第197話 計画通りじゃ
場所はロード会の応接室。
デルファに呼び出されたヨコヅナとオリア。
呼び出された理由は、
「次のボーヤの対戦相手を決めたいんだよ」
エムド戦は勝手に決めたデルファだが、約束を守って今回は対戦相手を決める段階から相談をする為にヨコヅナとオリアを呼んだのだ。
「対戦の申し込みあったの?前回圧勝すぎて、と言うか全試合圧勝過ぎて、対戦相手に困りそうとか言ってなかった?」
ヨコヅナはまだ、Aランクで一勝しかしていないが、エムドに圧勝した事と共に、C、Bでの圧倒的10連勝の情報は、裏闘のAランクでもほとんどの者が知るところとなった。
その為、新人潰しなどをやっているAランクの下位選手からはすでに敬遠される存在となっている。
「私もそう思ってたんだけどねェ」
デルファはテーブルに手紙の束を置く。
「…これ全部、試合の申し込みだべか?」
「そうだよ。前回からたいして日は経っていないのにもうこんなに。まだまだ増えそうだね」
「どうして?ヨコは裏闘で人気者なの?」
「裏闘がボーヤを人気選手にしたいのさ」
Aランクでは、選手を雇っている組織同士で話し合い、試合が組まれるのだが、「条件に合う相手がいない」「探すのが面倒」と言う者もいるので、裏闘運営は仲介などもしている。
仲介してもらった場合は、仲介料を取られるのだが、人気選手、もしくは今後人気になりそうな選手を雇っている組織には、裏闘運営側から「無料で仲介させて頂きますよ」と声をかけられるのだ。
裏闘も客商売、人気選手が試合して、多くの客が集めることが一番の利益になるのだ。
「ボーヤは全戦全勝全K.Oで「一度も膝を着いたこともないまさに『不倒』の選手」「伝説と並ぶビックルーキー」なんて言われてるんだ。声がかからない方がおかしいぐらいだね」
だからヨコヅナを雇っているロード会にも裏闘運営から声がかかり、無料でたくさんの対戦相手を仲介してくれてるわけである。
「別に全部と戦う必要はないだべよな?」
「当然さ。条件が合わないモノも多いからね」
ヨコヅナは手紙の一つを取り、中を見てみる。
「……?、これ本当に試合の申し込みの手紙だべか?」
ヨコヅナが読んだ限りではその手紙に書かれているのは、世間話のよう内容で試合の申し込みとは思えなかった。
「隠語を使って、意味のない手紙に偽装しているからね」
違法賭博の物的証拠を残さない為、手紙の文章は解読方法を知らない者が読んでも裏格闘試合の申し込みと分からないようになっている。
「私が読んだ限り、条件に合うのはこのソーロー社」
デルファは手紙の束の中から一枚選び、二人の前に出す。
「代表選手は『スピード』って登録名だそうだ」
「あれ、『スピード』ってどこかで……」
「エムド戦の日の、ボーヤの後に試合してた選手さ」
「試合スケジュールに乗ってた名前だべな」
「二人はそいつの試合観てたかい……私は、覚えていないんだよねェ」
エムド戦の後も、浮かれて強いお酒を飲んでいたデルファは、『スピード』の試合だけでなく、ヨコヅナが勝ったこと以外はあの日の事をあまり覚えていなかったりする。
「オラは観てないだ、というか周りを女の人達に囲まれて見えなかっただ」
「私も全然観れてない」
「そうかい。この『スピード』、Aランクで15戦もしてる選手なんだよ。戦績は5勝2敗8分け」
「危険な裏闘のAランクで15回も戦ってるのは凄いけど、8回も引き分けてるの?」
「Aランクには負けない試合をする選手は多いそうだよ、戦うだけでも組織の宣伝にはなるからね」
「名前からして、速く動いて逃げ回る選手なんだべかな?」
「2敗しかしてないわけだから、回避能力が高いのは間違いないだろうね。逆に8分けなのは攻撃力が低いからかね」
「それならヨコが怪我する可能性も低いわけね」
「多分だけど…」
『スピード』の試合をしっかり観ていれば確かな事が言えたのだが、観ていないから確証はない。
「賭け金はいくら?前みたいに総資産とかじゃないでしょうね…」
「総資産賭けの試合なんて滅多にないし、私だってもうやりたくないさ」
その後は、賭け金や試合日の話をし、問題ないと判断してソーロー社の『スピード』との試合を受けることで話が纏まった。
「入るわよデルファ」
「アイリィ、丁度いいタイミングだね」
裏闘の話が纏まったところで、応接室にアイリィが入ってた。
「ヨコちゃん久しぶり!」
入って来ていきなり、座っているヨコヅナの抱き着くアイリィ。
「久しぶりだべアイリィ。でも一々抱き着かないで欲しいだよ」
「何で毎回ヨコにくっつくのよ。そういう事はもうしないって言ってたでしょ!」
「あら、そんなの言った覚えないわ」
「前にヨコには普通に接すると言ってたじゃない」
