第262話 靴屋の倅は転生者? 2
ナインド冒険者組合所の扉を開いた俺は、いきなりガッカリした。
「受付が、美人のお姉さんじゃ、ない、だと!?」
受付はおっさんだった。全員おっさんだった。
何で俺の異世界生活はこうまで花がないんだよ!
「何言ってるのよアル、バカなの?」
唯一の花であるクレアはずっとこんな感じだ。
顔は整ってて美人と言えるが、エルフらしくスレンダーで…ぶっちゃけ胸が小さい。性格は、気が強く我がまま。先の言葉もツンデレとかじゃなくて本音だ。
登録用紙にパーティー登録欄があり、
「どうする?俺達パーティーにしとくか?」
「とりあえずパーティーで良いんじゃない。アルが私の足を引っ張るようなら取消せばいいし」
これも本気で言ってる。……クレアはあれだな、人気が全然ない残念サブヒロインだな。
俺のメインヒロインはいつ現れるのだろうか?
新規冒険者登録を行ったら、初依頼として『国営農業』で畑仕事することになった。
なんでだよ!?
いや、理屈は分かるけどさ。狂人に冒険者になられたら組合も困るだろうから、見定める新人研修が必要なことは。
「何で冒険者になったのに、畑仕事なんてしなきゃいけないのよ!」
周りを憚らずクレアが文句を叫ぶ。同感だが声が大きい!
その大声が気になったのか、肩に女の子を乗せた大きな男がクレアをじっと見ていた。
「何よ!私の顔に何かついてる?」
ほんとクレアは物怖じしないな。
「あ、いや、知り合いにエルフとの混血の人がいるから目がいってしまっただけだべ。気を悪くしたなら謝るだよ」
大きい見た目の割に優しい雰囲気がある、それに若い。俺より少し上ぐらいかな?
「俺ら冒険者登録したばかりの新人なんだけど」
「あ、オラ達もだべ」
「そうなんだ。俺はアル」
「オラはヨコヅナだべ」
……え、横綱?
「我はカルレイン、カルと呼んでよいぞ」
「…私はクレアよ、クレアと呼んでいいわ」
「ヨコヅナ君めっちゃ畑仕事してるな」
「何があんなに楽しいのかしら?」
ヨコヅナ君はニーコ村出身の農民で、歳を聞いたら俺より少し年下だった。マジか?…
いや、年齢より気になるのがヨコヅナという名前だ。偶然なのか、それとも俺と同じか。名前は親が決めるんだから偶然の可能性が高いと思うが…、
『国営農業』での生活五日目、俺は日も登らない早朝に偶々目が覚め、一緒の大部屋で寝泊まりしているヨコヅナ君がいないことに気が付いた。
その時は、トイレかな?と思って気にせず寝直したのだが、朝食の時に、
「ヨコヅナ君早く起きてどっか行ってた?」
「朝の稽古だべ」
「へぇ……ひょっとしてここに来てから毎朝?」
「そうだべ」
「凄いな、俺は慣れない畑仕事でヘトヘトでここに来てからは剣の稽古出来てねぇわ。ヨコヅナ君武器は何使うんだ?」
「オラは戦いで武器は基本使わないだ、スモウ…格闘技で戦うだよ」
え!?相撲……やっぱり相撲の横綱なのか?
「そ、そうなんだ、ヨコヅナ君は素手で戦うタイプなんだ。この国で相撲って初めて聞いたな~」
「皆そう言うだよ。今は多分この国でスモウの使い手はオラだけだと思うべ」
やっぱり転生者なのか!?前世で相撲の横綱が転生してきたのか?
直接聞いてみるか…いや、転生者が皆良い人間とは限らないからな……。
俺は『国営農業』での残りの五日間、ヨコヅナ君に積極的に話しかけるようにした。
大量の作物を荷台へと運ぶ作業が終わった後、
「お疲れヨコヅナ君」
「お疲れだべ」
「力持ちだなヨコヅナ君。俺なんて半分ぐらいしか運んでないのに腕パンパンだよ」
「足腰の力を使って持つと腕の負担が少なくなるだよ」
「さすがだな」
相撲って足腰滅茶苦茶鍛えるって聞いたことあるもんな~。
あ…このタオル汚れてるな。俺は魔法で水を出し、タオルを洗う。
「……今何処から水出しただ?」
「ん、ああ、魔法だよ」
「アルは魔法使えるだか!?」
「魔法つっても水を出せるだけなんだけどな」
「それでも十分凄いだよ」
「そうかな」
「オラは全然才能無いってカルに言われただ。あ、カルは魔法得意なんだべ」
「あぁ~カルは魔法系か…それっぽいな。どんな魔法使うんだ?」
「何か光の魔法を使ってるだよ」
「へぇ~、カッコイイなそれ。カルとヨコヅナ君はどういう関係なんだ?兄妹じゃないよな」
「……熊に襲われたのを助けたのが切っ掛けで一緒にいるんだべが…ちょっと事情が複雑なんだべ」
「あ、すまん。詮索するのは良くないよな」
「いいだよ、謝るようなことじゃないだ」
こんな感じで俺はヨコヅナ君がどういう人間なのかを探った。
初依頼が終わりナインドに戻ってからも一緒に食事して冒険者になった理由なども聞き、その結果。
うん、ヨコヅナ君は良い人だ。
典型的な気は優しくて力持ちタイプ、見た目通り沢山食べて料理を作るのも得意。
俺はヨコヅナ君ならバレても大丈夫だと考え、聞いてみた。
「ヨコヅナ君、日本って知ってる?」
「ニホン?……人の名前だべか?料理名だべか?」
あ、あれ…?
