第263話 やっと冒険者らしくなりそうじゃの
「次はどの依頼請けるべかな?」
「ん~、初級では請けれる依頼がほとんどないの」
冒険者組合のロビーで貼り出されてる依頼書の中から次を探すヨコヅナとカルレイン。
「ポイントが高いのは『国営土木業』だべな」
「それ受けたらまた十日間かかるじゃろ。一カ月限定なの忘れたのか?」
「…これを受けても一カ月には余りあるだよ」
「そうではない!…もうよい依頼は我が選ぶ」
カルレインが考える冒険者としての活動は、「遺跡で宝を見つける」とか「ドラゴン退治をする」とかだ。いや、新人冒険者の多くは似たことを想像するだろう。
だが、ヨコヅナは「冒険者組合が依頼として貼り出してるんだべから、農業でも土木業でも冒険者活動だべ」と思っているのだから意見は一致しない。
「むぅ~…。溝さらい、引っ越し作業、町の巡回…。なんじゃ、冒険者らしい依頼全くないではないか!」
ヨコヅナ達は初級に分類されるのだが、初級は見習い。遺跡・洞窟の探索、護衛や討伐などの依頼は請けれない。
しかし、初級でもそれらを請けれる方法も存在する。
「君たちは新人冒険者かい?」
「…そうだべ」
ヨコヅナ達に他の冒険者が話しかけてきた。
「僕達と一つ組まないか?やり甲斐のある依頼を請けれるよ」
階級が上の冒険者と臨時パーティーを組めば、初級でも上の依頼を請ける事が出来るのだ。
「僕はゼクス。中級冒険者でこのチーム『
堀の深い顔の男性冒険者ゼクス。職業:剣士
「私はティラ、下級冒険者よ」
化粧が濃い女性冒険者ティラ。職業:軽剣士
「ぼくはユククです。下級冒険者です」
デミ族との混血である男性冒険者ユユク。職業:斥候
「オラはヨコヅナ、初級だべ」
「我はカルレインじゃ」
ヨコヅナ達は話しかけてきたゼクスの提案を受けることにし『銀の羽』と臨時パーティーを組んだ。
「それじゃ申請も済んだしフリー討伐に出発するか」
フリー討伐は魔獣・魔モノを適当に狩ってその一部(素材として売れるモノは大部分)を討伐の証として持ち帰り報酬を得る。フリー討伐と言ってもちゃんと出発時に申請しないと、評価ポイントは貰えない。
下級からフリー討伐の申請は出来る。
フリー討伐ですら初級の申請を受け付けないのは、組合としては今のヨコヅナ達のように新人に上の冒険者と交流して欲しいからだ。上の冒険者からしても見込みありそうな新人に声をかける口実になる。
「約束通りこれを頼むな」
「わかっただ」
ゼクスがヨコヅナに渡したのは大きな籠。狩った獲物によっては丸ごと持って帰る必要もある。ゼクスがヨコヅナに声をかけた本音は荷物持ちとして使えそうだからだ。
ゼクスのように上の冒険者が新人を利用とする事は多い。騙すような真似をする者もいる。ゼクスは評価・報酬を平等分配で臨時パーティーを組んだからまだ親切な先輩冒険者と言えるだろう。
「……二人とも軽装過ぎる気がしますけど」
ヨコヅナとカルレインの装備を見て心配そうな顔をするユユク。
ヨコヅナはニーコ村で狩りをしていた時に近い服装、丈夫な生地で出来ているが防具とまでは言えない、武器としては使わないがナイフを腰に提げている。
カルレインにいたっては、唯の動き易い服だ。
「新人だから仕方ないんじゃない」
ティナはお金がなくて装備を買えないと思ったようだ、実は半分正解だったりする。
「我らの事は心配せんで良いぞ。怪我しても我らの責任じゃ」
「小さいのに分かってるじゃないか。では遠慮なくドンドン討伐するとしよう」
目的地へと向かう途中、
「我らもパーティ―名とか決めるかの」
「一カ月だけだから必要とは思わないだが、名前付けるとしたらどんなのにするだ?」
「そうじゃの、……『
「…カッコイイとは思うだが、オラの要素0だべ」
「では、ヨコは何がいい?」
「ん~……『ヨコカル』で良いでないだか?」
「まんまじゃな、せめて『カルヨコ』じゃろ」
「オラはそれでも良いだよ」
