第196話 全メニュー制覇できるかの…


「ねぇ~。商売の話なんてつまんないから、格闘技の話しようよ」


 商売の話に興味が無いニュウが不満そうな声でそう言う。


「格闘技の話、だべか…」

「貴族のお嬢様が率先して話したがる話題とは思えませんね」

「この女は貴族で在りながら、趣味で裏格闘試合の実況者をしているほどの格闘マニアなんだ。そう考えたら寧ろ当然だろう」

「それもそうだべな」


 と、誰も反対はしなかったので、


「この前の試合観てね。ヨコヅナ君がエムド選手より圧倒的に力がまさってると考えてる人多いんだけど、私はそうじゃないと思うの」


 本当に格闘技の話を始めたニュウ。

 内容は、ヨコヅナ対エムド戦の話だ。


「エムド選手がもし、ぶつかると見せかけてブチかましをかわし、横に組み付かれたりしてたら、ヨコヅナ君でも危なかったと思うわ」

「あの程度の速さじゃ、オラのブチかましはかわせないべ。変化出来ない間合で動いただよ」

「確かにヨコヅナは太っているのに速いからな。あのブチかましも、威力だけでなく、スピードもエムドの体当たりとは段違いだった」


 ケイオルクはニュウの事を格闘マニアと言うが、裏闘で受付係をしていたケイオルクも傍から見れば十分格闘マニアだ。


「だが、頭からぶつかりに行くのはリスクが高いとは思うがな」

「そうだね、目とか突かれそうだし」

「相手によって使い分けるだべが、目突きとかは腕で防げるだよ」

「そうなんだ。あとね、ヨコヅナ君はいつも拳じゃなく掌で…」


 王女の生誕パーティーの会場で、格闘試合の話、さらには細かい格闘技術の話題で三人は、


「盛り上がってますね」


 以外にも盛り上がった。




 しばらく、格闘技の話題で意外なほど盛り上がったヨコヅナ達。

 話に区切りがついたところで、


「もうそろそろ、ダンスパートは終わりみたいだね」


 弾かれている曲の変化に気づき、ニュウがダンススペースの方を見てそう言い、次に、


「私、もう一曲ぐらい踊りたい気分なんだけどな~」


 ヨコヅナの方に視線を送る。

 女性の方からダンスに誘うのはマナー違反だから、ダンスに誘って欲しいと言う分かり易いアピールだ。


「そうだべか…」


 ニュウの言葉を聞いて席を立つヨコヅナ。

 一瞬ヨコヅナがダンスに誘ってくれると期待したニュウだったが、


「オラはもう一人、ダンスを踊る相手がいるから一階に降りるだ」


 その一人というのは、ニュウの事ではなく、


「行くだよ、ラビス」

「はい、ヨコヅナ様」


 ヨコヅナとラビスは腕を組んで、


「じゃあ、まただべ」

「では、失礼しますニューラ様、ケイオルク様」


 一階のダンススペースへと歩いて行った。



 残されたニュウとケイオルク。


「私、嫌われてるのかな~…」

「さぁな、ヨコヅナの考えは俺には理解出来ん。踊りたいなら俺が相手してやろうか?」

「弱い人に興味な~い」

「俺もそれなりには鍛えてるんだがな」

「ヨコヅナ君なら片手で潰せると思うよ」

「ふふっ、顔面をか?……否定出来んな」



 ダンスを踊るヨコヅナとラビス。


「やっぱりパーティーは疲れるだな」

「…誘い方が雑なだけでなく、ダンスの最中にそんな気の抜けた発言。私に対して失礼と思わないのですか?」

「疲れてる原因はラビスにもあるだよ」

「思い当たる節がないのですが?」

「マナー違反になるだべが、良いだか?」

「…構いませんよ」

「ラビスはどうせ断られると言ってたのに、社交辞令でダンスに誘ったら、姫さんと踊る事になっただよ」

「予想外だったのは確かですが、それを私の責任と言われても困りますね」

「あと、前に教えてもらった「あなたの為に踊れるようになりました」は、愛の告白みたいな意味があるって言われただよ」

「その台詞を王女様に言ったのですか!?」

「何故ダンスを踊れるかを聞かれたらそう答えたら良いって、ラビスが言うたんだべ。ハイネ様にも屋敷で踊った時に言ったべから、今日踊ってる時、何度も足踏まれただ」

「……はぁ~、バカですね~、ヨコヅナ様は。常識で考えれば分かるでしょう」

「貴族の常識なんて分からないだよ」

「人としての常識です。……まぁ、ダンスを踊っただけでなくコフィーリア王女を肩に乗せたヨコヅナ様は、存在自体がもはや常識外れですがね」

「あ!そうだべ。姫さんに裏闘で試合してる事バレてただ」

「……怒っていましたか?」

「違法の賭博試合で戦ってる事をじゃなく、そんな面白そうなこと何故秘密にしてたんだ、って感じに怒られただよ。今後は全て報告するように言われただ」

「そうですか、予想通りです」

「…なら良かっただ。姫さんへの報告は全て任せるだよ」

もとからそのつもりです」

「それと、姫さんからダンスの練習もしておくように言われたから、練習相手頼むだよラビス」

「私で良いのですか?」

「他に誰がいるだ?カルだと身長差があり過ぎて練習にならないだよ」

「ハイネ様なら身長的にも丁度良いと思うのですが」

「ハイネ様に頼むのは失礼だべ」

「私なら失礼ではないと?」

「前に教えてくれると言ってただ」

「…クククっ、そうでしたね。畏まりましたヨコヅナ様。では、お喋りはここまでにして、後はダンスを楽しむとしましょう」

「その台詞…、二人も言ってただ」

「そうなのですか……本当に常識外れですねヨコヅナ様は」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る