「いや国の名前だけど…」
「国の?……いや、知らないだ」
「そうか…だったらいいんだ、呼び止めて悪い」
「いいだよ」
「じゃまたな」
「日本を知らない…。嘘ついてるようには見えなかったし、転移者でも転生者でもないってことか……でも名前がヨコヅナでスモウ……」
「何ブツブツ言ってるのよ!私達も宿に帰るわよ」
クレアにせかされ宿へと向かう。
「ヨコヅナに何聞いてたの?ニホン、とか聞こえたけど?」
「いや、大したことじゃないんだ……ヨコヅナ君って冒険者っぽくないというか」
「それは私も思う!ヨコヅナは冒険者じゃなくて料理人になるべきだと思うわ」
話を遮られたが、それは俺も思う。今日の照り焼きチキンのタルタルソースがけとかマジ最高だった。
「ただ、私が気になるのはカルの方ね」
カルが気になる?まぁあの体でヨコヅナ君と同等以上に食べてたから、気になるっちゃ気になるか。それに…
「カルは光の魔法使えるってヨコヅナ君が言ってたな」
「……アルはそれを知って何で気にならないのよ?」
「ん?…光魔法使えるのはカッコイイとは思うけど」
俺の率直な感想を聞いたクレアの顔には「やれやれ、駄目だなこの男」と大文字で書かれていた。
言いたいことあるなら言えよこのまな板胸!
「八大魔将ぐらいあんたでも知ってるでしょ?」
「…おとぎ話で聞いたことはある」
「人族のおとぎ話なんて私は知らないけど、八大魔将の一人『死光帝カルレイン』は銀髪に黄金の瞳、そして光魔法を使う。とエルフの伝承にはあるの」
マジか!!?カルのことじゃん!!本当ならチート級の存在…まさか4のパターンか!?
「ただ、伝承ではカルレインは凄絶艶美な女帝ってなってるのよね」
それじゃ違うじゃん!?一番大事な部分違ってるじゃん!!
いや、カルは十分美少女と言えるから、将来的な可能性はあるけど…あの食いっぷりだと……
そもそも、
「八大魔将って大昔の存在だろ。なんで今も生きてて子供の姿なんだよ」
「考えられる可能性は三つかな。偶然の一致。名前を継承した子孫。世の
最後のだとマジでチート級だな。偶然ってことはないだろうから…
「一番可能性がありそうなのは子孫だよな」
「常識で考えたらね」
女帝の子孫なら皇女とかなのかな?それならあの子供らしくない態度や言葉遣いも納得できる。皇女がお忍びの旅の最中、熊に襲われてるところをヨコヅナ君に助けてもらった。ヨコヅナ君が「事情が複雑」と言葉を濁してたから、皇女の護衛として雇われて一緒に旅をしている?……冒険者になりたいわけじゃないとも言ってたし…。
辻褄が全部合っちゃうじゃん!!
「この十日間でカルが悪い存在には思えなかったから、そういう意味では大丈夫だと思うけど」
「あ、ああ。俺もヨコヅナ君を探ってみたけど良い奴だと思うぞ」
「ヨコヅナは見たまんまでしょ。あれで本当は悪人とかだったら私は人族を信用できなくなるわ」
確かにな。あのニコニコ笑顔に裏があるとは考えたくない。
「あの二人と四人パーティー組むのもアリだと俺は思うんだけど、クレアはどう思う?」
前衛、格闘家のヨコヅナ。
中衛、魔法剣士の俺。
後衛、弓使いのクレア。
補助+後衛、魔法使いのカルレイン。
完璧なバランスの冒険者パーティーだ。
「悪くないけど直ぐには組まないわ」
「何でだよ?」
「初依頼の完了報告した時の受付係の目、忘れた?既に私達はあの二人より下に見られてるのよ」
ヨコヅナ君とカルの、と言うかほぼヨコヅナ君一人の成果だが、初依頼で評価内の最高ポイントだった。
例えるならあの二人は初依頼で100点満点を取った。俺達二人は平均の50点より下だった。
そういう目で受付に見られたのだ。
「でもそれは畑仕事がヨコヅナ君の得意分野だっただけだろ」
「そうよ。ヨコヅナは近接戦の腕もタチそうだけど、狩りなら私の方が上。直ぐに追いつける、いえ追い越せる。パーティーを組むのはそれからよ」
同期の冒険者だからライバル視してるんだな。これはこれで燃えてくるな。
「分かった。俺も受付のおっさん共を見返せるよう頑張るぜ」
「……足引っ張るようならアルを捨てて、私はヨコヅナ達とパーティー組むからね」
おいおい!それじゃ主人公追放からの復讐ストーリーが始まっちまうぞ!
クレアなんてあられもない姿でヒー!ヒー!言わされることになるんだからな!
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