第237話 経営者同士の会話とは思えんの
「……研究所で生まれたって言ってなかっただか?」
「ジーク達はね、私は研究材料として買い取られたのさ。……小さい時は自分が奴隷だとは思って無かったけどね」
四ツ目だが他は人族と変わらない混血。奴隷商は稀有な
だからこそ感じた絶望的な悲しみ。
「ボーヤには分からないだろうね。親だと思っていた相手に
ヨコヅナには亡くなっても尊敬し続けれる父親がいた、だからデルファは話しても分からないと言っていたのだ。
「…それで研究所に」
「違うよ。最初に私を買ったのはとある貴族さ。混血の女を玩具のように暴姦して楽しむ変態でね。でも子供ながらに無我夢中で抵抗してたら能力に目覚めて、貴族をぶっ飛ばしてたのさ」
吹っ飛ばされた貴族の怪我は大したことなかったものの、手を触れずとも人を吹き飛ばせるデリファに貴族は二度と近づかなかった。
奴隷が主人に怪我をさせれば殺処分も普通にあり得るが、大金を払って購入した奴隷だから勿体ないと思ったのだろう。その貴族はデルファを他へ売り飛ばす事にした。
「中々悪行を積んでる貴族だったみたいでね、次は黒い稼ぎをしてる組織に売られたんだよ」
その組織の主な稼ぎは違法賭博や娼館、それと麻薬密売だった。そこでのデルファの仕事は各業務の雑用と賭博試合で選手とした戦う事。
「…ロード会でのオラの役割と似てるだべな」
「そうだね。私はその組織で学んだ経営の知識や経験でロード会を設立したわけだしね」
デルファは子供ながらも賭博試合に出場しても負け無しだった。超能力を使えるからではあるが、そこの試合は裏闘に比べて圧倒的に規模が小さく本物の強者が出てなかったことも理由である。
さらにデルファは他の業務においても自分の有能性を示していった。そうすれば自分の居場所が確保できると考えたからだ。
実際デルファが貢献する事で組織は利益を上げ、待遇は徐々に良くなっていったので、その組織で数年働いていた。
しかし、またデルファは売り飛ばされた。
「ある日、目を覚ましたら拘束されててねェ。連れてかれた先が研究所だったよ」
その組織は稀有な混血のデルファを大金で研究所に売ったのだ。
デルファとしては組織の者達と信頼関係を築けているつもりだったが、またも裏切られた。
「後は前に話した通りさ。さすがに私も思い知ったよ、マ人は混血を人と思ってないのだと」
デルファの顔に浮かんでいたのは、怒りや悲しみなど負の感情が混ざり合った憎悪だ。
「…長々昔話をしちまったけど、麻薬を売った理由はボーヤの言う通り自己満足だよ」
デルファの自己満足、過去の
「分かったかい?」
「……まぁ、分からなくはないだな。だからと言って」
今度はヨコヅナが素早く間合いを詰め、
「理解する気は初めからないだべがな」
デルファに振り下ろすような張り手を叩き込む。
「ぐっ…そうだと思ったよ」
腕で頭を庇いつつ倒れないよう耐えるデルファ。
「だから、ボーヤに話す気がしなかったんだよ!」
次はデルファがヨコヅナの腹に突き上げる拳をめり込ませる。
「うっ…裏切ったんだべから理由ぐらい話すのが筋だべ!」
ヨコヅナは「オリア達を守る為に」とデルファに言われたのがロード会に雇われたそもそもの理由だ。だが、デルファはオリアを犯罪に巻き込んだ。ヨコヅナが裏切られたと言っても過言ではない。
横から大振りの、デルファの腕ごと叩き折るつもりでの張り手繰り出すヨコヅナ。
「ぐぁっ…重っいねェ」
強引に踏み止まってヨコヅナの攻撃を受けるデルファ。踏み止まるより飛ばされる方がダメージは軽減されるのだが、それを分かっててデルファは受け止める。
デルファも意地になっているのだ。
