第164話 つまみ食いに対して警戒心が強くなっておるの
場所はデルファが所有する託児所の屋敷。
全員とはいかないが、ロード会の多くの者が集まっていた。
当然混血の子供達もいる。
「遅くなっちゃってごめんね」
『ハイ&ロード』での仕事がおして、屋敷に来るのが予定の時間より少し遅くなってしまったオリア。
「いらっしゃい、オリア」
「オリちゃん、いらっさーい」
出迎えたのはデルファとジュリ。
「ふふふ、久しぶりジュリ。予定ある時に限って、問題が起こるのよね」
「仕事あるあるだねェ」
「あるある~」
意味は分かってないけど、ジュリが可愛く相槌をうつ。
「ヨコの検査、どうだった?」
ヨコヅナは午前中、裏闘のAランク選手として混血でないかを判断する血液検査を受けたのだ。
「問題なしだったよ。アウトだったら今日は残念会になるところだったね」
「まぁ、心配してなかったけどね」
「そうかい。……私はちょっと心配だったけどね」
Bランクを圧倒的な力で5連勝したヨコヅナを、無条件で唯のマ人と信じるきることは出来ないデルファは、結果で問題なしと出た時かなり安堵した。
「ボーヤが注射にビビってたのはちょっと面白かったけどね」
「あははっ、そうなんだ。ヨコって風邪もひいたことないから医者に診てもらったことがないのよ」
「本当に丈夫な身体だね」
デルファ達と少し話した後、オリアは部屋を見まわし、
「ヨコはどこにいるの?」
「台所で料理作ってくれてるよ」
「……ヨコの昇格祝いなのに、ヨコが料理作るって、やっぱりおかしくない?」
「ボーヤが作りたいって言うんだからいいんじゃないか。その方が美味いだろうしね」
「確かにみんなプロ並みだって褒めてるけどさ……」
実際のところプロと称しても問題ないのだが、オリアは素人にしては料理上手としか思っていない。
「私手伝ってくるよ…」
「ボーヤは料理には厳しいみたいだから気を付けなよ…手伝うって言ってつまみ食いしたエフが、台所から放り出されてたから」
「それは誰でも放り出すでしょ」
オリアが台所に行くと、
「ねぇ~ヨコちゃん、いつ遊館に遊びに来てくれるの~?」
「行くなんて言った覚えないだよ」
「みんなヨコちゃんに会いたいって言ってるのよ~」
アイリィが料理をしているヨコヅナに絡んでいた。
「ちょっと、アイリィ!」
「あら、来てたのオリア」
「仕事終わったんだべな。お疲れ、オリア姉」
オリアの登場に労いの言葉と笑顔で迎えるヨコヅナ。
「今着いたところ。ごめんね、ヨコの昇格祝いなのに料理任せて」
「別に良いだよ」
「それより、アイリィはこんなところで、何してるのよ?」
「私が昇格祝いに来たら駄目だって言うの?ヨコちゃん、オリアが酷い事言うわ~」
ヨコヅナにしな垂れるようにしてそう言うアイリィ。
「台所でヨコに何してるのって意味よ!!」
「ヨコちゃんの料理の手伝いよ」
「邪魔してるでしょ!!」
オリアはいけしゃあしゃあと手伝いと言うアイリィの尻尾を引っ張る。
「痛っ!尻尾はやめてってば!」
そんな二人に対して、
「二人とも騒ぐなら、他でやるだよ」
強めの声色のヨコヅナの言葉。
「あ、ごめん、ヨコ」
デルファの言ってた事は、本当だったんだと思うオリア。
「何か手伝うことある?」
「……じゃ食器運んでだべ」
「分かった……ほら、アイリィも食器運ぶわよ」
「ええ~、私はヨコちゃんとお話がしたいのに……でも確かにここだとアレね」
アイリィはヨコヅナに耳に口を近づけて、
「パーティーが終わったら、二人だけでお祝いしましょ、私の宿で」
そう色っぽく囁く。
