第214話 とある執事の下働き 21


「そんなことあったんだ…」

「私も見たかったわ~」


 オルレオンに教育的指導をした日の夕食時、話を聞いて驚きと呆れ半分のエイトと見れなくて残念そうにするビャクラン。


「少し厳しく指導したと聞いていたが……壁に罅が入るほどとは…」


 ヨルダックには昼間の内に話してある、ヨコヅナのいない時の責任者だからな。それにヨルダックも私と同じ程度にラビスから事情を聞いて知っている。


「ヨルダックさん、壁に罅を入れたのはオルレオン君でヤズッチじゃないよ」

「だが庭で指導したこと自体が失敗だった。申し訳ない」


 ワコが庇ってくれるが、指導役を任されている以上あれは私の責任だ。


「どう見てもあれは料理屋の指導じゃねぇけどな」

「ヤズッチってそんなに強かったんだ」

「こいつヤベぇぞ。なんかこう強そうに見えないけどヤベぇ、ヨコさんとは違う感じでヤベぇ」


 語彙力低すぎだろシィベルト。


「ヤズッチは技巧派って感じだよね、格闘技が上手いって言うのかな」

「その表現で間違っていない、幼少の頃からケンシン流を習っていたからな」

「そうなんだ……前にラビスさんも強いって言ってたけど、この店実は強い人たくさんいたりするの?」

「それ俺も思った!どうなんだ?」


 エイトとシィベルトの視線はビャクランとワコに向いている。

 二人も実は強いのかと聞きたいのだろう。


「私は弱いわよ~、人を殴った事もないわ~」


 ビャクランが実は強いとかだったら私も驚きだ。


「私も弱いよ。トーカちゃんにも簡単に負けるもん」

「トーカちゃんってあの赤髪の少女だよね」

「そうだよ、三つ年下なんだけど格闘練習で勝ったことない」


 いや、あの少女はオルレオンと同じように天賦の才の持ち主だから比較対象が悪い。

 

「でも、ワコも格闘技習ってたんだ?」

「私の育った孤児院では、計算や読み書きと同じように格闘技も習うの」


 武神館出身でも、ワコは格闘技を習ってただけの普通の少女だ。


「私以外でオルレオンに勝てるとしたら、ヨコヅナ様とラビスぐらいだな。他の従業員はシィベルトより弱い者しかいないだろう」

「なんか俺が雑魚の基準みたいな言い方だな」


 みたい、と言うよりそのままだがな。


「シィベルトはその分料理が出来るのだから気にするな」

「微妙なフォローだなおい。……で、結局のところオルレオンは料理人としてじゃなくて、格闘家としてヨコさんの弟子入り志願ってことで良いだよな」


 ふむ、ここのメンバーなら話て良いだろうか…誤魔化しても混乱するだけだしな。

 ヨルダックに視線を向けると、


「話していいじゃないか」


 説明した方が良いとヨルダックも判断したようだ。


「シィベルトの言う通りだ。私も詳しくは聞かされてないが、格闘試合でオルレオンはヨコヅナ様と戦い敗れ、その強さに敬服し弟子入りを志願したそうだ」

「……オルレオン君が初めて店に来た時、顔を大怪我してたのって」

「ヨコヅナ様との試合での負傷らしい」

「包帯なかったら凄いイケメンで驚いたよね」


 ん……格闘試合、イケメン、ヨコヅナによって顔に大怪我……闘技大会でも似た事があったような。


「それで、何でちゃんこ鍋屋で働いてんだ?」

「…ああ、ラビスの指示だ、無賃金の労働力だからな」

「え、ただ働きってこと?」

「少なくとも一月はな、ラビスの言い分としては、ヨコヅナ様に稽古をつけて欲しいのなら料金を体で払えということらしい」

「あの暗黒メイドらしいやり方だな」


 ラビスの事だからもっと深く考えてる可能性はあるがな。


「でも何で二人は戦ったんだろ?格闘大会にでも出たのかな?」

「あんな大怪我させるぐらいなんだから、スゲェ賞金だったじゃねか」

「…ヨコさんは怪我してないよね。ヨコさんが優勝したってことかな?」

「そうなのヤズッチ?」


 聞かれても私も分からない、そこが詳しく説明されてない部分なのだから…

 

「それは私も…」

 

 聞いてないと言おうとしたその時、


「違うわよ~、ヨコさんは裏格闘試合で戦ってるのよ~」


 ビャクランの爆弾発言に言葉が止まる。

 

「え、何?裏格闘?」

「裏格闘試合…え、ひょっとして、試合の勝敗にお金賭ける、違法賭博の…」

「そうよ~。ヨコさんはそこで『不倒』って選手名で戦ってるらしいわ~」


 ビャクランの言葉に皆理解が追い付かない感じで驚いている。それはラビスから事情を聞いているヨルダックも同じだ、


「待ってくれビャクラン……それは本当の事なのか?」

「あら~、ヨルダックさんは知らなかったの~?」


 ビャクランは私に「知ってる?」と視線で問うてくる。


「それはラビスが私達にも話していない、秘密にしてる部分だな」

「……それじゃ~、この話は止めときましょうか」

「いやいやいや、滅茶苦茶気になるから」

「ヨコさん悪い事してるの?」


 不安そうに聞くワコ、違法賭博に参加してると聞けば当然か。

 

「違法賭博と言っても捕まることはないから、安心して良いわ」

「そう言われてもな…」

「う~ん…皆なら話て大丈夫かな~。ヨコさんが悪人と思われるのもあれだしね」


 このままだと次ヨコヅナが来た時、見る目が変わってしまうからな。


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