第184話 相手は生きておるのかの?


『…見、見たか!見たか!見たかぁ!!紳士淑女の皆様ぁ!!。これがビックルーキー『不倒』の、まともに実況すらさせてもらえない一撃瞬殺K.O!!!第一試合、圧倒的破壊力で『不倒』選手の勝利だ!!!』


 ビックマウスの実況で止まっていた時間が動きだしたかのように、

 ワアァァァぁぁ!!!と会場に大歓声が巻き起こる。


『そして…、あの構えから『不倒』の必殺技ブチかましが繰り出されるんだ』


 一撃K.Oの為、試合が終わってからになってしまったが、ヘンゼンが解説の続きを言う。


『ヒャッハー、さっすが『不倒』!Aランク初試合で必殺技をお披露目か!!俺は良く見えなかったから、詳しく解説頼むぜヘンゼン!!』

『ブチかましは、体当たりだが相手に組み付くの事が目的ではなく、頭突きのよる打撃技。そしてビックマウスが見えなかったと言ったように、大柄な体格からは想像できない程の速い、その理由があの突進に特化した手合の構えだ。全体重を乗せた高速の頭突き、それが『不倒』の必殺技だ』

『さっすがヘンゼン!朝早くに『不倒』の稽古を見学に行っただけのことあるぜぇ!!』

『お前は寝坊で来なかったがな…』




「そして…あんな感じで、本気のヨコはブチかまし一発で相手を倒せるの」


 オリアも試合が終わってからになってしまったが、言葉の続きをデルファに話す。

 そのオリアの言葉を聞いてようやく状況を把握できたのか、四つの目を見開いて止まっていたデルファは


「はぁ~~……、よかったよ、本当に…」


 賭けに勝ったことに安堵し、その場に膝をついてしまう。


「ちょ、ちょっと大丈夫デルファ!?」

「どうしただ?」


 試合が終わったので金網を出て来たヨコヅナ。Aランクでは連戦はないので金網の中にいる必要はない。


「いや、急にデルファが…」

「……だから、あんな飲み方したら体に悪いって言っただよ」


 デルファが強いお酒を勢いよく飲んだから、気分が悪くなったのだと思ったヨコヅナだが、


「ははは、別に酔い潰れたわけじゃないよ……大勝負に勝った安堵から膝の力が抜けただけさ……」


 体調が悪いわけではないと、笑いながら立ち上がるデルファ。


「デルファがそんなになるって、いったいいくら賭けたのよ?」

「総資産さ」

「…はい?」

「今の試合はロード会とザンザ組、お互い総資産を賭けてたのさ。つまり負けた方の組織は潰れる、…つってもボーヤが勝ったから潰れるのはザンザ組にもう決定したわけだけどね」

