第258話 次回から新展開じゃ


「そうだねェ…元々が太ってたにしてもちょっと心配になるね」

「急ニ痩セタト、オデモ思ウ」

「師匠差し出がましいかもしれませんが、私も同様に思います」

「そうだよ。ダイエット法を白状しな」


 みんなの心配の言葉と視線がヨコヅナに集まる、


「大丈夫だべ、忙しくてちょっと痩せただけだべ」

「ちょっとじゃないから言ってるの!」

「そうだよ。忙しくて痩せるなら私だって痩せるよ!」


 中でも心配しているのはオリアとエネカの姉コンビ(台詞はともかくエネカも凄く心配してる)


「仕事が落ち着いてきたから、もう大丈夫だべ」

「それも前に聞いた」

「私も聞いたよ」

「「でもさらに痩せてるから、言ってるの!」言ってるんだよ!」


 納得しない姉二人に、


「……食事も睡眠もちゃんととってるだ。オラが風邪すらひいた事ないの二人も知ってるべ」


 ヨコヅナは笑顔でそう答える。

 

(何よ、その無理矢理の笑顔)


 オリアは問いただす相手を変える。


「ラビスちゃんはヨコの補佐よね」

「はい」

「この様子をどう考えてるの?」

「ヨコヅナ様の仰った通りです。身長からの適正体重を下回っているわけでもありませんし、仕事は落ち着き、食事、睡眠、十分な量をとれています」


 ラビスはヨコヅナの言葉を全て認める、が、


「ですが、十分な量と言うのは平均的成人男性の話、ヨコヅナ様の以前の食事量からすれば減っています。その理由は仕事ではなく…」


「ラビス、余計な事は言わなくていいだよ」


 ラビスの話を止めるヨコヅナの声は大きくはないが拒否できない圧力があった。


「申し訳ありません。ヨコヅナ様のプライベートの事ですので私からはこれ以上お話できません」

「ちょっとヨコ!」

「オリア姉には関係ないことだべ」


 先ほどまでと違い、ヨコヅナは明らかな拒絶を示す。


「う……」


 それに黙ってしまうオリア、しかし、

 

「そうそう、カルちゃんにお土産持って来たんだった」


 エネカは黙っていない。


「今王都で流行りお菓子だよ」

「わはは、さすがエネカ気が利くの」


 カルレインは受け取ろうと手を伸ばすが、サっとエネカはお菓子の箱を引く。


「カルちゃんはヨコが痩せてる理由知ってるかい?」

「……ハイネと喧嘩してるのが原因じゃ」

「カル!」

「何じゃ?」

「余計なことは言わなくいいだよ」

「何故我がヨコの指示を聞かねばならん」


 この中で唯一カルレインはヨコヅナの部下ではない、対等なので指示に従う必要はない。ヨコヅナの圧力などカルレインからすればどこ吹く風だ。

 

「…少し口論になっただけだべ。オラが謝ったべから、今は喧嘩してないだよ」

「ハイネに対してずっと敬語を使っておるくせに」


 ヨコヅナは口論の次の日以降ずっとハイネに対して敬語を使っていた。ハイネが壁ができたと思うのも当然だ。


「ぅ………もう良いだよ!オラ飯作って来るだ」


 ヨコヅナはそう言って部屋を出て行ってしまう。


「この程度で拗ねるとは、まだまだ子供じゃな」


 二人のやり取りを黙ってみていた周りの中で一番早く、


「私は師匠を手伝ってきます」


 ヨルダックが動き出し、ヨコヅナを追いかけて部屋を出ていった。



「喧嘩の原因はやっぱり私達、元ロード会の事かい?」

「切っ掛けはの。根本は二人の考え方の違いじゃが」

「麻薬密売した組織を私的理由で助けたんだから、ヘルシング家と揉めてるのも当然かね」

「ヘルシング家はヨコヅナ様に直接は何も言ってきてませんよ。コフィーリア王女がお認めになった事ですから。直接はハイネ様だけです」


 ハイネとは個人的に口論になったが、ヘルシング家としては何か言いたそうではあるが静観しているだけだ。


「つまり、『閃光のハイネ』に文句言われて、ヘルシング家からも直接ではないけど無言の圧力を掛けられてるから、ヨコはストレスを感じて痩せてるってこと!」


 ハイネとヘルシング家に対して怒りを感じるオリアだが、


「ヨコが一番ストレスで飯を食べていなかったのは、オリアの麻薬密売関与を知った後じゃ」

「そ、そうなの?」

「オリアにはハイネ様やヘルシング家を責める権利なんて一切ないからね」

「……そうよね。ヨコごめんさない」


 ヨコヅナへの申し訳なさが一杯すぎて、相手もいないのに謝るオリア。

 