「いや、この先メンバーが増えるかもしれんからの。パーティー名は後にするかの」
しばらくして目的地である『ゴゴの森』へと到着する。
ゴゴの森というのは通称で、ワンタジア王国にある最大の洞窟『ゴゴ洞窟』の周りの森がそう呼ばれている。
ナインド町に冒険者が集まるのはゴゴ洞窟が近くにあるから。と言うのは逆で冒険者が集まるからナインド町が出来た。だから『冒険者の町』と呼ばれているのだ。
「そのゴゴ洞窟にはお宝があるってことだべか?」
「奥深くには金銀財宝がザックザクと言われてます……真偽は不明ですけど」
「全然宝が無い可能性もあるのに、冒険者があつまるんだべか?」
「いえ、今まで何人もの冒険者が高価な素材を持ち帰ってます。金銀かはともかく、探索する価値は十分あります」
ヨコヅナの疑問に答えてくれてるのは先頭を歩くユユク。
ユユクの頭には犬の耳があり、臀部からは犬の尻尾が生えている。
それがデミ族との混血の証だ。セレンディバイト社の従業員(元ロード会メンバー)にもデミ族との混血は多い。
と言っても、犬とは限らない。猫の耳や尻尾。兎の耳や尻尾。他の獣の特徴を持つ者もいる。
人族の体に獣の耳や尻尾などを持つ者を一まとめで『デミ族との混血』と呼ばれている。あくまで人族がそう呼んでるだけだが。
「では、森を歩き回らず洞窟に向かう方が良いのではないか?」
「ゴゴ洞窟は広大で奥深くに行くほど強い魔獣や魔モノがいるらしいです、全員が中級冒険者以上のパーティーでなければリスクが高過ぎます」
このパーティーは、中級一人に下級二人、初級二人。階級だけで見ればゴゴ洞窟の探索は無謀と言える。
「最近は森に魔獣・魔モノが増えてるから余程運が悪くなければ稼ぎ0はないですよ」
ユユクの言葉は直ぐに正しいと証明される。
「正面から何か近づいて来ます!それも複数」
ユユクの言葉に全員歩きをとめる。
警戒するヨコヅナ達の前に現れたのは、
ギャァっ、ギギャっ!
「なんだゴブリンか…」
5匹のゴブリン。
「ゴブリンなら新人の腕試しに丁度良いじゃない?」
「そうだな。お手並み拝見といこうか」
「ちょっとゼクスさん!ゴブリンが弱いといっても5匹だと」
「いや、ユユクも下がって良いぞ。ヨコ一人で十分じゃ」
ヨコヅナは言われるまでも無く前に出る。それを見てユユクは下がる。
「ニーコ村にはいなかったから、ゴブリンの実物を見るの初めてだべ」
「道具を使う猿と思えば良い」
5匹のゴブリンは各々棍棒なり拾ったと思しきボロボロのナイフなどを手にしている。
ギャギャァー!と真っ先にヨコヅナに襲い掛かってきたゴブリンの顔面にヨコヅナは張り手を叩き込む。
ボゴっとゴブリンの顔面が陥没し、頭部が取とれそうなほど体からズレる。
「「「っ!?」」」
「確かに弱いだな」
ヨコヅナは瞬く間に5匹のゴブリンの殴り殺した。
「「「………」」」
「どうかしただか?」
「あ、いや…中々やるなと思ってな」
「ゴブリンが弱いだけだべ」
確かにゴブリンは最弱の部類の魔モノだが、5匹を素手で瞬殺出来る新人冒険者は少ない。
「これ全部持って帰らないといけないだか?」
「ゴブリンは素材にならないから、耳だけを切り取って持ち帰れば良いんですよ」
「そうなんだべか」
ヨコヅナとユユクが手分けしてゴブリンの耳を切り取っていく。
その合間にカルレインがゼクスに、
「こんな雑魚しか森にはおらんのか?」
「そんなことはない。近頃色々な魔獣・魔モノが洞窟から森に出て来ていると情報が出回っている。だから僕達もフリー討伐をしているわけだしな」
今、冒険者の間で「フリー討伐の稼ぎ時」と言われている。
「森でバジリスクを見たという情報もあるのよ。もし狩れたら大儲けよ」
「ふむ、バジリスクか……それが本当なら大物じゃな」
大物を目指して一行は森を進む。
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