第198話 お転婆にもほどがあるじゃろ
『皆様、お待たせいたしました。これより!!裏格闘試合Aランクを開始いたします!!!実況は私、ニュウが務めさせて頂きます』
ニュウの言葉にAランク会場の観客達がワアァァァ!と歓声で応える。
『そして、第一試合の解説をしてくださる…」
『ヘンゼンだ。よろしく頼む』
『よろしくお願いしますね、ヘンゼンさん。一緒に盛り上げましょう!』
『ああ(……調子狂うな)』
いつもビックマウスと組まされるヘンゼンは、突然の相方変更に違和感が大きい。
因みにビックマウスは「俺が先に選任になったのに~」と仕事を奪われたので、やけ酒を飲んでいる。
『さらに今日はゲスト解説者に来て頂いております』
基本実況席には二人なのだが、今日はニュウ、ヘンゼン、の他にもう一人いた。
『リアよ。諸事情があって仮面をつけての解説になるけど、宜しくお願いするわ』
ゲスト解説者は仮面をつけて顔を隠しており、また、声や体型から女性なのは明らかなのだが、男装をしていた。
正体を隠して怪しく思えるゲスト解説者だが、裏格闘試合は違法賭博なだけに正体を隠している観戦客は普通にいる。
なので皆、何故解説者がもう一人いるのだろうか?と疑問に思っても、何故正体を隠してしるのだろうか?とは思っていない。
ただし、正体に気づいた者は別の疑問を抱かずにはおれない。
金網闘技台の中にいるヨコヅナは、
「……なんでそんなとこにいるだ?…姫さん」
その疑問を小さく呟いた。
今日の裏格闘試合Aランクの第一試合は『不倒』VS『スピード』だ。
生誕パーティーの際、ヨコヅナはアルバイトの情報を全て報告するように命令された。だからロード会でデルファ達と相談して決まった『スピード』戦の日時なども伝わっている。
その為ヨコヅナも、お転婆姫が試合を観戦に来るかも、とは考えていた。
しかしそれは、絶対に正体がバレないようにこっそり観戦すると思っていた。裏闘には観客の情報秘匿を重視した特別な個室観覧席も存在する。
だというのに、金網闘技台の次に、注目されると言って良い実況席にゲスト解説者として座って観戦しているのだ。
「お姫様が違法賭博の格闘試合なんかに来てることがバレたら、大変なことになるんじゃないんだべかな?」
ヨコヅナの危惧も当然だが、アルバート家の令嬢であるニュウは変装もせず実況をしている。
ニュウは祖父が裏闘の重役と言っていたが、実質その祖父が裏闘運営のトップ、現在の裏格闘試合はアルバート家が管理、運営しているのだ。
そして、アルバート家は王族と遠縁でもある大貴族。
つまり、裏格闘試合は違法賭博でありながらも、王国がしっかり管理しているのである。
正確言えば、違法な賭博を王国が管理する為に裏格闘試合がある、裏闘が無かったら別々の運営者による小さい違法賭博が多く王国に存在する事になる、そうならない為の必要悪なのである。
しかし、
真実は国が管理してるとは言え、世間的には違法賭博と認知されている裏格闘試合。
王女が違法賭博の裏闘に出入りしているとなれば、悪い風評が出回るだろうし、物理的な危険もある。
だがしかし、
(ふふ、前から観戦に来たかったのよね、裏格闘試合)
そんなものは全く気にしないのが、ワンタジア王国第一王女、コフィーリア・ヴィ・ダリス・ワンタジアである。
『では、第一試合の選手の紹介です!!』
ヨコヅナの疑問は残ったままだが、試合のスケジュールは進行する。
『東方コーナーに立つのは!今、裏闘で最も注目されてるビックルーキー。全戦全勝全K.O!!名前通り、闘技台で膝を着いたことは一度もない。ロード会代表選手『不倒』!!!』
ニュウの選手紹介と合わせて、ヨコヅナは四股を踏む。
それを見て前回同様、観客達から大きな歓声が上がる。
『へぇ~、『不倒』は観客へのパフォーマンスで四股を踏むのね』
Aランクで選手紹介の時に観客へのアピールで簡単なパフォーマンスをする者は多い。勝ち上がる事に必死なC、B、と違い、開始前に奇襲する選手がAではまずいないからだ。
『前回の試合ではパフォーマンスでもなく、たまたま紹介の時とタイミングが合ったらしいんですけど、今回は私が頼んだんです』
ヨコヅナはもともと観客へのアピールなんてするつもりはなかったが、『不倒』唯一無二のパフォーマンスであり、観客の反応も良いからと、ニュウが自己紹介と合わせてやって欲しいと頼んだのである。
『稽古の一種らしいですけど、カッコイイですよね!』
『私は『不倒』の四股を踏む姿は美しいとすら思うわ』
『二人がそう言うのは分かる…が』
ヘンゼンは、スモウの朝稽古を見学に行って、スモウを教わっている兵士達が、一人として、満足に四股踏みも出来ていない事を知っている。自分でも真似てみたが想像以上に難しく、ヨコヅナのように天に足の裏が向く程の高く上げて一時停止するなど出来る気がしなかった。
だから、ヘンゼンもヨコヅナの四股を踏む姿を見て、凄いと思うし、カッコイイとも思うが、
『今は相手の選手紹介を早くするべきだろう』
『おっとすみません、そうでした』
『そうね、片方を贔屓するのはいけないのだったわね』
解説や実況が片方の選手だけを、贔屓するのは良くないのだ。
『対する西方コーナーに立つのは!常に己の戦い方を貫き、格闘技術においては武九王クラスとも言われるこの男!!ソーロー社代表選手『スピード』!!!』
紹介をされて『スピード』は拳を上げるだけの、簡単でありきたりなパフォーマンスをする。
『…『不倒』を贔屓したことにならない為に、『スピード』も褒めたいところだけど、地味な選手ね』
初見『スピード』に対して、多く者がリアと同じことを思う。
顔、体型、服装、見た目どれも地味なのだ。
さらに、
『5勝2敗8分け、戦績もパッとしないな』
『それに、5勝の内1回は、武器有り相手の時間切れ勝ちで、2回は新人潰し的な勝ちです』
試合自体もあまり盛りあがらない、だから『スピード』が注目される第一試合で戦うのは珍しい。
『Aランクで15回も戦ってるのは凄い、で良いのかしら?』
『トップ選手ならもっと多く戦ってる人もいますが、『スピード』選手の試合頻度は凄いですね。それを「勝ちに拘らず負けない試合をしているからだ」と、言う人もいますが、『スピード』選手は八百長警告されてません』
裏闘は八百長には厳しく、
勝ち負けの八百長をした場合、一発で出場停止になる。
引き分け狙いも、約束があったかの事実は関係なく八百長と判断された場合、
2回は警告、3回目で出場停止だ。
だが、『スピード』は一度も警告を受けていない。
『裏闘の運営が8試合を両者本気で戦って引き分けたと判断したわけね』
長い歴史があるだけに、裏闘の関係者は格闘試合を観る目は肥えている。
『だったら、少しは楽しめる試合を期待できそうね』
これから始まる『不倒』VS『スピード』の試合に期待し、仮面の下に笑みを作るリアだった。
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