第211話 とある執事の下働き 18
「お待たせいたしました。白玉団子になります」
「あ、ありがとうございます」
オルレオンを見て顔を赤らめながらお礼をいう女性客。
「オルレオン君も接客サマになってきたね、ヤズッチの指導の賜物だね」
ワコはそう言うが私から見れば、
「まだまだ、動きも表情も硬い。しかも近くに回収できる食器があるのに気づいていない」
仕事に集中していない証拠だ。
「でも、女性客には人気あるよね」
「見た目は悪くないからな」
オルレイオンの整った顔立ちと服の上からでも分かる鍛え体が、年頃の女性にはウケるようだ。男性客には厳しい視線を向けられている、まぁただの嫉妬だろうがな。
「白玉団子目当てで、女性客増えたから丁度良かったよね」
少し前まではちゃんこ鍋屋の客の割合は男性8に女性2だったのだが、最近は男性6に女性4ぐらいまでに女性客が増えた。しかも男性客も微増している。
それはワコの言う通り白玉団子が目当てでだ。
ラビスの予定していた通りに、『コフィーリア様の生誕パーティーで大好評だったデザート』という謳い文句で売り出した白玉団子。
ちゃんこ鍋屋がコフィーリア王女が所有する店であることは周知の事実なのでこの宣伝をデマと思う者はいない。
多少値段が高かろうと売れないわけがない。それに、
「実際白玉団子は美味しいからな」
「ヤズッチ白玉団子好きだよね」
「何にでも合うからな」
ヨコヅナが最初作ったあんこと苺の乗せた白玉団子は、甘さ控えめのデザートだったが、従業員の意見を取り入れ、
「白玉団子、蜜あり餡子も甘多で」
と甘さを増やしたり
「私は白玉団子、フルーツ大盛で」
苺以外の果物を乗せたり、 色々なバリエーションをお客が選べるメニューになっている。
さらには、
「ちゃんこ。白玉団子入りで」
と、ちゃんこ鍋に入れることも可能なのだ、しかも美味しい。
白玉団子自体は味が薄く、食感や喉越しが特徴の食材。だからどんな料理にでも合うのだ。
「白玉団子のお陰で売上も上がっているしな」
暖かくなるにつれやはり鍋料理の需要は低くなる。ちゃんこ鍋がメイン料理のこの店の売上が減少するのは当然。
それを補ったのが新規女性客を増やし、常連客もちゃんこの後にプラスで注文する白玉団子だ。
「ラビスさんの狙い通りだね」
確かにラビスは白玉団子をメニューの載せる前から、それこそ試食をした段階でこの状況を狙って段取りを進めていただろう。
だが、凄いのはラビスではない。
「本当に凄いのはヨコヅナ様だがな」
ラビスはあくまで選択肢の中で利益の高くなるものを選んでいるに過ぎない、その選択肢を作り出しているのがヨコヅナだ。
その気なれば私でもラビスの代わりは出来るだろうが、ヨコヅナの変わりは出来ない。
「あはは、そうだね。温和で接しやすいから全然そうは思わないけど、ヨコさんってかなり凄い人だよね」
私から言わせれば「かなり凄い」どころではない。平民でありながら、あのコフィーリア様と生誕パーティーでダンスを踊った男なのだ。しかもその後肩に座らせていたしな。
「ヨコヅナ様の凄さは常識の範疇に無い、異常だあの男は」
「なんか悪口みないだね。でも、オルレオン君がこの店で働いてる本当の理由を聞いたから、否定できないかな…」
オルレオンはヨコヅナの弟子入りを志願してこの店に来たのだが、料理を教わりたいのでない事は、ワコ達も知っている。
あれは、オルレオンの顔の怪我が治り、ちゃんこ鍋屋で働くようになった初日にまでさかのぼる。
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