第212話 とある執事の下働き 19
あれは、オルレオンの顔の包帯がとれ、ちゃんこ鍋屋で働くようになった初日にまでさかのぼる。
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オルレインは腕前を視るのに、芋の皮剥きをしていた。
料理人としての初歩中の初歩らしいのだが、
「……芋の皮剥きすら碌に出来ないのに、ヨコさんの弟子入り志願とかどういう神経してんだお前?」
呆れた顔をするシィベルト。転がっている歪な芋を見れば無理もない。
「接客のヤズッチの方が上手いじゃねぇか」
私も一緒に芋の皮剥きをしている。オルレオンに比べれば上手いと言えるが…
「だが、シィベルトに比べるとまだまだ無駄が多いし遅いな」
やってみて分かったが包丁で素早く無駄なく奇麗に芋の皮剥きをするのは、簡単ではない。
腕前を視るのにやらせる意味がなんとなく分かった。
「当たり前だ。器用な素人と料理人を一緒にすんな。だからって無理に急いて手を斬るなよ」
相変わらずのツンデレだな。
「オルレオンは、遅くても良いから一個一個丁寧にやってみろ」
「はい、分かりました」
シィベルトに諭されオルレオンは次の芋を手に取り、
「……って、違ーう!!!」
と、突然叫んだ。
「五月蠅いぞオルレイン。皮剥きが上手く出来ないからって叫ぶな」
「芋の皮剥きは関係ない、寧ろ何故ヨコヅナ殿の弟子入りをして芋の皮剥きをしなくてはならない?」
「…ちゃんこの作り方を教えて欲しいとでも言いたいのか?十年早ぇよボケ。それに誰もお前をヨコさんの弟子なんて認めてねぇ」
ヨコヅナの弟子として認められているのはヨルダック。他は強いて言えば、シィベルトもちゃんこ丼を作っているので弟子と言えるかもしれない、さすがに師匠とは呼んでないが…
ちゃんこ鍋屋に弟子入り志願する者は少なくないが全て不採用だ。理由は単純明快で料理の腕前、この店はヨコヅナは例外として、元王宮料理人のヨルダックをはじめ、高級料理店で働いていた経験を持つ一流料理人しかいない。並の料理人が働ける場ではない。
「暗黒メイドはなんでこんなのを採用したんだ?」
シィベルトも料理人として理解できないだろうが、そもそも前提が間違っている。オルレオンは料理を習いたいわけではないし、ラビスもオルレオンを料理人として採用したつもりはない。
あの暗黒メイドは、無賃金で働かせれる人材だから採用したのだ。
「貴様と話をしても無駄のようだな、ヨコヅナ殿は今日は来られないのか?」
「だから十年早ぇつってんだろうがボケ!」
「雑魚は黙ってろ」
「ああん、どうやら口の利き方から教える必要があるみてぇだな」
にらみ合い一触即発のシィベルトとオルレオン。
「やめろシィベルト」
「止めんなヤズッチ、生意気な新入りは力づくでの指導も必要なんだよ」
「その考えを否定するつもりはない。だがオルレオンの指導を任されてたのは私だ」
私はオルレオンの指導役をラビスから任命されていた。
まったくラビスは私に厄介事ばかりを押し付ける、しかも事情は一部しか話さないしな。とは言えこいつを指導できるのは私しかいないだろう。
「シィベルトには荷が重い」
「オイオイ、こんなやつに俺が腕っぷしで負けると言いてぇのか?」
シィベルトは喧嘩に自信があるのようだが素人レベルだ。相手の実力を測る事も出来ないようだしな。
「そんなのだから、ラビスに喧嘩売ってボコられるんだ」
「ぐっ……あれは、あの暗黒メイドが異常なだけで…」
「コイツも異常な部類だ、ここは私に任せろ」
「コイツもって……ヤズッチは大丈夫なのかよ?」
シィベルトは料理の腕は一流だが、人の強さを見抜く目は二流以下だな。
「当然だ、私はラビスより強い」
私は芋と包丁を置き、立ち上がる。
「場所を変えるぞオルレオン」
「俺は別に争いたいわけではない。君がそれなりの実力なのは分かるが、俺には敵わない」
私に対して「それなりの実力」か、こいつも二流以下だな
「もし私に膝をつけさせる事が出来たなら、明日にでもヨコヅナ様の稽古に連れて行ってやる、それでどうだ?」
「……いいだろう。怪我しても文句は言うなよ」
庭で私はオルレオンと向かい合う。
「ヤズッチとオルレオン君何するの?ちょっと危ない雰囲気だけど…」
何事かとワコも庭に出てきた。
「生意気な新人に教育的指導だよ」
「指導?……ヤズッチ、暴力での指導は良くない思うよ」
確かに料理店の指導で暴力は良くないだろう。しかし今回はお互い同意の上だ。
「安心しろワコ、朝稽古の手合わせと同じ様なものだ」
「……そうなんだ、でも怪我させないようにね」
「ヤズッチの心配はしないのかよ?」
「大丈夫だよ、ヤズッチ強いから」
ワコは私が負けるとは欠片も思っていない、ワコが一番見る目があるな。
「いつでもかかってきて良いぞ」
「そうか、では遠慮なく…」
オルレオンは一瞬にして私の前まで移動し、
「倒させてもらう」
拳を繰り出して来た。
肩を狙っての拳を私は半身になってかわす。オルレオンは続けて中段蹴り、狙いは腹部ではなく臀部…、私は蹴りを後ろに下がってかわす。
「遠慮なくと言っておきながらお優しい事だな」
怪我しても大事ない箇所を狙い、力も加減している。
「だが、それでは私には当たらないぞ」
「そのようだな!」
次のオルレオンの攻撃は上段突き、加減なしの拳が私の顔面に迫る。
「がはっ!?」
私は拳を軽く受け流し、カウンターで中段突きをオルレオンの腹に叩き込む。
その一撃だけで攻撃を止め、後ろに下がるオルレオン。
「軟い腹だな。ヨコヅナ様ならこの程度眉一つ動かさないぞ」
いや、私の感覚がおかしくなっているだけか…
魔力強化した攻撃を喰らって平然としてるヨコヅナが異常なのだがら。
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