第206話 三日もいなくて大丈夫かの?


 ヨコヅナが親父と呼ぶ、タメエモンが本当の父親でないと知ったのは10年以上も前の幼き頃。

 それも、教えられたのではなくタメエモンと村長が話しているのを盗み聞きのような形で知ってしまった。

 ショックを受けたヨコヅナは、真実を知るのが怖くてタメエモンに確認出来ず一人悩んだ。

 そんな様子を変に思って声をかけたのがオリア、ヨコヅナが捨て子の件を今までで相談したのは唯一この時だけだ。

 話を聞いてオリアが言ったのが、


「きっと聞き間違いだよ。だってヨコはタメエモンさんと似てるもん」


 この言葉がヨコヅナの運命を変えたと言える。

 以降ヨコヅナはスモウの稽古に真剣に取り組むようになった。

 ヨコヅナも初めから頑強な体だったわけではない、四股やすり足で足腰が立たなくなり、張り手で皮膚が擦り剥け、ブチかましで頭から血を流す。

 周りの者が体を壊すから止めるように言っても聞かず、


「オラは親父の息子だべから、これぐらい出来ないとおかしいだよ」


 言葉遣いもタメエモンを真似、毎日スモウの稽古を怠らず身体づくりも続けた結果が今のヨコヅナだ。

 



「真似てると言っても十年以上だべから、もうこれがオラだべがな」


 笑いながらそう言うヨコヅナはいつものヨコヅナだった。

 ラビスは幻でも見たかのような気分だ。


「親父が死ぬ間際に本当の事を教えてくれただ。生みの親は誰なのかは分からないだが、赤ん坊のオラの所持品から「エイツゥ連合国が故郷だろう」って言ってただ」

「連合国ですか…、そこに本当のご両親が」

「血が繋がって無くてもオラの本当の親は親父だべ、そしてオラの故郷はニーコ村。見た事ない親も国もオラには関係ないだよ」


 これはヨコヅナの本心だ、今回の事が無ければ誰にも話すことはなかっただろう。


「そんなわけで、オラがラビスを贔屓しているとしたら同じ境遇だからだべな」

「同じ境遇……ふふ、そうですね」


 ヨコヅナの秘密と本当の理由を聞けて、嬉しそうに笑うラビス。


「私も、養父からコクエン流を習ったのですよ」

「そうなんだべか、オラと一緒だべな」

「ええ。他にもありますよ」


 その後、ラビスは今まで話した事なかった、自分の過去を色々と話した。

 高齢だった養父は天寿を全うして亡くなっている事や、闘武大会に出場したことで、コフィーリアの目につきメイドになった事や、裏闘とは別の主催だが賭け試合で戦った事があるなど、

 

「ふふふ、色々と一緒ですね」

「ははは、ほんとだべな」


 そうしている間に訓練場に着く。


「ヨコヅナ様」


 ラビスは真剣な、いつもの仮面を張り付けたモノではなく、本物のラビスの真剣な表情でヨコヅナを見る。


「しばらく休暇を頂いても宜しいでしょうか?」

「あんまり長期だと困るだが」

「安心してください。三日程で済むと思われます」

「それなら良いだよ」


 ヨコヅナは休暇の理由も補佐を続けるかも聞かず、


「待ってるだよ」

「はい、ヨコヅナ様」

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