級冒険者はフリー討伐ばかり申請する奴が結構多い、とくにソロで活動してる奴はな。何故か分かるか?」

「…小物でも数を狩ればポイントになるからですか?」

「その通りだ。アルは筋がいいぜ!」


 バシっと背中を叩くザンゲフさん…だから痛いですって、


「冒険者は魔獣・魔モノをただ狩ればいいわけじゃねぇ。護衛依頼で依頼主を守ったり、被害に遭ってる村からの討伐依頼の請けて達成してこそ責任感が養われる。冒険者組合もそう考えてる」

「そうなんですか?」

「事実として小物狩りのソロ下級冒険者は、評価ポイントを満たしていても中級への昇級審査で落されることが多いんだ。多くの小物を討伐して評価ポイント稼いでいても、護衛依頼を請けて大物が出た時依頼主を守れなかったら意味ないからな」


 …ユユク君があんなに索敵能力凄いのに下級なのはそれが理由なのかな?


「冒険者はよくゴロツキと変わらないなんて言われるが、それはレベルの低い連中が多いからだ」


 …見た目だけで言うと、ザンゲフさんはゴロツキ達のボスって感じですけどね。


「組合が求めているのは、「危険な場所から高価なレア素材を持ち帰れる」「危険な魔獣・魔モノからでも対象を守れる」そんな冒険者だ。アルも上を目指したいなら、フリーより報酬が少なくとも護衛依頼とかを請けた方が絶対に今後にタメになるぞ」


 思ってたよりにタメになるアドバイスだな…、


「あと、重要なのが多くの冒険者と仲良くしておくことだ。これは何故か分かるか?」

「……依頼の内容に適した冒険者と臨時パーティーを組めるからですか?」

「それも正解だ。やっぱりアルは筋がいいぜ」


 また、背中を叩かれた。痛みが積み重なってほんと冗談じゃなく痛いんだけど…、


「だが、一番は情報を集めれることだ。覚えておけ、冒険者にとって情報は財産であり命綱だ」


 本気マジでタメになるアドバイスだな…、


「俺が紹介してやるよ。俺はナインド町では顔が広いんだぜ」


 ザンゲフさんって本当に後輩の面倒見がいい先輩なんだな。

 でも、ザンゲフさんの紹介してもらえる冒険者って男なんだろうな…。声をかけられること多かったけど全部男の冒険者だったし。

 いや、もちろん紹介してもらえるのは嬉しいよ。

 

 だけどさ……、


「護衛依頼は報酬が増えることがあるんだべな」

「依頼人が次も頼みたいから色を付けたのではないかの」

「あの商人私達じゃなかったら死んでたって言ってたしね」

「それだけじゃないのー」

「今回のは大型のオークを狩った追加報酬だな」

「請求すれは細かい内訳書も貰えますよ」


 ヨコヅナ君達がロビーに戻って来た。



 タイプの違う女性冒険者5人に囲まれてる新人冒険者。

 デカい強面おっさん冒険者に背中をバシバシ叩かれる新人冒険者。


 どっちが羨ましいですか?


 俺は絶対前者の方が良い!!!


 

 昨日の晩、遅め目に帰ってきたクレアから簡単に話を聞いた。

 強調して話してたのは、「自分が一番多く討伐した」と「大型のオークを討伐した」と「打ち上げした店の料理はいまいちだった」の三つだ。

 「エロイベントは起こらなかったのか?」と聞いたら「何言ってるの?バカなの?死にたいの?」と言われた。

 どうやらエロイベントは起こらなかったようだ。


 今日組合所にはクレアと一緒に来たんだけど、「私は護衛依頼の事で組合所の人と話があるから」と言ってヨコヅナ君達と応接室へ入っていった。

 

 一人待ちぼうけを食らってた俺にザンゲフさんが声をかけてくれたわけだ。

 本当にザンゲフさんは良い先輩冒険者なんだよ。


「ケっ!どの口で調子に乗ってないなんて言ってやがんだ、あの新人」

 

