第265話 基準は討伐数かの
「……変だべな?」
ヨコヅナはバジリスクに詳しくないが蛇については経験上知っていることがある。
蛇は周辺の感知能力に長けている。背後からこっそり近づいても、まず気づかれる。
蛇は臆病で危険を避ける。人間の気配を感知すれば普通は逃げる。
食事中とはいえゼクスが近づいてるのにじっとしている今の状況は変なのだ。
「何も変ではないぞ」
首を傾げるヨコヅナにカルレインは言う。
「あの蛇がゼクスを逃げるに値しないと考えているだけじゃ」
間合まで近づいたゼクスが
「ハァッ!」
切りかかろうとした瞬間、バジリスク(?)が振り向きゼクスに何かを飛ばす。
「なっ!?」
それはゴブリンの死骸、バジリスク(?)が咥えていたモノだ。
驚きで動きを止めたゼクスを、遠心力が乗った尻尾の一撃が弾き飛ばす。
地を転がるゼクスに、素早く噛みつくバジリスク(?)。
「ぐぁーっ!!」
「ゼクス!?」
「ゼクスさん!…」
ユユクはゼクスの危機にスリングショットでバジリスク(?)を射撃する。弾は頭部に当たり噛みつかれたゼクスは放される。
だが、それはダメージが大きいから放したわけではない。
バジリスク(?)の内心を言葉にすると、「痛てぇじゃねかチビ!さきに食い殺してやる!!」つまりムカついたから標的を変えただけだ。
ユユクに向かってズルズルと迫るバジリスク(?)。近くにティナも剣を抜いて構えて居るのだが、
「ゼクスが、あんなあっさり…」
迫りくるバジリスク(?)の恐怖に耐えかねティナは、
「無理でしょこんなの!?」
背を向けて逃げ出してしまう。
「ティナさん!?……だから反対したのにっ!」
意に反する絶望的な状況に『銀の羽』に入ったことを後悔するユユク。
そんなユユクの前でバジリスク(?)が動きを止める。
「待機と言われただが、こうなったら仕方ないべ」
ヨコヅナが間に立ちはだかったからだ。
この時のバジリスク(?)の内心を言葉にすると「こいつは強そうだな…」だ。
「ユユクは邪魔じゃから下がっておれ」
「え?あ、はい」
カルレインの指示に素直に従い下がるユユク。
「一人で大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃよ。ユユクは邪魔になるぬようにゼクスの治療をしておれ」
「は、はい」
ここから少しの間バジリスク(?)視点。
________________________
強そうと言っても外の生き物だ。しかも爪や牙も持たない二足立ちの生き物。
爪や牙の代わりに道具を使う生き物だが、こいつはそれも持っていない。
俺様に敵うはずがない。
あの食いごたえありそうな体に噛みついてやれば…
バシィっ!痛ってぇ~!!?え?え?岩で殴られた?。
…岩なんて持ってないよなこいつ、次はもっと速く噛みつけば…
バシィっ!やっぱ痛てぇ!?こいつの前足に岩がついてるのか?
…真っすぐ行ったら駄目だ。右、と見せて左からっ!、
バシィっ!痛てぇってだから!!調子に乗りやが…
ズガンっ!ぐえっ!?こ、こいつ延髄に、そこはあかんやろ!
そ、そうだ!頭を高くすればこいつの攻撃は届かない、噛みつきじゃなくて首に巻きつけば…??…こいつの方から巻き付いて…後ろに回った?、あれ俺様の体持ち上が…
ズドォンッ!!あぅ痛っ!!?…意味、分かんね…。何で俺様が地面に叩きつけられてんの、俺様のほうがデカいのに…
ひ、一先ず距離を、最初の奴みたいに尻尾で…ボスっ、重っ!?。え?コイツ岩なの?岩がついてるじゃなくてこいつが岩なの?
あれ、何か、屈んで…
ドガァンっ!!!ぐへぇあぁ!!?…、岩が突進してきた!??
も、もう無理、こんな動く岩なんて勝てるわけないてぇ~。逃げよう、逃げるしか、逃げ…
「まだ動けるだか…大きい魔獣だけあってしぶといだべ、なっ!」
ぐしゃぁっ!!!
