第254話 ニーコ村で使っていたよりも大きくなっとるぞ
早朝、訓練場にヨコヅナとラビスが到着すると、
「ヤズッチにワコ、それにオルレオンも」
「お早うございます」
「おはようございまーす」
「おはようございます!」
ちゃんこ鍋屋の従業員、ヤズッチことヤズミとワコとオルレオンが待っていた。
「おはようだべ……あ、稽古に参加しに来ただか?」
「はい!今日よりスモウの稽古に参加させて頂きます!宜しくお願いしますヨコヅナ殿!」
やる気満々のオルレオン。ヤズミから聞いていたのだろう既に褌一丁だ。
「基本オラからは何も教えないだよ。オラの稽古を真似しても良いってだけだべ。最後に手合わせはするだべが、その時も技を教えたりはしてないだよ」
「……なるほど、技は教わるのではなく盗めと言う事ですか」
「う~ん…まぁ、やってみたら分かるだよ」
「はい!しっかりと学ばせて頂きます!」
そんなヨコヅナとオルレインのやり取りの後ろで、
「オルレオンさんが稽古に参加するのはヤズッチに膝を着かせたらと聞いていたのですが?」
「む……言っとくが膝は着かさせていないぞ」
「でもヤズッチ、先に地面に手を着いちゃったんだよね。ここのルールだとそれも負けなんだよね」
「ええ、そうです。確かにヤズミの負けですね」
教育的指導という名の手合わせ以降もヤズッチとオルレオンは幾度と手合わせをしていた、そして昨日到頭オルレオンはスモウルールではあるが一勝をもぎ取ったのだ。
「なるほどなるほど、ヨコヅナ様だけでなくBランク選手にも負けたと。これはコフィーリア王女の報告する必要がありそうですね」
「待て待て待て待て、ラビス!」
「何ですか?」
「ラビスは姫様のメイドを辞めたのだから、もう報告義務はないだろ」
「何を言ってるのですか、コフィーリア王女は出資者なのですからちゃんこ鍋屋の定期報告はありますよ。ついでにヤズミのことを報告するだけです。私も忙しいのに報告内容が増えて大変ですよ…」
大変などと言いながら、嬉々とした笑みを浮かべているラビス。
「ぐぬぬぅ~…ラビスさん、どうか姫様への報告は止めてください」
歯を食いしばりながらお願いするラビス。
「クククっ、仕方ないですね。私も現在のオルレオンさんの実力を知っているわけではないので、報告するかどうかは今日の鍛錬を見てから決めるとしましょう」
「それは…手合わせでヨコヅナ様にオルレオンが負けたら報告すると言う事か?」
「それでは報告確定ですよ。まずは基礎鍛錬をこなせるかどうかです、途中でヘバるようでしたら、その程度の相手にヤズミは負けたと報告せざるを得ません」
「ヨコヅナ様の鍛錬にか……アイツは基礎鍛錬が足らんからな~……」
オルレオンは格闘の才能はあるが、ゆえに基礎鍛錬をおろそかにしてきた。魔力強化は使えても純粋な体力が増えることは無い、寧ろ下手な魔力強化は体力を著しく減少させる。今はヤズミと共に基礎鍛錬も行っているが、オルレオンがスモウの鍛錬についていけるかと問われれば自信を持って首を縦に振る事は出来ない。
「オルレオン、ちょっと来い!」
「はい。…何ですか?ヤズッチさん」
ヤズミの声にダッシュで駆け寄るオルレオン。
「張り切るのは良いが、無茶して仕事に支障をきたすようなことは無いようにしろ」
「おやおや、仕事熱心ですねヤズッチ、つまりちゃんこ鍋屋の為に手を抜けと言う意味ですね」
「な!?ヤズッチさんの指示とはいえそれは従えません」
オルレオンはヨコヅナの稽古に参加する為にちゃんこ鍋屋で働いているのだ。漸く参加出来るようになったのに、ちゃんこ鍋屋の為に制限されては本末転倒だ。