 ヨコヅナ君に対してはこんな感じだけど…。その理由も俺は察している。


「なんでエルリナはあんな格闘だけの…」


 ザンゲフさんはエルリナさんに気があるっぽい。

 エルリナさんは髪型こそ奇抜だけど、髪型が普通なら中々美人だと思う。

 姉御肌の実力派美人女冒険者。好意を持っても何ら不思議はない。見た目からは分からないけどザンゲフさんはエルリナさんより年下だし。

 だから、エルリナさんがヨコヅナ君と仲良くしている事に嫉妬してるようなのだ。

 そんで、俺と仲良くしてるのは同類の仲間だと思ってるからっぽいんだよな~。

 つまり、クレアがヨコヅナ君と仲良くしてることに嫉妬してると…嫉妬仲間だと……。

 嫌だな~。

 まぁ、クレアの事はともかく、ヨコヅナ君に嫉妬してない、と言ったら嘘にはなるけど。

 

「あいつみたいに男一人女多のパーティーを組むと大抵悲惨な目に会うからアルも気をつけろ」


 ……確かにそういう『ざまぁ系噛ませ犬』キャラはいる。けど、ヨコヅナ君はそういうキャラには見えない。

 ヨコヅナ君は主人公の一番の親友キャラって感じ。


 そんで、ラスボスとの決戦間際で大勢の敵を前に、



 妄想、


「ここはオラに任せて、アルは先に行くだよ」

「ヨコヅナ君!?さすがに一人であの数は…」

「時間がないだ。さっさといけ!」

「くっ……絶対死ぬなよヨコヅナ君」

「死なないだよ。ヨコヅナは倒れないから横綱なんだべ」


 なんて、やり取りをして、

 ラスボスを倒した後、多くの敵の屍の中に立つヨコヅナ君が見つかり、


「良かった!生きていたんだな!……ヨコヅナ君?…ヨコヅナ!?」


 立ちながらもヨコヅナ君はすでに……。



 妄想終了。


 という感じのキャラだと俺は思うんだよな。

 などと、俺がちょっと妄想に耽っていると、


「アルとザンゲフ。二人仲良くなったんだべか?」


 カルを肩に乗せたヨコヅナ君がいつものニコニコ笑顔で声をかけてきた。


「ま、まぁ先輩と後輩って感じでな…」

「お前には関係ねぇよ」


 ザンゲフさん、そんなあからさまな態度取ると…、


「ヨコに負けた者同士仲良くなったわけじゃな」

「ヨコヅナに負けた者同士仲良くなったわけね」

「大将に負けた者同士仲良くなったわけか」

「ヨコヅナ殿に負けた者同士仲良くなったわけですね」

「ヨコちゃんに負けた者同士仲良くなったのー」


 ほら~。嫉妬してると思われた~。

 てか、女性陣一回一緒に依頼こなしただけで仲良くなり過ぎではないですか…、


「ちょっと早いだが昼飯にしないかって話になったんだべが、二人もどうだべ?」

「…それは、女性陣もご一緒に…」

「当然じゃ。ヨコが飯を作るのに行かぬわけなかろ」


 カルの言葉に女性陣も一斉に頷く。

 おお~!これを期に俺もそっち側に入れる。さすが親友ポジションヨコヅナ君だ!


「行く!ザンゲフさんも行きますよね?」

「まぁ…行ってやらん事もねぇよ」


 ザンゲフさんのツンデレはまるで可愛くないけど、内心滅茶苦茶行きたいと思ってるのが凄く分かる。


「嫌々なら来なくていいぞザンゲフ」

「あ、いやっ、嫌々なんかじゃねぇよ。それにアルに色々教えてた途中なんだ!、な?」

「そ、そうです。本当にタメになるからヨコヅナ君も聞いた方が良いと思う」

「それは聞いてみたいだな。それじゃ店に……」


 ヨコヅナ君が言葉を止めた、ニコニコ笑顔も消して真剣な表情で組合所の入口を見る。どうしたんだろ?

