第183話 本気じゃの


『第一試合『不倒』VS『エムド』スタートだぜ!!』


 試合開始の合図である銅鑼の音が、


 グオァ~ン!!


 と鳴らされた。


 ヨコヅナは試合が始まると同時に、裏格闘試合で初めて手合の構えをとる。




「……あれは、エチギルドを倒した時の…」


 ヨコヅナの手合の構え見て、採用試験の時の事を思い出すデルファ。


「…あ、そっか……本気のスモウってそう言う意味か…」

「……どういう意味だいオリア?」

「ヨコは今までの10試合で一度も本気で戦って無かったってこと」

「本当かい!?」 


 信じられないと言った顔をするデルファ。


「本当よ。ヨコのスモウはあの構えから始める格闘技なの、そして…」




『なんだありゃ……蛙みたいな構え?をとったぞ『不倒』選手…』


 ヨコヅナの手合の構え見たビックマウスは、構えなのかすら疑問に思う。


『…俺はBランクの時もう一つ不適切な解説をしていた』

『もう一つって言うか結構な数ある気がするぜ、ヘンゼン…』

『仕方ないだろ!『不倒』が使う格闘技、スモウは他に使い手がいない遠い異国の格闘技なのだから』

『…だったら、しゃぁねえか…で間違った解説って何だよ?』

『間違った解説と言うほどじゃないが、『不倒』の本当の戦い方は組み合ってからの投げ技と解説した事だ』

『…あぁ、…え!?いや、あの『デストロイヤー』をコロコロと投げてたじゃねぇか。なのに投げが得意技じゃねぇってのか?』

『投げ技が得意なこと自体は間違っていない…』


 ヘンゼンは早朝に見学に行ったヨコヅナの稽古を思い出し、


『だが、『不倒』のスモウはあの構えから始める格闘技だそうだ、そして…』




 ヨコヅナの手合の構えを見たザンザ組代表選手エムドは、冷静に勝つ為の戦術を考える。

 エムドは色々な流派で習った格闘技経験と、喧嘩屋としての実践経験からヨコヅナの構えは、低い体当たりで相手を倒し馬乗りになることが狙いだと推測する。

 半年前のエムドであれば、回避する方向で策を考えただろう、しかし、今のエムドは違う。

 自らも体当たりする為に低い構えをとるエムド。

 魔素狂い化した体で力負けするなど欠片も思っていない、肥満体型の相手に速さで負けるとは思えない。さらに投げ技主体の格闘技も習っていた経験がある。

 力、速、技全て上回ってると考えたエムドは、

 

「があぁぁぁああ!!」


 咆哮と共に正面からヨコヅナに突撃する。


 間合いに入ったエムドをヨコヅナはで迎え撃つ。



「久々に見るの。ヨコが本気のブチかましを、生き物に向けるところ」


 約一年前、カルレインと出会った日、ヨコヅナは魔素狂い化した巨大熊を本気のブチかましの一撃で絶命させている。

 街の喧嘩屋と巨大な熊、どちらが強いか?当然巨大熊の方が強い。

 では、魔素狂い化した喧嘩屋と、魔素狂い化した巨大熊、どちらが強いか?これも当然、魔素狂い化した巨大熊の方が強い。

 では、魔素狂い化した巨大熊よりも圧倒的に強いヨコヅナが、たかが魔素狂い化した喧嘩屋に負けるか?


 ありえない。



 ドゴォンっ!!!



 ヨコヅナの本気のブチかましによって、顔面が陥没し闘技台に倒れ伏すエムド。

 予想外且つ壮絶な光景に、会場はまるで時間が止まったかのような静寂が支配している。

 そんな中ヨコヅナは振り向き、四ツ目を見開いて勝ったことすら認識出来ない程驚いているデルファに、


「だから言ったべ、スモウは遊びじゃないと」

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