「(ラビスめ余計なことをぉ…)違うぞオルレオン、私はペース配分を考えろと言っているんだ。基礎鍛錬の後ヨコヅナ様と手合わせ出来る。お前も基礎鍛錬だけで力尽きては不本意だろう」
「それは……確かにそうですが…」
「だから今日はあそこのバカロを真似る程度にしておけ」
「バカロ……」
「間違えたメガロだ。スモウ稽古に参加してる中で一番古株だ」
「ではあの者がヨコヅナ殿の一番弟子……分かりました、最後まで稽古についていけるように頑張ります」
そう言ってヨコヅナと稽古に参加する兵達が集まる場へ向かうオルレオン。
「絶対に途中でヘバるなよ!」
「クククっ、必死ですねヤズミ」
「誰のせいだと思っている!」
「オルレオン君は頑張り屋さんだから大丈夫だよ」
四股踏み、すり足、張り手、ブチかましと基礎鍛錬が終わり休憩となる。
「ふぅ~はぁ~、ふぅ~はぁ~…」
大きく息をつき、足をプルプルさせているオルレオン。それに手の平と額から少し血が出ている。
「これが、毎日の、ふぅ~はぁ~、基礎鍛錬……しかも、ヨコヅナ殿は…」
「初日から最後までついて来れたなら十分だべ」
プルプルしているがちゃんと立っているオルレオン、ヤズミの期待に応え最後までヘバることなく基礎鍛錬をこなした。
「いえ…そのような、慰めは、必要、ありません」
最後までこなしたとは言え、それはヤズミが指示した通りメガロの真似をしてだ。
ヨコヅナとメガロでは基礎鍛錬だけでも桁が違う。
一番分かり易いのが、
「そこの大岩、持ち上げてみても、いいでしょうか?」
すり足の時にヨコヅナだけが抱えている大岩。
前は大鉄棍で代用していたのだが、丁度良い大きさの岩が見つかったので訓練場まで運んできたのだ。
「構わないだが…休憩しなくても良いだか?」
「だ、大丈夫です」
足をプルプルさせてるので大丈夫には見えないが、止めるほどでもない。
オルレオンは大岩に近づき、
「ふっ!ぐうぅ…」
持ち上げようとするが上がらない。
それを見て稽古に参加している兵達が小さく笑う。バカにしているわけではない、皆同じなのだ。ヨコヅナが軽々持ち上げてスリ足を行っているから、持ち上げてみようと試すも持ち上がらないのだ。
「オルレオン、そ…」
「待ってくださいヨコヅナ殿……」
ヨコヅナが、止めようとしたのか、助言をくれようとしたのか、オルレオンは分からない。だが、
(他の奴等の笑みは気に入らない)
オルレオンは魔力強化を使い、大岩を持ち上げすり足で移動する。それは少しだけの距離だが
「「「「なっ!?」」」」
兵達の笑みを消すには十分だった。
「怪我する可能性があるから、重し持ってのすり足は型がちゃんと出来てからじゃないと駄目だべ」
「それが、良さそう、ですね」
ヨコヅナの言葉に素直に頷くオルレオン。
この時点で、オルレオンは確信したことがあった。
休憩後、
「手合わせ始めるだよ」
いつもなら最初に手合わせするのはメガロなのだが、
「宜しくお願いします!ヨコヅナ殿」
真っ先にヨコヅナの前にでたオルレオン。
それを見て、「おい!新入りは最後だ」「出しゃばるな、分をわきまえろ!」「一番はメガロ様と決まっているんだ」などの声が飛ぶ。
それを聞いて、
「ヨコヅナ殿がそう決めたのですか?」
「オラは誰からでもいいだよ」
「でしたら、ヨコヅナ殿と一番最初に手合わせするのは、この中で一番強い者であるべきだと思います」
「おい新入り!何が言いたい!」
「分からないのか?」
参加している兵達への明らかな挑発の言動、オルレオンが確信したこととは、
「お前等より俺の方が強いと言ってるんだ」
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