第278話 靴屋の倅は転生者? 4
「ようやく下級に昇格出来たわね」
「早い方らしいぞ。研修をサボってたにしては」
俺とクレアは下級に昇格する事が出来た。
ユユク君のお陰で一回の討伐で多くの獲物を狩れたんだけど、小物ばかりだったのと研修代わりの
「前言ってたようにヨコヅナ君達と組んでみるか?」
「そうね。同じ下級でもヨコヅナは『バジリスク殺しの期待の新人』なんて拍がついてるから、私も大物を狩りたかったけど……仕方ないわね」
ユユク君から聞いたところ、バジリスク並みの大物はゴゴ洞窟に入らないと基本狩る事は出来ないそうだ。森でバジリスクを狩れるのはかなりのレアケースらしい。
でも、洞窟は中級冒険者が5人以上でパーティーを組んで入るのが推奨されているそうなので、今の段階で入るのは無謀だしな。
「ヨコヅナ君達組合所にいるかな?」
カルを肩に乗せてるからいればすぐ分かるんだけどな。
組合所のロビーで周りを見渡すとカルを肩に乗せたヨコヅナ君は直ぐ見つけれた。
だけど…
「ウィピ昨日夜更かししたから眠いのー。ZZZなのー」
「オラの肩で寝ないでくれだべ」
逆の肩にも女の子が乗っていた。
カルと同じぐらいの体格でおしゃれな魔女っ子って感じのちょっと可愛い女の子。
他にもヨコヅナ君の傍に女性が二人。
「ヨコヅナ殿、腕の傷は大丈夫ですか?」
「初めから大丈夫だべが、もう傷は塞がっただよ」
軽鎧の美人さん……何かこう、モブキャラだけど美人だからちょっと注目される女性冒険者って感じ。
「大将、今日はどうするよ?護衛の依頼でも受けてみるか?」
「護衛だべか……オラに出来るべかな?」
緑髪のモヒカンロング!?……そんな驚くことじゃないか。ファンタジーなら、あれぐらい奇抜な髪型の女性冒険者もいるよな。
それより…
「いつの間にヨコヅナ君ハーレムパーティー組んだんだ!?」
カルも入れたら女性4人じゃん!
クレアが言ってた『バジリスク殺しの期待の新人』だからモテるの?
でもそれ、ヨコヅナ君のキャラポジションと違くない?
俺がそんなことを考えてると、クレアがヨコヅナ君に近づいて行き、
「ちょっとヨコヅナ」
周りの女性達など気にせず声をかける。
「クレア、おはようだべ」
「エルフ…大将の知り合いか?」
「そうだべ」
「我らと同期の冒険者じゃ」
「ふ~ん…で、何か用か?」
「あんた何かに用はないわ。私が用があるのはヨコヅナとカル。他は邪魔だからどっか行ってくれる」
おいおい!何でそんな喧嘩腰なんだよクレア?多分結構先輩だぞ。
「あぁん…大将と同期って事は半月程度の新人だよな」
「生意気なのー」
「エルフは傲慢な者が多いと聞きますが、本当のようですね」
やっぱり怒った!冒険者やってる女性だから凄まれただけでかなり怖い。
「新人?生意気?何言ってるの、冒険者は実力主義でしょ。月日が経ってるから自分の方が上なんて思ってる温い奴は魔獣に食われて死ぬのがオチよ、冒険者辞めることをお勧めするわ」
さらに挑発するだと!?クレア、怒りの炎への薪のくべ方が上手すぎじゃね!
止めた方がいいか?でも怖いしな…。てか何でヨコヅナ君は平然としてるんだ?
俺がどうしようが迷っていると、
痛てっ!?突き飛ばされた……
「おい、新人」
いや、突き飛ばされたんじゃない、ちょっと体がぶつかっただけ。それだけで突き飛ばされたと思うほどその男と俺の体格が違い過ぎた。
デケェー!?ヨコヅナ君より二回りぐらいデケェ!
「何こいつ?魔モノ?」
クレア!?物怖じしないにも程があるだろ!
「魔モノじゃねぇよ!」
「一応人間だぜ」
「一応人間なの~」
「一応人間ですよ」
「一応じゃねぇ!正真正銘純血の人族だよ!」
ボケとツッコミみたいになってる。意外と冗談が通じる人なのかな…
「前にも増して調子に乗ってんじゃねぇか」
新人って言ってたけどぶつかった俺のことじゃない、俺は視界に入ってすらいない。視線の先はヨコヅナ君だ。
「調子に乗ってるつもりはないだよ」
これあれか!新人が女性にチヤホヤされてるように見えたから、先輩冒険者に絡まれるって感じのお約束的イベント。
チーレム物だったら返り討ちにするまでがお約束なんだけど、チートないし。こんなの返り討ちにするとか無理じゃね。
「また大将にボコボコにされたいのかよ?ザンゲフ」
「こやつが前に言ってた、ヨコが返り討ちした先輩冒険者か。奇妙な縁もあったものじゃな」
え?既にイベント終わってんの!?
「調子に乗ってると言えるのはザンゲフの方だべ。アルにぶつかったの気づかなかっただか?」
「あぁん?」
ここで俺に振るの!?
