第207話 変わりは沢山いるらしいしの
「面会に応じて頂きありがとうございますコフィーリア王女」
場所はコフィーリアの応接室。ヨコヅナと話をした次の日にラビスはコフィーリアに会いに来ていた。
「構わないわ。ちょうどつまらい仕事しかやる事がなくて暇だったのよ」
「姫様それは暇とは言わないですよ~。ラビスお茶どうぞです~」
「ありがとうございますユナ」
今応接室にいるのはラビスとコフィーリア、それとメイドのユナだ。
ヤズミは今日はちゃんこ鍋で働いているのでいない。
「私もラビスとゆっくり話がしたいと思っていたから丁度良かったわ」
書類での定期報告で状況は把握しているが、ラビスがコフィーリアと会うのは生誕パーティー以来、パーティーでも生誕祝いの挨拶程度の話しか出来ていない。
と言っても、ラビスはコフィーリアを一昨日見ている、男装はしていたが。
「一昨日は驚きました、まさかゲスト解説者として、実況席で観戦なさるとは思いませんでした」
雑談から話を始めるラビス。話題はヨコヅナの裏闘Aランク試合をコフィーリアが観戦に来ていた件だ。
「あなたも会場にいたのね。だって個室席は少し距離があって見辛いのだもの。あの会場で最も試合を良く観戦できるのは実況席でしょ」
「それは間違いありませんね」
試合を観て実況しないといけないのだから、会場の中で実況席は一番試合が見やすい場所と言って間違いない。一国の王女が違法賭博の裏格闘試合を観戦に行っている時点ですでに間違ってはいるが。
「どうでしたか、試合を観戦されて?」
「ヨコの…ふふ、『不倒』VS『スピード』、第一試合はとても見応えあったわ。両選手の格闘の実力、試合の展開、刹那の判断が勝敗を分けた壮絶なラスト」
初めての裏格闘試合の感想を笑顔で話すコフィーリア。
「まさに謳い文句でもある、血が舞い骨が砕ける裏格闘試合。色々コネを駆使して観に行った甲斐あったわ。でもそう思えたのは、第一試合だけ…」
笑顔から一変、コフィーリアは表情を不機嫌なものにする。
「残りの三試合はてんで期待外れ」
「そうなのですか」
「ラビスは観てなかったの?」
「私はヨコヅナ様が会場を出たのを見て、帰りましたので」
「そう…」
コフィーリアが観た残りの試合は、やる気が感じられない引き分け狙いの試合や、魔力強化に胡坐かいた選手のただのド突き合いのような試合だった。
「一試合目が期待以上だっただけに落胆が大きかったわ、解説で『つまらない』と言ってしまったもの」
「クククっ、つまらない試合を面白くなるように実況・解説するのが仕事だったのでは?」
「大丈夫よ、ヘンゼンが頑張って解説していたから」
「…ヘンゼンさんは『不倒』の選任なので、解説するのは第一試合だけだったはずでは?」
「ええ、でもつまらないから呼び戻して最後まで私の分も代わりに解説してもらったわ」
さすがはコフィーリア。ゲスト解説として招待してもらってて、しかも初めての裏闘にもかかわらず、傍若無人っぷりの桁が違う。
「彼もコクエン流の使い手だそうね、ラビスは知り合いだったの?」
「いえ、私はヘンゼンさんが選任としてスモウの稽古を見学に来たの時に初めてお会いしました」
「あぁ、そういえば稽古を見学に行ってヨコとハイネの手合わせも観たと言ってたわね……またこっそりと見学に行こうかしら?」
「姫様こっそりはやめてくださいよ~。事前にハイネ様と都合を合わせて正式に見学に行かれればよろしいではないですか~?」
以前コフィーリアがこっそりヨコヅナの朝稽古を見学に行った時は、王女が行方不明になったと騒ぎになったのだ。まぁコフィーリアがこっそりいなくなるのは割とよくあったりもするのだが…
「こっそりが楽しいのだけれどもね……まぁ次はそうしましょう」
了承しつつも、次はと付いているので、それ以降は分からない。
「そう言えば、ヨコの怪我の具合はどうなのかしら?裏闘の係の者から問題ないとは聞いたけど、用心の為に試合後すぐ帰ったのでしょ」
「問題ありませんよ、次の日普通に朝稽古に向かいましたから」
「さすがの頑強さね。……ではそろそろ本題に入りましょうか」
コフィーリアは口元は笑みでありながらも目は真剣みを帯びた表情になる。
「わざわざ面会を求めた理由は何かしら?」
ラビスはそんなコフィーリアを目を真っ直ぐ見て、
「お暇を頂きたく思います」
退職の意を伝えた。
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