第174話 滅多に行われないからこそじゃな


「四試合目もパッとしない試合だったねェ」


 第四試合は一試合目よりはマシ程度でだった。

 因みに三試合めはもっとひどい。第三試合は新人潰しといわれるような試合、魔力強化を使える選手が使えない選手を虐めて呆気なく終了。使える方の選手も大した使い手ではない。


 四試合目が本日の最終試合で、ケイオルクが言うには中堅選手同士の試合とのことだが、お互いに深追いせず手堅い戦い方をして、結果は引き分けだった。

 Aランクにはそう言う選手も多いそうだ。


「組織としては代表選手がAランクで戦うだけで宣伝となり商売が儲かる、選手も負けなければクビにならず、高給を貰えるわけだからな」


 裏格闘試合と言えど、あくまで金を稼ぐための手段に過ぎない。

 動く金自体はBランクとは桁が違うが、組織のとして賭けるのであれば的確な金額で、手堅く儲けたいのは皆同じなのだ。

 1試合の結果で、勝った組織の規模が倍に、負けた組織は潰れるなんて試合は滅多に行われない。


「ある意味そう言った選手の方が、『不倒』は苦戦するかもな…」


 Bランクの『デストロイヤー』のような無様な引き分け狙いではなく、高い回避技術での引き分けは確かにヨコヅナとは相性が悪いかもしれない。


「負けるよりは良いけど……Aランクデビュー戦は派手に勝ちたいね。手ごろな相手を紹介してくれるかい」

「お前ぇ、大した情報を渡さなかったくせに……」

「言い出したのはそっちさ、しっかり払いな」


 ロード会がまだ小さいかった頃、デルファは借金の取り立てなんかもやっていて、すごむ顔が堂にはいっている。

 

「それにしても、試合が終わったのに全然客が掃けないね」

「ここからは社交の場だからな。次の試合相手も見つけ易い」


 そう言いながらケイオルクがヨコヅナの対戦相手に丁度良さそうな選手を考えていると、


「おぉ~これはこれは、ブータロン商会のケイオルク殿ではありませんか」

「……ザンザ組のエヌブダ殿か。お久しぶりだな」


 現れたのは、ザンザ組組長エヌブダ・ザンザ。年齢は50過ぎぐらいで、弛んだ肥満体型に禿げた頭、服装はスーツだが、ゴテゴテの趣味の悪い装飾品がついている。


「今日お越しになっていると聞いたのですが、特等席ではなく、一般席におられるとは…」

「俺に用があって探していたのか?」


 年齢ではケイオルクの方が20は下だが、地位も商会としても圧倒的に上なので、敬語など使わない。


「ザンザ組代表選手『エムド』試合は見て頂けましたかな」

「ああ。なかなか面白い選手を抱えているな」

「そうでしょそうしょう、金をかけましたからね……そこでどうですかな、私の『エムド』と1試合?」


 エヌブダがケイオルクを探していたのは、ザンザ組とブータロン商会で試合をしないかという申し込みの為である。


「……選手は面白いが、ザンザ組に旨味を感じないな」

「ぶはは、さすがは三大商会の一つ。ブータロン商会との試合はもっと稼いでからにしましょうか……ところで」


 エヌブダはそこで隣に座っているデルファに視線を移す。


「今日はなんだか嫌な臭いがすると思いましたが、まさかゴミ粒程度の組織である、ロード会のが会場に混じりこんでいたとは、笑えない冗談ですな」


 明らかな挑発的なエヌブダの言葉に対して、


「嫌な臭いはお前さんの体臭だよ。風呂に入ってから出直しな」


 真っ向から挑発を返すデルファ、

 ザンザ組の主な稼ぎは遊館とギャンブル業、つまりロード会とは商売敵の関係で、その他でも色々モメたりして、デルファとエヌブダは顔見知りだが死ぬほど仲が悪い。


「…醜い混じりがここにいて良いと思っているのですかな」

「混血が選手として出場できないという規則はあるけど、混血が経営する組織のマ人の選手が出場できないって規則はないんだよ。お前の腐った脳みそに書き込んどきな」

「エヌブダ殿は知らないのか?ロード会の選手がAランクに昇格したことを」

「ほう~、あんな格闘家崩れが、Aランク昇格とは今のBランクは随分レベルが低いようですな」


 どうもエヌブダはBランクの最新の情報を得ていないようだった。


「……そう思うんだったら、ウチの選手と試合するかい?」

「ぶははは!それは面白い、……では店の一つでも賭けますかな」


 業種が同じ場合、店自体を賭けの対象することはよくある。なかなかの大きな賭けだが、


「いいや、足らないね」


 デルファは納得しない、


「小競り合いもいい加減にうんざりしてたんだよ。ここいらで決着をつけようじゃないか」

「どういう意味ですかな」


 デルファは不敵な笑みをうかべ、


「資産総賭け。つまり負けた方は組織がつぶれるってことさ」


 滅多にない大勝負を申し込んだ。

 それを聞いたエヌブダは


「ふ~、居眠りでもして『エムド』の試合を見逃してたようですね」

「起きてたよ、この四つの目を開いてしっかり見たうえで……ウチの選手なら楽勝だと思っただけさ」

「代表選手に自信を持つのは構いませんが、簡単な計算も出来ないのは頂けませんな。総賭けするにも資産が吊り合っていない」


 ザンザ組の資産は簡単に見積もっても、ロード会の1.5倍、不公平な賭けになる。


「その点は大丈夫さ、不足分はケイオルクが補填してくれるからね」

「おい!…」

「渡りをつけてくれるんだろ」

「渡りをつけるのと、金の肩代わりは違うだろ…………が、まぁ良い」


 試合の渡りつけるのと、金の肩代わり違うとは言いつつ、了承するケイオルク。


「足らない分は俺が出してやる」

「ってわけだよ。どうするエヌブダ、勝負を受けるかい?」

「……いいでしょう。勝つのは私なのですからね」


 ヨコヅナのAランク初試合はの相手は、ザンザ組の『エムド』に決まった。

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