第264話 ジェネレーションギャップかの~


「右から来ます!気配は二つ、凄い速さです!」


 ユユクの声の後直ぐ、バァウッ!!と茂みから2匹の魔獣がヨコヅナに跳びかかって来た。


「危な…」


 ガシっ!


「「「っ!?」」」

「…狼だべかな」


 ユユクのおかげで身構えていたヨコヅナは、両の手で跳びかかって来た2匹の魔獣の喉元を掴み、


「ふんっ!!」


 ドゴコンっ!!と2匹同時に地面に叩きつけ絶命させる。


「「「っ!?……」」」

「狼は狩ってもポイントにはならないだべか?」


 ヨコヅナの質問に三人は驚きで直ぐに返答出来ない。


「ヨコ、これは狼ではなくヘルハウンドという魔獣じゃぞ。ちょっと小柄じゃがの」

「それならポイントになるだか?」

「そう思うがの…どうなのじゃ?」


 驚きで言葉が無かった三人がようやく、


「お、おう!、もちろん」

「むしろ討伐報酬もポイントも高い方なのよ」

「ヘルハウンドは凶暴で、被害報告も多いので」


 と、質問に答える。


「なら狩れて良かっただ」

「雑魚でも被害数によってはポイントが高いということかの」


 ヘルハウンドはゴブリンのような雑魚ではない。本来新人冒険者が出会ったら被害者側になってしまう魔獣。

 ヨコヅナとカルレインからすれば雑魚なので、ただの割のいい獲物でしかないが。


「このヘル…何とかも切り取るのは耳で良いんだべか?」

「あ、ヘルハウンドの切り取る箇所はその炎のような特徴的な尻尾です」


 切り取り作業を終え次の獲物を求め探索を続ける。




「……皆さん止まってください」


 また、ユユクが何かの気配を感じ足を止める。視線は上を向いている。

 皆も視線を上に向けると、生い茂る木の枝の隙間から見える空に飛翔する物体が見える。


「なんだべあれ?鳥じゃなさそうだべが…」

「落とせば分かるじゃろ」

「ユユク、届くか?」


 ユユクの使用する武器の一つにスリングショットがある。


「……厳しいですね、あの高さだと」

「我がやる」


 会話を遮るようにそう言ったカルレインは飛翔する何かを指さし、ピュンっと光線を撃ち出す。


「「「???」」」


 光線は見事に命中し、飛翔する何かがボトっと地に落る。


「羽の生えた…猫?」


 体を撃ち抜かれ落ちてきた見た事ない獣に首を傾げるヨコヅナ。


「……あ、え~と、それはズーといってヘルハウンドと同等以上に被害報告がある魔獣です」

「ズーじゃと…これをズーと呼んではズーに失礼じゃろ」


 カルレインの知っているズーは大鷲の身体に獅子の頭部といった姿なのだが、撃ち落としたのは鳶の身体に猫の頭だ。


「え、そうなん、ですか?確かにもっと大きいズーが目撃された情報もありますが」

「……我の知識よりどれも小柄じゃな(時代の違いかの?)」

「これは何処を切り取れば良いだ?」

「ズーは羽が討伐の証明になります……なるんですけど…」

「いや、それよりさっきのなんだ?」

「ズーに向かって何か光ったけど」

「魔法じゃよ。他にあるまい」


 指から光を放って魔獣を撃ち落とすなど魔法以外あり得ないのだが。そんな魔法を見た事ないから『銀の羽』の三人の頭の中が?で一杯になっている。




「次は、何が出るかの~♪、何が出るかの~♪」

「楽しそうだべなカル。これも言ってしまえばただの狩りだべ」

「それでも畑仕事に比べれは十分冒険者をやっておる」

「…まぁ人に被害を出す魔獣を討伐したと言われれば、冒険者っぽいだべかな」


 そんなことを話してるヨコヅナとカルレインの後ろで、


「ねぇちょと!ゼクス、あの二人本当に初級の新人なの?」

「ああ、それは証明書見せてもらったから間違いない」


 小声で話すゼクスとティナ。


「あり得なくない?体が大きくて力が強い新人はザラにいるでしょうけど、ゴブリンやヘルハウンドを素手で殺すサマは、ベテラン冒険者並みの手際の良さだったわよ」

「確かにな…だが狩人として獣を狩り慣れていたなら、まだあり得なくはない…と思う」

「そうね。男の子の方はそれで良いけど、……あの小さい女の子は何なのよ?指向けてピュンってなって、ズーが落ちてきたけど。あんな魔法あるの?」

「あれは……光魔法…の可能性があると思うのだが、……しかしな~…」

「光魔法って…魔法使いを千人集めたとして一人いるかどうかって言われてるレア属性よね?」


 魔法の使い手が王国人口の1%以下と言われてるので、


「ああ、十万人に一人いるかどうかの天才と言う事になるな」


 二人は知る由もない。本来のカルレインの凄さを表すには、十万程度では単位が小さすぎることを。




 またしばらく森を歩いていると、


