第201話 バカ者め…
ヨコヅナが裏格闘試合の参加に同意し、戦っているのには個人的な理由もあった。
それは、
「今のままじゃ、何度やってもハイネ様を捕まえれる気がしないべからな」
違う環境で戦う事で、格闘技術の向上、新たな戦術のヒントを見つけれる可能性があると考えたからだ。
つまり、ハイネとの手合わせで勝つ為の練習として、実践並みに危険な裏格闘試合にヨコヅナは参加しているのである。
そして練習相手になりそうな選手がやっと現れた。
「……この離れた相手への打撃は使い勝手良さそうだべが、難しそうだべな」
今まさに喰らっている拳弾は、打撃を飛ばす技術もそうだが、何より速さが重要なのでヨコヅナが習得するのは難しいだろう。
「まず、速い打撃の技術だべな……その為には何とか打ち合いに応じて貰わないといけないだな」
今のように4、5発打たれて離れられると、技術を学び取る事が出来ない。
「………こんな感じだべかな」
ヨコヅナは少し考えた後、構えを変える。
『…『不倒』選手構えを変えました、あれは?』
『真似ているようね、『スピード』の構えを』
手は若干開き、ステップと言うより唯、体を揺らしているだけだが、明らかにヨコヅナの構えは『スピード』を真似たものだった。
『挑発行為か…』
ヘンゼンが言う様に、ヨコヅナが構えを真似たのは『スピード』への挑発行為にもとれる。
自分の構えを真似ているヨコヅナを見ても、『スピード』の表情に変化はなくヨコヅナに拳弾を放つ。
ヨコヅナは拳弾を受けながらも前に出る。しかし間合いを詰めるも自分から手を出さない。
『スピード』は今まで通り、連撃をヨコヅナに喰らわせ回り込もうとするが…
『距離を取りたい『スピード』選手だが回り込めない!?攻撃をまともに喰らいながらも『不倒』選手の反応が速い!!』
『カウンターではなくて、受ける覚悟をしているから、その後の動きに反応できているのだろう』
『スピード』はさらに連撃を繰り出し、ヨコヅナの動きを止めて回り込もうとするが、移動しようとする先にヨコヅナが腕をだして通させない。
回り込むことが出来ないまま、『スピード』が後ろに下がっていく、その結果金網の中で行きつくのは…
『とうとう『スピード』選手コーナーへと追い詰められた!!』
ヨコヅナはコーナーに追い詰めた『スピード』に対して、構えだけでなく、動きも真似て、素早く張り手をだす。
ヨコヅナの張り手を腕で防いだ『スピード』だが、その威力の低さに訝しげな表情になる。
さらに、ヨコヅナは張り手の三連打。それも速いだけで威力が低い。
『何のつもりなんだ『不倒』は?あのまま捕まえれば…』
『正面から打ち合いたいみたいね。わざわざ構えを真似てるところを見ると、速さ重視での打ち合いを』
『なんてことでしょう『不倒』選手!?『スピード』選手相手に打撃速度での打ち合い勝負を誘ってます!!』
『スピード』は打ち合いを請けるかのように連撃を返す。どのみちコーナーでは強引に回り込もうすれば捕まる、なら打ち合いに応じるふりでもして隙をついて、回り込むのが賢明だ。
『スピード』の連撃を幾発か喰らいながらも、また素早く掌底を返すヨコヅナ。
ヨコヅナの掌と『スピード』の拳で足を止めての壮絶な打ち合いになる。
「速度勝負とか、調子乗ってるんじゃねェガキ!!」
「いけぇ!『スピード』!!」
「そんなデブやっちまえ!!」
ヨコヅナの不遜な行動と見応えある打ち合いに会場の観客達もヒートアップする。
『両者足を止めての打ち合いに会場も大盛り上がりです!……しかし、これは!?…』
実況しながらも驚きと疑問の混じった声が漏れるニュウ。