「私にとってこれも普通よ。ヨコちゃんには感謝してるわ」
「感謝?何にだべ」
「ザンザ組を潰してくれたこ~と」
ヨコヅナがエムドに勝った為、総資産を賭けた勝負に負けたザンザ組は潰れた。
それによるロード会の利は大金を得ただけではない。
単純に商売敵が潰れた事でロード会の経営する遊館、ギャンブル店に客が増え、また、嫌がらせなどの営業妨害も無くなった。
試合は一瞬で終わったが、ヨコヅナの功績はロード会にとってとても大きいのだ。
「アイリィだけじゃなくて、ロード会の全員がボーヤに感謝してるよ。今日の用件はもう一つあるんだよ」
ヨコヅナを呼んだのは裏闘で次の対戦相手を決める件だけでなく、もう一つあるった。
「お礼って言うのも変だけど、前にボーヤが試供品をくれた清髪剤。ロード会で大量に定期購入する契約をしたくてね」
「そうなんだべか!いつ話を出そうかと迷ってたから、そっちから言って貰えて良かっただよ」
「やっぱりボーヤはそのつもりで試供品を渡して来たんだね」
昇格祝いの時、ヨコヅナが渡した簡易版の清髪剤は薄利多売を目的をしている為、組織に大量購入してもらうのがもっとも効率がいい。遊館を経営してるロード会は売る込む組織としてもってこいだったのである。
もちろん計画したのはヨコヅナ、ではなくラビスだ。ここのところ「早く契約をとってきてください」とラビスにせっつかれていたヨコヅナには、渡りに船の思いである。
「それと、あの石鹸も大量に購入したいの」
そう言ったのはアイリィ。
「石鹸も気に入ってもらえただか」
「あの石鹸を使って、お客さんにサービスしたら、ちょっと好評になってるの」
「ん?……お客さんを洗うんだべか?」
「ふふふっ……ヨコちゃんも洗ってあげましょうか。もちろん無料よ」
「だ・か・ら!そういうのは止めてと言ってるでしょ!」
「痛い!尻尾は本当に痛いの」
抱き着いたままヨコヅナを誘惑しようとするアイリィの尻尾を引っ張っるオリア。
「あんたと言い、裏闘の女達と言い、どうしてヨコにくっつくのよ」
「そういや、あの遊女達も他のAランクの選手達よりボーヤが良いと言ってたねェ。ボーヤは遊女にモテるんだね」
「へぇ~そうなんだ。でも当然か、私がもし裏闘で客をとっててもヨコちゃんを選ぶわ」
ヨコヅナに抱き着くのをやめて真剣な表情でそう言うアイリィ。
「他に沢山、金持ちの男がAランク会場にはいるのに?」
「金持ちなら誰でも良いわけじゃないわ。特に上位の遊女わね」
この場合の上位の言うのは、他の仕事でも稼げぐ事は出来るが、普通に働くよりも大金を稼げるから、敢えて遊女の仕事を選んだ女性を指している。裏闘でヨコヅナに近づいてきた女性達の多くは上位の遊女だ。
「ヨコちゃんは女を殴らないと決めてるんでしょ。試合で女が相手だから、反則されても殴らなかったと聞いたわ」
アイリィが言っているのは、Bランクでのエルリナ戦の事だ。
「上位の遊女は金持ちであろうと、女に暴力を振う男は相手にしない。顔を殴られでもしたら死活問題だもの。逆に暴力の危険が無いなら、どんどんスキンシップをとるわ、早く親密な関係になるのに効果的だから」
「戦ってない時のボーヤは温和な雰囲気が滲み出てるからねェ」
ヨコヅナはAランクの会場で、遊女に半場無理やり料理を食べさせられていたが、そんなこと会って1、2回のAランク選手には普通絶対にしない。
他には普通絶対にしないことをしてもヨコヅナなら問題ないと遊女達に認識されてるわけだ。
「温和な事だけでなく、上位の遊女ならヨコちゃんが、真面目な性格なのも女慣れしてない事も見抜かれてるわ。そういう男は落とせれば一途に貢いでくれる可能性が高いの」
「否定したいけど…、ヨコもその可能性高いでしょうね」
遊女に堕とされたら、一途に貢ぎ続けるヨコヅナが容易に想像できてしまうオリア。
「その上でAランクで勝ち抜ける強さを有している。ヨコちゃんが遊女にモテるのは当然ってわけ」
「それ、モテてるって言うだか?」
ヨコヅナからすれば、自分が売れ筋の商品だと説明をされたような気分だ。
「モテると言うかどうかは、個人の価値観で変わるでしょうけど。今後もAランクの会場に行くたびに、遊女がヨコちゃんに言い寄ってくるのは間違いないから、しっかり見張ってなさいよオリア」
「言われるまでもなくそのつもりよ。というかそれをアイリィが言う?」
会う度々にヨコヅナに言い寄っているアイリィに言われる筋合いはないと思うオリア。
ただ、アイリィは、
「私がヨコちゃんを堕としたらロード会の利になるけど、他所の遊女が堕としたら大損だわ」
アイリィなりに、ロード会の利をちゃんと考えて行動しているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます