第279話 靴屋の倅は転生者? 5
「これで終わりだべかな…」
ヨコヅナ君がザンゲフさんを倒した後、訓練場にいた他の冒険者達も何故かヨコヅナ君につっかかって来て、
で、手合わせでヨコヅナ君にボコられた。ザンゲフさんの友達かな…。
ザンゲフさんも含めて一応フォローしておくと、普段は武器を使って冒険しているので、素手ではヨコヅナ君に敵わなくても、冒険者として下というわけではない……と思う。
「まだ一人残ってるわよ」
そう言ってクレアが俺の背中を押す。
え?何で押すんですかクレアさん?
「折角だからアルもシゴいてやってヨコヅナ」
「おい、ちょ、待てよ!クレア…」
「ここで逃げるようなら、さっさと荷物まとめて村に帰りなさい」
クレアは弓を射る時のような
「……そうだな。俺も冒険者だもんな」
強いと言ってもヨコヅナ君は人間だ。手合わせも出来ない奴に冒険者が務まるわけがないよな。
ヨコヅナ君の前に立つ。
「いつでもかかって来ていいだよ」
相撲の構えは取っていないけど、いつものニコニコしているヨコヅナ君とは別人にしか思えない。
俺は剣士だけど、格闘訓練も村で警備隊の人につけてもらってるので、素手で全然戦えないわけではない。
「す~…はっ!」
俺はダッシュして一気に間合を詰める、
と、見せて横に飛んで揺さぶりをかけ、ヨコヅナ君の顔面に拳を叩き込…
パシっ。
…もうとしたけど、簡単に手の平で止められた。てか、ヨコヅナ君の手の平硬ぇ~!
俺は続けてヨコヅナ君にローキックに喰らわせる。
硬っ!?え?ヨコヅナ君脚も硬い!
岩でも食べてるの?……いや、食べてるのは自分で作った美味しい料理か。
そんな事を考えてたら、
「っ!?痛っ」
あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ。「俺がヨコヅナ君の足を蹴ったと思ったら、いつのまにか尻もちを着かされてた」何を言っているか分からねぇと思うが……いや、分かるか。
見えてなかったけど軸足に足払いを喰らったんだと俺でも予想がつく。
「アルはもっと足腰を鍛えた方がいいだよ」
……俺がヨコヅナ君より足腰が弱いことは確かだけど、
「ちょっとムカつくな」
さっきのも手加減とか言うレベルじゃない。子供扱いだ。
「俺は剣士だ。せめて模擬剣を使えばちゃんとした勝負になる!」
「そう思うだか……エルリナ、この訓練場に備えの模擬剣とかないだか?」
「あるはずだぜ。ちょっと待ってな」
少ししてエルリナさんが模擬剣を持って来てくれた。渡された際に、
「気をつけな。つっても大将相手じゃ無駄だろうけど」
武器を持ったのは俺なのに俺が危険になったかのような口ぶりのエルリナさん。
俺だって幼い頃から剣の稽古を続けて来たんだ。
簡単には負けない、いや勝ってやる。
「いつでもかかって来ていいだよ」
さっきと同じ事を言うヨコヅナ君だが、今度は棒立ちだった。
俺の事を完全に舐めてる……それならそれでいい。
素早い面打ちで一本取ってやる。真剣なら殺してたことになるから俺の勝ちだ。
俺はジリジリと少しずつ間合いを詰め……、イケる!
俺はヨコヅナ君の向けて素早い面打ちを叩き込…
ピタっ!
え?、指でつまんで止められた!?
「ぶへぁっ!?……」
気がつくとベットの上だった。
「知らない天井だ……」
嘘です、知ってます。泊ってる宿の天井だ。
でも、俺はどうして……確かヨコヅナ君と手合わせしてて、痛っ…顎痛って……、
「目が覚めた?」
「クレア…俺、顎がめっちゃ痛いんだけど、頭痛もするし」
「ヨコヅナの張り手喰らってそのまま気絶したのよ。で、ヨコヅナがここまで運んでくれたの」
そっか…確か模擬剣で面打ちして、
「俺…剣をつまんで…止められたよな」
「そうよ。あれは見事だったわね」
見事?…見事とかそういうレベルじゃないだろ!あんなのチートだ!