ヨコヅナ君、俺が居るのに気づいてくれてたのは嬉しいけど、何で男だけ俺に振るんだよ!
「誰だお前?」
「…俺はヨコヅナ君と同期の冒険者で、アルと言います」
「ヨコヅナと同期ってことはお前も新人か…」
男が正面向いて俺に近づいてきた。圧が半端ねぇ。ヨコヅナ君と違って強面だから、デカくてただ怖い。
俺は思わず後ずさってしまう。
「……がはははっ。新人はやっぱそうじゃねぇとな、ヨコヅナとは大違いだ。ぶつかって悪かったな。俺はザンゲフ、中級冒険者だ」
「あ、はい…」
褒められた?ザンゲフさん意外と良い人?
「何あれ、ダッサ。パーティー仲間として恥ずかしくなるわ」
「同期の男の子でもヨコちゃんとは全然違うのー」
「仕方ありませんよ。ザンゲフさんを前にしたら大抵の新人はああなります」
「大将が別格過ぎるだけだ。比べたら可哀そうだぜ」
ですよね~。明らか小者と思われてますよね~。
でも、本当に仕方なくね。ザンゲフさんデカいだけじゃなくてベテラン冒険者だろうし…
「アルは歳いくつだ?」
「今19です」
「なら俺の2コ下だな」
2コ下?2コ下って何だ?……まさか、
「ザンゲフさんはおいくつで?」
「俺は21だ」
嘘ん!!!?
その後、
「ヨコヅナ。面貸せ」
「また手合わせだべか?」
「そうだよ。呼んでくれって言ったのはお前だろうが」
「…カル、どうするべ?」
「よいじゃろ。我は前回見れなかったしの」
「私も付き合うぜ。ウィピとシアンも行くだろ」
「行くのー」
「行きます」
「面白そうね。私も行くわ。アルはどうする?どっちでもいいけど」
「俺も行くよ」
で、今はナインド町にある訓練場に来ている。こんな場所あったんだ。
訓練場の中央でヨコヅナ君とザンゲフさんが向かい合ってる。
ヨコヅナ君は褌一丁だ。相撲とは聞いてたけど、恥ずかしくはないのかな…、
「エルリナが言っていた通り、ふ…あの格好で戦うのですね」
「褌一丁なのー、お尻丸出しなのー」
「大将の身体は見応えあるよな」
道中女性冒険者三人の名前を教えてもらった。モブ美人のシアンさん。魔女っ子のウィピさん。モヒカンロングのエルリナさん。
パーティー名は『龍炎の騎士』らしい、カッケェな。
でも、エルリナさんは何でヨコヅナ君の事を大将って呼ぶんだろ?
「ヨコはあの格好で戦う方が動きがよい」
「稽古もあれでやってるものね」
「ん?なんでクレアがそんなこと知ってるんだ?」
「朝狩りしてたら偶然見つけたのよ」
朝狩り…前に誘われたやつか。
「あの大きいお尻に矢を射ったんだけどかわされたわ」
「ひでぇな!おい」
「鏃は外してたわよ」
そうじゃなかったらまな板狂暴エルフだよ。
ヨコヅナ君が四股を踏み構えを取る。本当に相撲なんだな。
「開始の合図はいらないだ。いつでもかかって来ていいだよ」
自分より大きくて先輩の中級冒険者相手に、まるで自分の方が格上のような言葉。
「ちっ。やっぱり調子に乗ってんのはお前じゃねぇか」
「前回を忘れただか?武器を使いたいなら取って来て良いだよ」
「ふざけんな!」
怒鳴りながらザンゲフさんは、アメフトとかに似た構えを取る。
そして少し睨み合い、両者ほぼ同時に動いて正面からぶつかり合う。
うぉ!凄ぇ、ヨコヅナ君が押し勝った。
そしてバランスを崩してるザンゲフさんに組み付いて地面に頭から叩きつけるように投げる。
結構ヤバい音したんだけど…大丈夫かあれ?
と思ったけどザンゲフさんは割とすぐ立ち上がってヨコヅナ君に殴りかかる。
ヨコヅナ君はデカい拳をかわしつつカウンターで張り手、それも続けて何発も叩き込む。
そしてふらふらになるザンゲフさんを体重を乗せた肘打ち、…相撲のカチ上げだったかな、でぶっ飛ばした。
さすがに立てなくなるザンゲフさん。
滅茶苦茶強ぇヨコヅナ君、ほんとマジ横綱じゃん!!。しかも容赦ねぇ、ユユク君が怖いって言った意味が分かった。
「ヨコちゃんの圧勝なのー!」
「想像以上、ですね…。力が強いだけじゃない…」
「対人格闘戦だと、大将の技の凄さもよく分かるだろ」
よかった、驚いてるのは俺だけじゃない。そうだよなヨコヅナ君が普通じゃないんだよな。
「やっぱりヨコヅナと手合わせする時は鏃付きの矢で戦うしかないわね」
さっきは狂暴エルフとか思ったけど、これ見たら俺も同感だ。
「なかなかやるのザンゲフ。ヨコの攻撃を喰らい続けてあそこまで耐えてた人族は我も初めて見たぞ」
カルはそっち褒めるんだ……
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