第216話 4人中3人は脳筋じゃな


「はい、ウチあがり!」


 最後のカードをテーブルに出すイティ。


「またイティが一番っすか」

「3連続デ一番アガリ」

「イティはカードゲーム強いだな」


 ヨコヅナ、イティ、エフ、ジークの4人はロード会事務所の一室でカードゲームをしていた。


「つうか三人が弱過ぎ」


 ヨコヅナ、エフ、ジーク、腕っぷしは強い三人だが、頭を使うカードゲームなどはとことん弱く、子供のイティでも余裕で勝てる。


「三人は今日仕事休みなんだべか?」

「休みじゃないっす。デルファから待ってるように言われたっす」

「デルファノ商談終ワル、待ッテル」


 ヨコヅナも今後のスケジュールなどの相談で、事務所に来たのだがデルファが商談中だったので待っている間カードゲームをして時間を潰している。


「ウチはそもそも正式な従業員じゃねからな」

「イティは従業員じゃなかったんだべか」

「年齢的に無理なんだってよ、手伝いはしてるけどな」

「……でもイティ、いつも事務所にいるだよな」


 手伝いに来ているだけにしては、イティを事務所で見かける頻度は多い。


「ウチはここで住んでるからな」

「イティだけじゃなくて、あーしとジー君、デルファもここで住んでるんっすよ」

「ここに住んでるんだべか…」


 一緒にカードゲームするぐらいには打ち解けてきたヨコヅナだが、まだまだロード会メンバーのことで知らないことは多い。

 

「子供たちのいる屋敷に住んでないんだべな」

「屋敷デ寝ルコトモアル」

「でも事務所から遠いっすからね」

「それにウチ等があそこで住んでると、文句言うマ人がいる」

「…そうだべか」


 ヨコヅナは何故文句を言われるかを聞いたりはしない。

 事務所で住んでるという四人は、ロード会の中でも混血の証が目立つ。知らない者からすれば混血ではなく他種族と間違われるほどに。

 託児所の地区は治安は良いが、それは混血・他種族に対して寛容という事ではない、寧ろ差別意識は強い。それをお金で抑え込んでるだけの現状。

 子供達も一緒に暮らしたいと思っているが、子供達の為にも一緒に暮らせないのだ。


「そう言えばヨコやん知ってるっすか?最近ここに幽霊が出るんすよ」


 雰囲気を変える為か突飛な話題をふるエフ。


「幽霊だべか?」

「あんなの嘘だろ、出鱈目言うなよエフ」

「でも何人もが幽霊だって言ってるっすよ。ジー君も被害にあったんすよね」

「オ菓子ナクナッテタ」

「エフがまたつまみ食いしたんじゃねぇのか」

「あーしじゃないっすよ!それに幽霊は小さい少女らしいっす」


 ロード会の事務所に出る幽霊の噂とは、

 1.テーブルに食べ物を置いてると目を放した隙に減っている。

 2.ぼんやり透けてる少女を見た者がいる。

 3.少女の声、特に「わはは」という笑い声がする。

 他にも細かくはあるらしいが、大きく分けるとこの三つだ。

 

「つまみ食いする少女の幽霊だべか……」


 呟きながら頬をかくヨコヅナ。心当たりがあり過ぎた。


「だから!そんなのは勘違いか見間違いか聞き違いだって!」

「あ~イティ、幽霊怖いんすね」

「ちちち、違げぇよ!幽霊なんて存在しないって言ってんだよ!」


 声を大きくして強がっているが、誰がどう見てもイティは幽霊を怖がっている。

 そんなイティを助ける為ではないが、


「オラも幽霊なんていないと思うだよ(八大魔将はいるだべが)」

「だよな、ヨコヅナもそう思うよな」


 何気にイティがヨコヅナの名前をまともに呼んだのはこれが初めてだったりする。


「ちゃんこ鍋屋でも幽霊の噂があるだ」

「お前今いないって言ったじゃねぇか!」

「噂だけだべ。それも出鱈目な」

「どんな噂っすか?」

「ちゃんこ鍋屋の店主は幽霊だって噂だべ」

「ん?……店主はヨコやんじゃないんすか?」

「そうだべ」


 ヨコヅナも最近聞いたばかりだが、『ちゃんこ鍋屋の幽霊店主』なんて噂が囁かれてるのだ。


「え!?ヨコヅナお前幽霊なのか!?」


 距離をとろうとするイティ。それとは逆にジークがヨコヅナの肩に手を置く。


「触レル、足モアル。ヨコヅナ幽霊ジャナイ」

「だから出鱈目な噂だって言ってるだよ」


 何故そんな噂はあるかと言うと、

 事情を知らない者からすれば、店主が厨房にいる方がちゃんこ鍋屋は繁盛するのに、期間限定でしか店にいないのは不自然。

 そう思う者の一人が、「実は店主は幽霊で、数日間しか実体化出来ない」と冗談で言い、誰も本当とは思っていないが面白半分で広まってしまったのだ。


「幽霊の噂って全部、勘違いか、誰かの面白半分の嘘か、もしくは生きてる人の仕業だべ。死者の霊なんて存在しないだよ」

 

 ちゃんこ鍋屋やロード会の幽霊の噂関係なく、ヨコヅナは死者の霊的存在や現象を信じていない。そう思う理由は簡単でヨコヅナ自身が見たことないからだ。


「生キテル人ノ仕業」

「……つまり、食べ物をつまみ食いしたヤツが、幽霊に罪を擦り付けてるってことだな」


 ジークとイティの視線がエフに向く。


「だからあーしじゃないっすよ」


 エフはつまみ食いの常習犯なので疑われてが、本当にエフの仕業ではない。

 ヨコヅナはそれも分かっているが、


(可哀そうだべが、話すわけにはいかないだな…)


 ヨコヅナが罪悪感を感じながらも知らんぷりしていると、


「待たせたね」


 商談を終わらしたデルファが現れた。


「すまないんだけどボーヤ、急な仕事が入っちまってねェ。すぐに出ないと行けなくなったんだよ。悪いんだけどスケジュールの話は後日また来ておくれ。待たせた分バイト代はちゃんと払うよ」

「それは構わないだが、何か問題でも起こっただか?」


 デルファから感じる雰囲気が口調ほど軽くない。


「来てるついでにボーヤも手伝ってくれるかい?」

「オラに出来る仕事だべか?」

「出来るさ、まだボーヤがやったことないロード会の仕事だけどね。ジーク、エフ、用意しな」

 

 急遽入った仕事の人員は、デルファ、ジーク、エフ、そしてヨコヅナ。

 面子を見ただけで仕事の内容は想像がつく。


「荒事ってことだべか?」

「そうだよ。今からやる仕事は、ロード会創設時には稼ぎ頭だった業務『捜索』」


 業務内容として聞こえが良いように『捜索』と読んでいるが正しくは、


「賞金が賭けられた犯罪者を捕まえに行く、いわゆる『賞金稼ぎ』だよ」

 

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