何故ヨコヅナは『スピード』を捕まえず打ち合いをしているのか?……と、いう事にではない。
何故ヨコヅナが『スピード』と打ち合いを出来ているのか?と、いう事に驚きと疑問を感じているのだ。
ヨコヅナが体格に似合わぬ速さを有しているのはニュウも分かっている、だがそれでも、裏格闘試合Aランクでトップクラスの打撃速度を有する『スピード』と打ち合いが出来ている事実が信じられないのだ。
『ふふふ、驚くわよね。闘技大会の時とはまるで別人だわ』
ヨコヅナは闘技大会では、デュランやトーカの速度にすらついて行けてなかった。『スピード』はその二人よりも更に速い。
だというのに、一方的に打たれてるのではなく、打ち合いになっているのだ。
『あの大会からまだ一年も経っていないのに……、なんて成長速度…』
『何を言ってるのよ。あなたが紹介してたじゃない、『不倒』はビックルーキーだって』
ヨコヅナがビックルーキーと呼ばれるのは、試合数が少ないのもあるが何よりも年齢が若いからだ。
『単純に年齢で見ても『不倒』は成長期を抜けていないわ。そして格闘家として見るなら』
パンっ!
軽くではあるが、ヨコヅナの張り手が、初めて『スピード』の顔を捉える。
『寧ろ『不倒』が強くなるのはこれからよ』
打ち合えていると言っても、始めはヨコヅナの張り手は全て腕で防御されていたし『スピード』の拳はヨコヅナの防御を抜け幾発かはまともに当たっていた。
「少しずつ分かってきだた」
だが、徐々にヨコヅナの張り手が当たるようになり、その割合が変わっていく。
「くっ、こいつ…化物か!?」
『スピード』が驚きの声が漏らす、ヨコヅナの打撃速度が上がっているのを目の前で、文字通り体感しているのだから無理もない。
そして一気に打ち合いは、ヨコヅナの優勢になる。
『信じられません!?あの『スピード』選手が速度勝負の打ち合いで押されています!!』
速さ重視の軽い張り手でも数発喰らえば『スピード』には十分なダメージになるのだ。これは『スピード』が打たれ弱いと言うよりも『スピード』の攻撃を喰らってほとんどダメージがないヨコヅナが異常なのだ。
『これから強くなる、か……まさにその通りだな。『不倒』にとってこの試合は練習に過ぎないのだろう』
『それはどういう意味ですか?ヘンゼンさん』
『俺は稽古を見学に行って知っている。『不倒』が勝ちたいと目標にしている相手は次元が違うと』
『…あら、ヘンゼンは『不倒』と彼女との手合わせを見た事あるのね』
『え、ああ…』
『私はタイミング合わなくて、まだ観れてないのよね』
『……やはり』
リアの言葉を聞き、「『不倒』と知り合いなのか」と口に出しそうになって止めるヘンゼン。
ヘンゼンはリアの正体を知らない。ただ、絶対に正体を詮索はしないようにと事前に言わていた。つまりそれだけリアが大物なのだとヘンゼンも察している。
『二人とも、話が試合からズレてますよ』
『ああ、すまない。俺が言いたかったのは『スピード』の打の技術を盗み学ぶ為に『不倒』は打ち合いをしていたんだ。……だが、『スピード』には『不倒』の練習相手は荷が重すぎたようだな』
すでに『スピード』は攻撃せず、両腕で頭部を守るだけで防戦一方になっていた。
『そのようね。……『不倒』も終わりにするみたいだわ』
ヨコヅナが『スピード』の頭部を守る為に顔前に上げていた腕を掴む。リアの言う通り投げ技で勝負を決める為だ。
『……ヘンゼンさんもリア様も、そして『不倒』選手も』
ヨコヅナが『スピード』を投げようと引き付けた瞬間、
『見くびり過ぎです』
金網の中でヨコヅナの鮮血が舞い散った。
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