「……皆さん止まってください」

「…次は何処からだべ?」

「いえ、近くにはいません」


 ユユクが気づいたのは生き物の直接な気配ではない。

 片膝をついて、地面を探るユユク。


「ですがそう遠くもありません。巨大な何かが這った跡があります。おそらく蛇、ですが並みの大蛇なんかよりずっと大きい…」

「ひょっとしてバジリスクの痕跡?」

「可能性はあります……、ゼクスさんどうしますか?」

「決まっている!狩りにいくぞ案内してくれ」

「もし本当にバジリスクだとしたら危険ですよ」


 正直追うのは反対なユユク。


「相変わらす臆病ねユユクは、冒険者でしょ」

「ですが、大型魔獣討伐用の装備を誰も持っていません」

 

 今のメンバーで一番大きな武器はゼクスの両手剣。他は細剣やナイフ。

 飛び道具はユユクの持つスリングショットだけで弓矢も無いのだ。

 ユユクが追うのを反対なのも無理はない。


「実力はあるといっても二人は新人ですし、ここは…」

「出発時にも言ったが我らのことは気にする必要はないぞ。バジリスクと決まったわけではないしの」

「その通りだ、ただデカい蛇の痕跡を見つけたから逃げたではとんだ笑い者だよ」

「……分かりました。ですが、様子を見て危険と判断したら引いてくださいよ」


 ひとまず跡を追うことで話がまとまる中、ヨコヅナは(バジリスクって聞いたことあるだな…)と考えながら記憶を掘り起こし、

 

「バジリスクって、確か…睨まれたら石にされるんじゃなかっただか?」

「ふっ、それは迷信だ。というより小説に登場するバジリスクの設定だよ」

「さすがに石化されたという情報はありません」

「あはは、その辺は新人ね」

「そうなんだべか」


 本当に石化されるんなら、ヨコヅナも反対しようかと思ったが、


「違うなら大丈夫だべかな…」


 そう考えるヨコヅナの、肩に乗るカルレインが小さい声で伝える。


「本物のバジリスクでも石化はされないのじゃが、睨まれて動きを止められるのは本当じゃぞ」


 石化は誇張された情報だが、誇張されるには元となる事実がある。


「デルファが超能力で物を動かすじゃろ。似た超能力でバジリスクは動物の動きを止めるのじゃ。その隙に噛みついて毒を流す。人族からすれば凶悪な魔獣に違い無いぞ」


 そして、小説に登場するのはそれだけ多くの人族に被害を与えている魔獣という証拠なのだ。


「カルでも危険と思うなら追うのは止めた方が良いじゃないだか?」

「さっきも言ったがバジリスクと決まったわけではない。それに…」

「それに?」

「危険を楽しんでこそ冒険者じゃよ」


 やっと望んだ冒険らしくなってきたと、カルレインは笑みを濃くする。

 



 だがしかし、


「チっ、ハズレじゃ」


 打って変わって不満顔で舌打ちするカルレイン。


 ユユクが痕跡を辿り進んだ先には、デカい蛇がいた。ユユクの予想通り並みの大蛇より遥かに大きい。


「あれが!?」

「バジリスク!?」

「何て大きさなの!?」


 茂みに隠れながら、その姿に慄く『銀の羽』の三人。


「確かにデカい蛇だべな…」


 ヨコヅナが見た事ある蛇の中でも一番大きい。全長が5mは超えてるし太さが異常に思える、小柄な人間を丸飲みしても不思議ではない。というか今、口からはゴブリンと思わしき下半身が出ている。食事の最中のようだ。


「あれがバジリスクだべか?」

「…違う、ただのデカい蛇じゃよ…まぁ、予想はしておったがの」


 バジリスク(?)に対して『銀の羽』とは温度さが激しく、落胆してやる気の失せた様子のカルレイン。だが予想はしていた、本当にバジリスクが一匹でも森にいるなら多くの被害が出ていて討伐隊が組まれるレベルの魔獣なのだから。


「毒も無いからさっさと討伐してしまえ」

「そうなんだべか」

「待て、新人二人は待機だ。ここは僕達でやる」


 前に出ようとするヨコヅナをゼクスが止める。

 カルレインは違うと判断しているが、ゼクス達はあれをバジリスクと認識している。

 誰が討伐しようが報酬・評価は均等配布になるが、名声は違う。 

 『バシリスク殺し』ともなれば、名声はナインド町で一目置かれる冒険者となるだろう。


「幸い食事に夢中でこちらには気づいてないようだ。背後から近づき一刀両断にする」

「ゼクス、それは…」

「チャンスなんだ、悩んでる暇はない。ユユクとティナは奇襲が失敗した時のフォローを」

「分かったわ」

「ですが…」


 ティナは直ぐに頷く、ユユクはさらに何か言おうとしたが、ゼクスは茂みから出てしまう。



「……変だべな?」

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