「あれは魔法か…もしくはもっと凄い何か特別な力だろ?」
「ヨコヅナは魔法なんて使ってないわよ。あれは筋力、技術、戦術を合わせたもの。見事であっても特別な力とは言わないわ」
チートじゃないのか……。筋力と技術はまだ分かるけど…、
「戦術ってなんだ?」
「ヨコヅナは棒立ちだったでしょ。あれは誘いよ、頭部へ攻撃させる。戦術と言うより駆け引きと言うべきかしらね」
「……俺が弱いと、舐められてるんだと思ったけど…」
あれは誘い、駆け引きだったのか…、
「舐められてたわよ。アルが弱いのも確かだし」
…一撃で負けたわけだから弱いのは認めるけど、
「でも、駆け引きをしたって事はヨコヅナ君は模擬剣を持った俺を脅威に思ったってわけだろ」
「違うわ。あの後ヨコヅナはエルリナやシオンとも手合わせしたの、二人も模擬剣ありで。その時もヨコヅナは初め棒立ちだったわ、あの二人は誘いと分かってたからアルのような無様な真似にはならなかったけど」
二人にも同じ駆け引きを…、
「でも、ヨコヅナが勝ってたわ。知ってる?ヨコヅナは女性は殴らないって決めてるんだって。二人を怪我しないように投げた後張り手を寸止めして勝ってた」
俺は意識失うぐらいの張り手喰らったのに、女性には寸止めなんだ…、
それ男女差別だろ!
まぁ俺も実力が圧倒的に上だったら同じことするけど。
「私との手合わせでも殴らないのか?って聞いたら、「鏃付きの弓矢で射られてたら死ぬ可能性があるから殴るだ」って言われた。エルフ差別だわ!」
「いやそれは差別じゃなくて、当たり前の区別だろ」
鏃付きの弓矢で射ってくるまな板狂暴エルフに手加減なんて誰もしねぇよ!
それはともかく…
「ヨコヅナ君はなんで同じ駆け引きをしたんだ?」
その質問には直ぐに答えずクレアは少し考えてから。
「これは憶測でしかないけど、ヨコヅナの手合わせは、もっと強い相手を倒す為の練習をしている、私にはそう見えたわ」
「……俺なんて眼中にないって事か…」
一撃で負けたから文句は言えないけど…。
「稽古なんだから、何を想定して戦おうがヨコヅナの勝手でしょ」
「それは…そうだけど………」
子供扱いどころか、俺を見てすらいないなんて…真剣なら…。
「カルからの伝言」
「カルから?」
「当たり前の話だけど「真剣でヨコと戦おうとなんて絶対に思うでないぞ。死ぬかよくて再起不能じゃ」だってさ。真剣だとヨコヅナも殺す気で戦うって意味でしょうね」
……それはそうだよな。真剣なんて使ったら殺されても文句はいえない。
でも、それだと、
「俺はヨコヅナ君には勝てないのか…」
「ヨコヅナより沢山鍛錬すれば勝てるんじゃない?分かんないけど」
鍛錬だったら俺だって五歳の時からしている、それどころか前世からだ!
……でも、ヨコヅナ君は畑仕事してた時も、朝に稽古してたな…。
そう言えばクレアも「疲れてるから自己鍛錬を休むなんて、随分と温いわね」とか言ってたっけ。
「鍛錬頑張るしかないか」
「…私はもう自分の部屋に戻るわ」
クレアは部屋を出て行こうとして振り返り、
「そうそう言い忘れてたわ。明日と明後日の二日間は別行動ね。私はヨコヅナ達とエルリナ達との6人で護衛依頼行ってくるから」
「…え?俺は?」
「その様子じゃ明日はまともに動けないでしょ」
そのまま俺の意見は聞かずクレアは部屋を出て行った。
ええ~!?、俺も仲間に入れてくれよ…
ヨコヅナ君、あのハーレムパティーで冒険行くの?……
絶対エロイベント起きるじゃん!
俺も仲間に入れてくれよ~。
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