 

 ギィー…、組合所に扉が開き一人?入って来た。その瞬間ロビーが静かになる。

 一人の後に?をつけたのは数に疑問符をつけたわけじゃない。人間に見えないからだ。 

 人間のように二足歩行の黒豹。そう形容するしかない。ロビーにいる皆の視線がその者に向いていた。

 ユユク君のようなケモ耳尻尾タイプの獣人は何人も見てるが、ほぼ獣タイプの獣人は初めて見た。

 でも、種族名は聞いた事がある、確か…、


「ビーストマン族…」


 あ、こっちを見た!?俺の声が聞こえた?……いや、でも視線が少し違うか、ヨコヅナ君を見ている?

 視線を前に戻して受付に向かう黒豹のビーストマン。


「帰って来てやがったのか『狂獣』…」


 ザンゲフさんがらしくない小さい声で呟く。

 どうやらあの黒豹獣人を警戒している用だ。何気に俺を守るように立ち位置を変えてる。見た目に寄らず本当に良い先輩だよザンゲフさん。

 ロビーが静まり返ってるので俺も小さい声で、


「何ですか?『狂獣』って」

「奴の異名だ。本名は俺も知らんが上級冒険者だ」

「上級冒険者…、上級だと異名とかつくんですか?」

「上級じゃなくてもある奴はある。が、奴の場合冒険者になる前からそう呼ばれてるそうだ」


 ……確かにあの見た目のイメージから『狂獣』って異名がついていも不思議じゃないな。

 特にあの左腕。左腕だけゴツイ防具をつけてて、手の部分は五指に合わせてデカい爪のような刃物になっている。


「あと、奴は純血のビーストマン族じゃなく人族との混血らしい」


 混血……。ビーストマン族と人族で子作りしたって事だよな。

 ケモ耳尻尾だけなら良いけど、可愛くてもほぼ獣の相手との子作りは俺的にはNGなんだよな。ビーストマン族は人族に性欲を感じることはあるんだろうか?


「奴には気をつけろアル。何人もの冒険者がられてる」

「え?そんなことして冒険者を続けれるんですか?」

「噂では、やられた側が先に複数人で襲い掛かったらしく、正当防衛が認められたそうだ。そうじゃなかったら登録取消でここにはいないから本当なんだろうな。だが、実力差から殺さなくても対処出来ていたはずだとも聞いている」


 悪人ではないけど善人でもないって感じかな。

 

「何より奴は自らこう言っているそうだ「人族が嫌い」だとな」


 …確かに危険そうだから近づかない方が良さそうだ。

 でも、ちょっとダークヒーローっぽくてカッコ良くもあるな…、


 『狂獣』と呼ばれる冒険者は受付に行き少し何かを話した後、それだけで用が済んだのか、組合所の扉へと向かう。

 その途中で、


「カル、ちょっと降りて待っててくれだべ」

「……うむ」


 え?何やってんのヨコヅナ君?


「ちょっといいだか?」


 ヨコヅナ君が『狂獣』に話しかけた。

 

「誰だ?」

「オラはヨコヅナだべ。あんたの名前はピエルであってるだか?」

「…そうだ。何の用だ?」


 知り合い…て感じには見えない。話かけただけのヨコヅナ君に対して、『狂獣』は不機嫌そうに見える。いや、ヨコヅナ君を警戒している?。


 ヨコヅナ君は鞄から何かを取り出し、『狂獣』に差し出す。多分手紙かな、


「デルファからだべ。あんたに会ったら渡すように言われてただよ」

「デルファから?……ひょっとしてロード会の者か?」

「少し違うだ。その辺も読めば分かると思うだよ」


 『狂獣』が手紙を読む。なんか邪魔してはいけないような雰囲気なので、ロビーにいるほぼ全員が静かに二人を見ていた。


「………そうか。ヨコヅナ、仲間を助けてくれたようだな。礼を言う」


 『狂獣』の雰囲気が一気に和らかくなったのが分かった。


「全然帰れてないが、それでもデルファ達のことは大切な仲間だと思っているんでな」

「オラがしたくてしたことだべ、礼は要らないだよ。あ、そうだべ。これから昼飯に行くところだったんだべが、一緒にどうだべ?」


 ちょ、ちょっとヨコヅナ君?


「ああ、そうだな。デルファ達の事も聞きたいし、仲間の恩人の誘いを断るわけにはいかないな。一緒させてもらう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る