ヨコヅナが正面からデルファの全てを叩き潰そうとしていることが分かったから。
「筋なんてそもそもないよ。姉を守りたいボーヤの気持ちを利用して、協力させたかっただけだからね!」
またデルファの拳がヨコヅナの顔面に叩き込まれる。
ここからは足を止めての殴り合いになる。
「ぐっ…言い訳にすらなってないだよ、まんま悪者の台詞だべ!」
「がぁっ…私は悪者なんでね、本音が聞きたかったんだろ!」
「うっ…そうだべな、だから捕まるんだべからな!」
「ごぁっ…ボーヤの仕業じゃないかい!」
「がっ…そうだべ。オラもデルファを信用出来なかったべからな!」
「うぐっ…私が混血だから信用してなかったんだろ!」
「ぐっ…目が二つでも、デルファの悪者感は変わらないだよ!」
「うがっ…それは、もうだたの悪口じゃないかい、このデブ!」
「うっ…自分で悪者って言ったんだべ、オバさん!」
「ごふっ…テメェーぶっ殺すぞ!」
「がっ…それはこっちの台詞だべ!」
・
・
・
「はぁーっ、ふぅー、はぁーっ」
「ふぅー、はぁーっ、ふぅー」
お互いに息絶え絶えになり、手が止まる。
「もう限界だべか?」
「それは自分に聞いてるのかい?ボーヤの丸い顔が凸凹だよ」
デルファの拳を受けたヨコヅナは顔は腫れあがっている。
「デルファだって、もう腕を上げるのも辛そうに見えるだよ」
ヨコヅナの張り手を受け続けたデルファは両腕をダランとさせている。
「…そうだねェ、疲れたからもう意地の張り合いは終わりにしようか」
「そうだべな、外の連中が痺れ切らしそうだべしな」
実のところ扉の隙間から警備隊員が覗いており、突入のタイミングを伺っている。ただ、激しい戦いにビビって突入出来ずにいた。
「ボーヤ、死なない内に降参しておくれよ」
「オラに膝をつかせることが出来たら、「参った」って言うだよ」
「じゃあ、なんとしても『不倒』を倒さないとね!」
デルファはズキズキと痛みが走る腕を上げてヨコヅナに向けて衝撃波を打つ。
「それはもう喰らわないだよ」
不可視である衝撃波をあっさりと回避するヨコヅナ、一回正面から受け止めたのは、初動を見抜く為、初動でタイミングさえ分かれば不可視でもあっても回避することは出来る。
回避から一気に距離を詰めるヨコヅナ。
「ボーヤならそれぐらい出来るだろうね」
ヨコヅナにそれぐらいの技量があることは裏闘で12戦も見てデルファも分かっていた。近づくヨコヅナにカウンターでの回し蹴り。
カウンターのタイミングは絶妙。だが、
(足が重い!?)
思うように体が動かないデルファ。疲労とダメージが蓄積されているのだから当然だ。
パスンっ、と少しも動きが鈍っていないヨコヅナの張り差しが先に当たる。
もちろん、ヨコヅナも疲労とダメージが蓄積されている。しかしこれも当然だ、ヨコヅナは毎日鍛錬を行っているのだから。
これは才能だけで戦っている者と努力を積み重ねて戦っている者の大きな差だった。
デルファは攻撃の痛みに動きが完全に止まる。ヨコヅナの張り差しは、精確にデルファの右耳を叩き、鼓膜へのダメージを負わしていた。
「耳の中を攻撃されたのは初めてだべか?でも、次も痛いだよ」
そう言ってヨコヅナが繰り出したのは【カチ上げ】。
ガヅンっとデルファの顎に体重が乗った肘が叩きつけれられる。
「がぁっ!?」
体ごと跳ね上がり、その後膝から崩れそうになるデルファの服を掴むヨコヅナ。
「終わりだべ、デルファ」
デルファは分かった気になってただけだ。ヨコヅナが裏闘で見せたのはスモウの一部でしかない。
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