「過去の話は止めにして、未来の話をするべきじゃの」


 カルレインが話の方向を切り替える。


「それはヨコヅナ様を太らせるという意味ですか?健康は害してませんし、私は痩せてる方がヨコヅナ様はカッコイイと思います」


 だが、ラビスの私的な言葉のせいで、


「え~…。私はヨコは前ぐらい太ってる方が良いと思う。痩せたから温和で優しい雰囲気が薄なってるもの」

「あぁ~。私も社長は痩せて男前が上がったと思うよ。新調したスーツも似合ってるしね」

「そうかね~…。私はヨコが痩せてるだけでも違和感あるし、スーツが似合ってるようには見えないんだけど」

 

 ズレた方向に話が切り替わる。

 

「ヨコのスモウは太ってた方が強いのよ。これからも裏闘で戦うなら太るべきでしょ」

「いえ、毎朝の鍛錬を見ていますが、ヨコヅナ様は痩せていても強いです。裏闘でこれからも勝ち続けれます」

「似合ってるというなら、私はちゃんこ作ってるヨコの姿が一番だと思うけどね」

「状況を含めるなら、戦ってる時の社長が一番だね」


 しかも終わらないどころか、


「オリアさんやエネカさんは昔からのイメージから偏見が有るだけです。一般論でみてもヨコヅナ様は痩せている方が良いとなります」

「一般論で見る時点でラビスちゃん分かってない。裏闘でもちゃんこ鍋屋でもヨコが人気あるのはあの体型だから」

「二人が姉目線で話してるのは確かだね。私らはもう社長の部下だよ」

「仕事の話はさっき終わったじゃないか、それに未成年のヨコを姉目線で見て文句言われる筋合いはないね」

 

 ちょっとヒートアップしてきた。


「やれやれ、…もうそこらよい」パチンっ


 見かねたカルレインのスナップ音と共に、


「「「「眩しっ!?」」」」


 部屋が一瞬光で満たされ、皆驚きと眩しさで言葉を失う。


「太ってる方が良いか痩せてる方が良いかは、ヨコが決める事じゃ。お主らがどれだけ話し合ったところで無意味じゃろ」

「「「「確かに…」」」」


 一番年下(に見える)カルレインが、年上(に見える)女性達を正論で説き伏せる。


「さっきのは何だい?」

「エネカちゃん知らないの?カルちゃん魔法使えるんだよ」

「魔法…小さいのに凄いんだねカルちゃん」


 カルレインの凄さの100分の1も分かっていないが、今は関係ない。


「仕事が落ち着いてもヨコは今の状況に不安とストレスを感じておる。重要なのはそれらを一度発散させてやることじゃ」

「ドウスレバ発散デキル?」


 女性陣の話に入れなかったジークがカルレインに聞く。


「長期休暇での気分転換じゃ」


 自信満々で言い放つカルレイン。


「……正攻法な案だとは思いますがカル様、具体的に休暇中に何をするのですか?」

「そこは我に任せよ。ラビス達が考えるのは、ヨコが長期休暇をとる間、会社を問題なく運営させれるかじゃ」

「休暇期間はどれぐらいですか?」

「半月~一カ月といったところかの。ちょっと遠出する予定じゃ」

 

 カルの言葉に皆思考を巡らし、


「私の管理してる分に関しては問題ないね」

「『ハイ&ロード』も問題ない、余程の事が無ければだけど」

「私も問題ないよ。そもそも清髪剤はラビスとのやり取りがほとんどだしね」


 デルファ、オリア、エネカは直ぐに問題なしと判断する、合併前は自分達だけでやっていたのだから出来ない方がおかしい。

 ただ、ラビスは直ぐに問題なしとは言えない、


「仕事が落ち着いたとは言え、一月ではヨコヅナ様の印が必要となる書類は複数あります」

「週間の定例書類などの細事はラビスが印を押せばよい、ヨコがそれらに口出しした事などないじゃろ。重要な件は後回しにすれば一月ぐらいどうとでもなるじゃろ」

「そう言う訳には、コフィーリア王女のご指示もありますので」

「では王女が許可すればラビスは文句ないわけじゃな?」

「それは…王女様が許可されるなら問題はありませんが…」


 問題はないが、文句があるかないかで言えばラビスはある。しかし、ヨコヅナに気分転換が必要なのも正しいと思える。


「分かりました。……出来れば半月でお願いします」

「それはヨコの回復次第かの」

「何ラビスちゃん、そんなにヨコと離れたくないの?」


 オリアの茶化すような言葉に、


「当然です。私はヨコヅナ様の補佐なのですから」


 堂々と言い返すラビス。


「遠出するのであれば、私もついて行きたいのが本音ですが。今回は仕方ありません」


 落ち着いたとは言え、ラビスまで会社を離れれるほどで体制は整っていない。


「それで遠出って何処に行くんだい?」

「ひょっとしてニーコ村に帰省するの?」

「いや違う。まぁ都合があえば行くかもしれんがの」


 カルレインがハイネにも言った提案を皆に言う。


「冒険じゃ」

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