___________________
「…初めて見たの。四股にはそんな使い方もあるのか?」
「親父からは「人には使うな」と言われてるだ」
「……じゃろうな」
ヨコヅナの四股で頭を踏み潰され絶命したバジリスク(?)を見れば皆同じように思うだろう。
「バジリスクを素手で圧倒!?……彼は一体?」
「ゼクスの容態どうだべ?ユユク」
「え、あ、幸い命に別状はありません。
「それは良かっただ」
「じゃが今日はもう動けんじゃろ。ユユクが背負って帰れるか?」
「はい、大丈夫です」
「ティナはどこ行っただかな?……探しに行った方がいいだべかな」
「探しに行く必要はありません。仲間をおいて逃げた者は申請から除外される。これは冒険者組合としても正式な決りです」
今までと違い厳しい口調のユユク。
「ナインドで完了申請する時、「ティナさんは逃げた」と二人もそう言ってください」
組合の正式な決りではあるが、他のパーティーが許せば除外はされない。あと、降格などの罰はない。情報を持ち帰るなど、状況によっては逃げる事が正しい場合もあるからだ。
「あれでは仕方ないが……ひょっとして初犯ではないのか?」
「はい…」
「ゼクスの意見は聞かなくて良いんだべか?一応『銀の羽』のリーダーなんだべ?」
「組合は多数意見を重視します。組合からすれば誰がリーダーかなど関係ありませんから」
「…分かっただ。ところでこの蛇は何処を切り取れば良いだ?」
「え~とその…バジリスクは素材としても価値が高いので、丸ごと持って帰れるのが一番良いんですけど……流石に重すぎますよね」
「重さは大丈夫だべ。籠に入るべかな……」
どうやって籠に入れようかと悩むヨコヅナ。
「この蛇はバジリスクではないぞ、それでも価値あるのか?」
「え、違うんですか!?」
「バジリスクには頭に
「バジリスクモドキは知ってますが…普通サイズの蛇ですよ。魔獣と認定もされてませんし」
「じゃからそのバジリスクモドキが魔素の影響で巨大化したのじゃろ」
「え~と、ですのであれがバジリスクなのでは?鶏冠は石化と同じで小説の設定だと聞いてたんですが…?」
「……ふむ、やはり我の知識とは少なからずズレがあるの。まぁ持って帰れば分かることじゃな」
何とかバジリスク(?)を籠に入れ、ナインド町への帰り道。
「帰りは歩きか、めんどいの」
「それが普通だべ」
さすがにカルレインも今はヨコヅナの肩には乗っていない。
「我は冒険者職業で言えば魔法使いじゃからの、体力が無いのじゃ」
「関係あるだかそれ?」
確かに魔法使いは他と平均で比べて体力が無いのは事実だが、さすがに冒険中他人の肩に乗って移動する者はいない。
「ユユクは斥候としてかなり有能じゃな」
「それはオラも思っただ。お陰で奇襲されないし、痕跡を見つけてくれたから大物を狩れたべ」
適格な索敵の能力を見せてたユユクを称賛するカルレインとヨコヅナ。
森にいる間ず~~~と神経を研ぎ澄ませて襲撃に備え続ける事は不可能。
ユユクは先頭で警戒しているとは言えそれは普通にだ、会話だってしていた。なのに今回見せた索敵能力。
「さすが本職の冒険者だべな」
ヨコヅナもニーコ村で狩りをしていたので索敵が出来るつもりだったが、ユユクと比べたらまだまだと思い知った。
「お二人のほうが凄いと思いますよ」
二人の素直な賞賛にユユクは苦笑いする。
「自分一人では大物なんて狩れませんから、それに臆病ですし…」
ユユクは戦闘力に乏しい。
索敵出来ても討伐出来なければ意味はない。もし一人でヘルハウンド2匹と遭遇してしまったら逃走を選ぶ。
「ユユクは慎重なだけで臆病じゃないと思うだよ」
「ユユクが臆病者じゃったら、ゼクスは死んでおったじゃろうな」
臆病者とは、とっさな危険時に動けなくなる者、逃げ出す者だ。
しかし、ユユクはゼクスを助ける為にバジリスク(?)にスリングショットを撃ち、逃げ出すことも無かった。
「『銀の羽』だけではこの蛇は狩れんかったわけじゃから、追うのを反対したユユクが正しかったとも言えるしの、危機察知も冒険者としては重要な能力じゃ。これからも長所を伸ばししつつ短所を補う努力をするのじゃな」
「……カルレインさんと話してると実家のおばあちゃんを思い出します」
「…我の言葉に含蓄があることは事実じゃが、こんな少女におばあちゃんは酷いじゃろ」
「ははは、すみません」
「実際はそのおばあちゃんよりもずっとカルの方が…熱っ!?」
カルレインの光魔法がヨコヅナの肌を焼く。
「余計な事言わんでよい」
「……今のって…光魔法、ですよね?」
「そうじゃ」
「…人に向けて大丈夫なんですか?」
「どんな魔法でも同じじゃが、熟練者なら微細な出力調整が出来る」
「あ、そうですよね、ズーを落とした時より弱く撃ったんですね」
「いや、ヨコは頑丈じゃから寧ろ強めに撃っとるぞ」
「そんな魔法をツッコミがてらで撃たないでほしいだよ」
ヨコヅナはツッコミ返しのように言ってるが、
「はは、ほんと凄いですねお二人は……」
ユユクはやはり苦笑しかできなかった。
ナインドに戻ると大騒ぎになった。
正確にはヨコヅナ達が戻る前から組合所では少し騒ぎになっていた。
逃げたティナが「バジリスクに襲われて仲間がやられた」と吹聴していたからだ。
討伐隊を組むべきかとザワザワしているところに、
「フリー討伐で魔獣狩ってきただ、受け渡しはここで良いだべか?」
と、巨大なバジリスク(?)の潰れた頭がはみ出した籠を背負いながらヨコヅナが普通に入って来たため、
「「「「「「「「「「ええぇぇ!!!!?」」」」」」」」」」
組合所のロビーに居た全員が目玉を飛び出すほど驚いていた。
それを見てヨコヅナは、
「…んん~?間違えただか?」
実際違ってはいる、素材の受け渡しは別に受取所がある。みんなが驚いてる理由も別だが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます