第213話 とある執事の下働き 20
魔力強化は上級軍人なら皆習う、だが習ったからと言って皆が使える訳ではない、また使えたからと言って魔力が少ない者の場合はさして能力は向上できない。
魔力強化は生まれ持っての才能が必須、だから上級軍人でも一部の者しか使えないと言われている。
「ハァー!!」
オルレオンの目にも止まらない連続攻撃。
「何だよあの動き速すぎだろ!?」
一般人のシィベルトから見ればそうだろうな、
「でも、ヤズッチには当たってないね」
「ヤズッチのヤツ、あんなに強かったのかよ…」
オルレオンの連続攻撃は、一撃として私にまともに当たっていない。
いかに速かろうと無駄が多く単純、容易に全て受け流がせる。
オルレオンは魔力強化を詳しく習ったわけでもなく使え、その上魔力の量も常人よりはるかに多い。いわゆる天賦の才の持ち主というやつだ。
格闘技の基礎鍛錬などやらずとも、自分の好きなように戦って負け知らずだったのだろう。
だが、いかに天賦の才の持ち主であろうと、
「セァ!」
オルレオンの気合の入った上段蹴り、私は半歩前に出て、
「才能に胡坐をかいている者に、私を倒すなど不可能だ」
蹴りの膝辺りを手で押さえて止め、ガラ空きになっている脇腹に中段突き。
「ぐぁ…」
さらに、バランスを崩しているところに下段蹴り。それだけオルレオンは無様に尻もちを着く。
はぁ~…ヨコヅナもこれぐらい簡単に倒せれば良いのだがな。
「まだやるか?」
「ぐっ…当然だ!」
オルレオンは立ち上がる勢いのまま跳躍する。私に向かってではなく、建物の壁に向かって、
そして、壁を足場にして更に跳躍し、三角飛び蹴りを繰り出してきた。
凄まじい速度…だが、そんなものは関係ない
「壁を壊すなバカ者」
私は蹴りを受け流し、カウンターでオルレオンの顎に拳を合わせる。
オルレオンは自身の飛び蹴りの勢いのまま、盛大に転げ倒れる。
私は大きな罅が入ってしまった壁を見て、
「ラビスに小言を言われてしまうな」
庭で戦ったのは失敗だったか…まぁ今さら後悔しても仕方ないな。
私は視線を倒れてるオルレオンに向ける。
「うぅ…」
気は失っていないが、立ち上がる事は無理なようだ。
「もう気は済んだかオルレオン?」
「……こんな、事が」
答えになっていないが眼に力が無い、戦意を失っているな。
「ラビスからこういう場合の対処も任されている。お前の選択肢は二つ、弟子入りを諦めここから去るか、私の指導のもと働くか」
正直なところ、ここで働かなくとも訓練場に行けば、ヨコヅナの鍛錬に参加することは出来るらしいが、それは内緒だ。
「一つ、聞きたい……君は、何者、なんだ?」
「ただのちゃんこ鍋屋の下っ端従業員 ヤズッチだ」
「そんな、バカな話が…」
納得出来ないのも当然か、そうだな…
「お前が納得しやすいように説明するなら、私もヨコヅナに負けたからここで働いている」
様が抜けてしまったな…まぁ今は呼び捨ての方が格好がつくか。
「そして、ヨコヅナを倒すことを目標にしている者の一人、とでも言ったところだな」
「……俺と同じ、か」
「別に弟子入りはしていないがな」
ヨコヅナの使う格闘技 スモウには少し興味あるが、習うには褌一丁にならないといけないからな。
「分かった、いや、分かりました」
オルレオンは足元が覚束ないながらも、立ち上がりお辞儀をする。
「ご指導のほどよろしくお願いします。ヤズッチさん」
自分より強い者には素直に従うのか、ある意味扱いやすいな。
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