「「………ええぇ!!?」」


 どれだけの大勝負だったかを聞いて姉弟仲良くハモって驚く。


「何で事前に言わないのよ!?」

「言ったら反対されると思ってねぇ」

「するわよ!ロード会のみんなが路頭に迷うところだったのよ!!」

「もしオラが負けてたらどうしてたんだべ?」

「その時は……ボーヤのちゃんこ鍋にみんな雇って貰う、とかねぇ…」

「ちゃんこ鍋屋にそんな多人数の従業員いらないだよ…」

「まぁ、ボーヤは怪我一つなく、勝ったんだから良いじゃないか」


 デルファの言う通りヨコヅナは怪我なく勝利、ロード会の資産は倍に以上になり、因縁のある商売敵を潰せた。

 結果論にはなるが、デルファがこの大勝負をしたことは正しかったと言える。


「……怒りが収まらないから、一発引っ叩きたいぐらいなんだけど…」

「ははは、…本当に悪いと思ってるから一発ぐらいなら良いよ」

「そう?じゃヨコ、一発やっちゃって」

「…デルファ自身が良いって言うなら」


 手を振り上げるヨコヅナ。


「ちょちょちょっとボーヤは駄目だよ!」


 慌てて距離を取るデルファ。オリアではなく、ヨコヅナに引っ叩かれるのはさすがに良くない。酔い関係なく潰れることになる。


「ふふ、冗談よ」

「冗談だべ」

「デルファも素面でいられないぐらい不安だったみたいだしね」


 試合前のデルファの不審な挙動に納得がいくオリア。


「でも、次からは賭け金も相手の情報も隠すことなく事前に教えてくれだべ、でないと……オラは試合に出ないだ」

「そうね、戦うのはヨコなんだからそれぐらいの権利はあるよね」

「……分かったよ、次からは全部話すし、それでボーヤが少しでも反対なら試合は申し込まない、約束するよ」


 資産総賭けとか、相手は魔素狂いとか、色々あったがヨコヅナはAランク初戦を完勝した。



 で、Aランクの試合でも一撃瞬殺K.Oなんて派手な事をすれば、当然……


「凄かったですわ~『不倒』様~」

「Aランク初勝利おめでとうございます!」

「ほんとカッコ良かったです!」

「タキシード姿もとても素敵ですわ」

「この後お暇ですか~?」


 お金とかスカウトとか、色々狙いがある女性達に囲まれるヨコヅナ。


「食事中、だから、離れて欲しいだよ」


 試合が終わり控室に戻ったヨコヅナは、食べ物も無料だと聞いて、着替え直して会場で食事をしながら試合観戦をする事にしたのだが、


「だったら私が食べさせてあげる、はい、あ~ん」


 まるで拘束するように抱きつかれ、Bランクの時より多い女性に囲まれてるので。食事も観戦もまともに出来ない。


「自分で食はぐ…」

「あは!『不倒』様可愛い~」

「私のも食べてください『不倒』様」

「私も私も!」


 女性達各々が次々料理をヨコヅナに食べさせる。


「モグモグ、ゴクンっ、ゆっくり食べたいだよ…」

「あんた達!ヨコから離れなさいよ!!」


 今回は初めからオリアもいるのだが、


「嫌よ~」

「唯の同僚に文句言われる筋合いないわ~」


 お構いなしだ。

 Bランクの時に本当の姉弟でも恋人でも無いことは知られている。

 ヨコヅナの昇格祝いでアイリィが言っていたように彼女達は、ここでお客をとっている遊女、つまり仕事なのだ。簡単に引き下がったりはしない。


「ちょっとデルファ!何とかしてよ!」


 Bランクの時、デルファがやったように力づくなら、黙らせることも出来るが…


「あははっ!いいんじゃないかい、女の5人や10人。ボーヤも嫌がってないしね、あはは!」


 大勝負に勝ち、酒の酔いもあって、上機嫌すぎるデルファは笑って許可してしまう。因みに今も酒をラッパ飲みしてる。


「オラは離れて欲しいって言ってるだよ…」

「だったら放り投げたらいいじゃないか、店ではいつもやってるんだろ」

「いつもはしてないだよ…」

「『不倒』様は女性にそんなことしないもんね~」

「「「「「ね~!」」」」」


 ヨコヅナが女性に乱暴しないことも、当然のように知られている。

 

「他にいくらでも金持ちの男いるでしょ。強い男が良いならならAランク選手だってたくさん観戦に来てるからそっちに行きなさいよ!」

「私は『不倒』様が良いも~ん」

「私も『不倒』様良いわ~」

「「「当然よね~」」」


 オリアが言う通り、この会場には遊女にとって上客となる男は沢山いる。ヨコヅナよりも何倍ものお金持ちがゴロゴロと……。

 そんなことは彼女達も分かっている、それでもヨコヅナに集まっているのだ。


「なんで…」

「フッ、モテるな『不倒』」


 オリアが更に問いただそうとした時、別の者が話しかけてきた。


「Aランク初戦勝利おめでとうと言わせてもらおう『不倒』」

「あ!?……何しに来たのよ陰険眼鏡!」

「もう眼鏡は掛けてだいだろ!」


 現れたのはブータロン商会副会長、ケイオルクだ。


「ありがとうだべ……今回はオラに賭けてたんだべか?」

「…そうだな、賭けていた。不足を肩代わりしてやったんだ。食事の相席ぐらい構わないだろ」

「「肩代わり?」」


 ケイオルクの言葉にデルファに視線で説明を求める姉弟。


「あぁ、そうそう、ロード会とザンザ組の資産には差があったからね、負けた場合ケイオルクが不足分を肩代わりしてくれる約束だったんだよ。ボーヤが勝ったから関係ないけどね。……でもおかげで大勝ち出来たから、相席したいなら好きにしな」

「断られたところで座るがな」


 というか許可する前に、既にケイオルクは座ってる


「肩代わりって……負けてたら路頭に迷うどころか借金塗れだったってこと?」

「借金は私個人のモノさ、ロード会の従業員には関係ないよ」


 ロード会とザンザ組の資産の差は少くない額だが、当然デルファは負けた場合、一人で借金を返すつもりだった。例え命を代償とされたとしても…


「『不倒』が勝ったんだ、当然分け前はあるんだろうな、ロード会の会長?」


 肩代わりしたならその金額のパーセントを、ケイオルクに支払うのも普通と言えなくはないが、 


「ん~、そんな約束はした覚えないねェ」


 元々はヨコヅナの情報を教える代わりに、試合の渡りを付けると言ったのはケイオルク、賭け金の肩代わりを了承した時も、分け前の要求はされていない。


「そういう話は事前に言って貰わないとねェ」


 自分は事前にヨコヅナ達に詳細を話さなかった癖に、堂々とそんなことを言うデルファ。だが、これぐらい面の皮が厚くなければ、組織のトップなどやれないのだ。

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