第261話 靴屋の倅は転生者?


 俺が前世の記憶を思い出したのは五歳の時だ。

 馬車に大量に積まれた荷物の止め紐が切れ、俺に方に向かって崩れてきた。

 運よく軽傷だったが、その瞬間思い出したのだ。前世の俺、『相田正晴』はトラックに積まれた荷物が崩れ下敷きになって死んだ事を。

 その瞬間、


「俺、神様からチート能力貰ってねぇ!!?」


 と叫んでしまい、周りから頭を打って錯乱していると心配されたのは良い思い出だ。

 前世で、趣味はアニメ・漫画・ゲームと胸を張って言えるぐらいオタクだった俺は記憶を思い出したと同時にここが異世界だという事を理解した。

 魔法やゴブリンが存在する世界。ドラゴンとかはまだ五歳の時点では見てないけどいるという噂は聞いていた。


 転生した俺の名前はアル。テンテン村の靴屋の倅。だが、靴屋を継ぐつもりはない。

 異世界の定番、冒険者組合がこの世界には存在する。だったらなるしかないだろ冒険者!目指せ異世界チーレム無双!

 俺は考えた。異世界転生モノでチーレムになるパターンは大体四つだよな…


1、転生時神様的存在からチート能力を貰うパターン。

2、転生先が自分の好きだったゲーム(アニメ・漫画)の世界で、強くなる方法や未来を熟知しているパターン。

3、前世の知識を上手く使うパターン。

4、本人に大した能力はないが、運よくチート級の仲間が出来るパターン。


 他に、人間じゃない種族に転生するパターンもあるが、俺は人族だから除外でいいだろう。あと死ぬほど苦しい思いをして覚醒するパターンもあるが俺が嫌なので除外だ。


 1は神様には会っていないが、俺が知らないだけで後々チート能力が発覚する可能性は0ではない。

 2は多分ない、ワンタジア王国やテンテン村と言う名前に覚えはないし、重要そうな聖天族や八大魔将というワードもピンとこない。

 4は基本運なので考えても仕方ない。


 なので前世の記憶を取り戻した俺が出来そうなのは3だけなのだが、チートと言える知識が思いつかない。

 よくあるのが前世の料理を再現して「こんな美味い料理食った事ねぇ!」ってなって店出して大儲けってパターンだけど俺料理出来ないんだよな…。

 それにこの世界意外と料理のレベル高くてマヨネーズとかの調味料も普通にある。カレーライスはなさそうだけどスパイスから作るとか俺無理だし。

 

 なのでこれってのが思いつくまで地道に行くことにした。

 まずは剣の稽古だ。

 前世はオタクと言ったが、運痴のデブオタではない。剣道有段者の動けるオタクを自負していた。

 それと同時に魔法の習得。

 テンテン村には一人だけ魔法を使えるおばあさんがいた。風の魔法で弱く小さい竜巻を作って見せてくれた。

 だが、「魔法は精霊と仲良くなる必要があるぞ」と言われ、精霊は何処にいるかを聞くと、「そこら中におるよ。ほほほ」とのこと。

 ボケてんのか?

 と思ったが、見えない何かを感じ取れる第六感が必要みたいだ。

 心を落ち着かせて精霊が語りかけてくるのを聞き取ることから始めるのが良いと言われたので、とりあえず毎日瞑想をすることにした。



 前世の記憶を思い出し地道な努力を続け数年。

 今もチート能力が開花する事はないし、前世の知識も特筆する程活かせてもいない。

 十歳を超えた時、今生の両親に将来冒険者になりたいと言ったら、

 父ちゃんは「お前が本気なら止めないよ」と言ってくれ。

 母ちゃんには「バカ言ってないで店手伝いな」と言われた。

 母ちゃんの気持ちも分かるので、店の手伝いもちゃんとしている。


 剣の鍛錬を続けたかいあり村で俺に敵う同年代はいない。転生を活かせてると言えばせいぜいこれぐらいだ。

 ただ残念ながら仲の良い同世代に女の子がいない、男ばっかりだ。

チート無いならせめて可愛い女の子の幼馴染はいろよ!

 

 この時期あたりから魔法習得の為の瞑想で、見えない何かを感じれるようになってきた。肌を水に浸してるような感覚があるのだ。

 それをおばあさんに言うと、「水の精霊と相性がいいのじゃろう」とのこと。

 水か~……火とか雷とかが良かったな。水の魔法ってなんだろ、ウォーターボールとかか?

 

 テンテン村は、田舎に含まれるが村としては規模が大きいらしく。駐屯の警備隊がいるし、自警団も設立されている。

 毎日剣の稽古をしているのを評価され子供ながらに、定期的に行われる訓練に参加出来るようになった。

 大人に相手をしてもらえるから本格的な剣の稽古ができる。



 さらに数年が経つ、がチート能力はない。さすがに諦めるべきか?いやしかし…

 地道な努力のお陰で剣の腕前は、警備隊で剣が一番得意な人とも互角に渡り合えるほどになった。

 魔法も使えるようになった。と言っても手の平に少し水を溜めれる程度だが、

 いつでも水の精霊を感じれるようになったら、次は精霊にこちらから語りかける。それが伝われば魔法になるそうだ。

 声に出す必要はないそうだが、意識しやすいよう自前の呪文を唱える者はいるらしい。

 自分で考えた呪文か~。中二病っぽいな…いや、俺も中二とき考えたことあるけど。無詠唱で使えるよう頑張った。

 戦闘にはまだまだ使えそうにないが、何も無いところから水を作れるだけでも周りからは天才だと褒められた。頑張ったかいあるぜ。


 少し有頂天になっていた俺は、王都で開かれる20歳以下限定、模擬武器で戦う闘武大会の話を聞き、すぐ出場する事を決めた。 

 頑張ったが予選決勝で負けてしまい本選には出れなかった。

 優勝したのはこの国の大将軍の息子で全試合圧勝していた。本物の天才はあういう奴を言うんだなと思い知った。


 現実を知った俺は浮かれていたと思い直し、鍛錬量を増やして地道な努力を続けた。


 また少し月日が過ぎ、

 現実を知りチート能力も無い俺が本当に冒険者になってやっていけるのか……

 俺がそう悩んでいた時、クレアが村にやって来た。

 クレアは純血のエルフで、冒険者になる為にエルフの里を出てこの国に来たらしい。

 「長旅で疲れたからしばらく厄介になりたいの」「でも路銀が心もとないから狩った獲物を対価とさせて」と言うクレアに「厚かましい奴だ」「これだから他種族は」と迷惑そうにする村人もいた。

 そこはさすがエルフ。クレアの弓矢の腕は凄まじく、次々と動物を狩り「いつまででも居て良いよ」と手の平を返させた。


 俺は人生の転機だと思った。この機を逃したらズルズル悩んで冒険者にはなれないと。

 クレアの狩りに出来るだけ同行し信頼関係を築き、タイミングをみて、


「俺も冒険者になりたいんだ!一緒に行かせてほしい!」


 俺の決意の言葉に対してクレアは、


「ふ~ん、別に良いわよ」


 とあっさり返した。


 母ちゃんも最終的には納得してくれた。

 両親や村の皆にも見送られ俺はテンテン村を出て、『冒険者の町』と言われるナインド町へと向かった。


 俺の冒険はこれからだ!!

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