前までなら、ここで慌てて初心な反応をしてたヨコヅナなのだが、今日は違った。
「……アイリィって意外と単純なんだべな」
呆れたような反応をするヨコヅナ。
「…どういう意味かしら?」
「やってることが、裏闘の会場で言い寄ってきた女性達を同じだべ」
アイリィも裏闘女性達も、お金目立ての色仕掛け、それを見抜けず何度も狼狽えるほどヨコヅナも阿保ではない。
「あはは、言えてる」
「普通で接して欲しいだな」
「……ヨコちゃんに私の普通が分かるのかしら?」
アイリィの言葉には僅かな怒りが含まれていた
「勝手に言い寄って、何怒ってんのよ?」
それが分かったオリアもまた怒りを露わにする。
だが、アイリィは単純と言われた事に怒ったわけではない、知った風な口を利くマ人が嫌いなのだ。
「……少なくともオラが清髪剤を作ってると知った時のアイリィは普通だったと思うだよ」
ヨコヅナの言葉に目を見開くアイリィ。
確かにアイリィはヨコヅナが清髪剤を作っていると知った時、本性を出していた。
それは、僅かな時間でしかないし、ただ質問しただけと言ってしまえばそれだけの出来事だ。
だがヨコヅナはその一瞬のアイリィと今のアイリィを別人のように感じていた。
「……へぇ~、商売で成功してるだけに、侮れないわね」
「それは買い被りだべ、オラ一人だったら商売は成功してないだよ」
「そう……素で良いと言うならそうさせて貰うわ」
先ほどまでの色気と甘ったるい声色を止め、冷たい雰囲気を身に纏うアイリィ。
「女が欲しくなったら私に言って、マ人の良い女を用意してあげるわ」
「…まるで商品を用意するみたいな言い方だべな」
「商品とまでは言わないわ、でも商売柄、女を値段で見てるのも事実ね……女に優しいヨコちゃんからしたら、気に入らないかしら?」
ヨコヅナが裏格闘試合でも女性相手だと殴らないようにしていた事を聞いているアイリィ。
「本人が納得してるなら何も言わないだよ」
ヨコヅナのその言葉にアイリィだけでなくオリアも意外そうな顔をする。
「……王都に来て、女性だからどうのこうのと言うと女性が怒る事は、痛いぐらい…というか痛みを伴って知っただよ」
圧倒的強さで昇格した裏闘のAランク選手のその言葉に、
「痛みを伴って……オリアそんなに強く頬を抓ってるの?」
「私の事じゃないわよ……よねヨコ?」
「王都には暴力的な女性がたくさんいるべからな」
ヨコヅナがそう言うのも無理はないぐらい周りの女性から暴力を振るわれているのは確かだが、それは決して王都の基準ではない。
「……まぁいいわ。さっき言った、遊館のみんながヨコちゃんと会いたがってるのは本当だから、来てくれたら歓迎するわ」
「ヨコは未成年だから、遊館には行けないわよ」
「ギャンブル店て働かせてるオリアがそれ言う?」
「ヨコは料理作ってるだけだから問題はないの」
「屁理屈を言うわね~……確かに今見てても、料理の手際良かったけど…」
「それを分かってるなら、話してないで食器を運んでほしいだよ」
手伝いをすると言ってまだ何もしてない女性二人。
「そうね、ほら、ぼさっとしてないで運ぶわよオリア」
「何でアイリィが偉そうに言うのよ!」
「痛っ、だから尻尾は駄目…」
「はぁ~、食器割らないように気を付けるだよ」
ヨコヅナは呆れながらそう言い、
「それと、もうすぐ料理出来るから、みんなを大部屋に集めてだべ」
「了解~」
「……分かった」
食器を運びながらオリアは違和感に首をひねる。
「何か……」
「オリア、どうかしたの?」
「いや、普通に指図してるなと思って…」
「はぁ~、手伝うって言っといて、弟に指図されるのが嫌ってこと、酷い姉ね」
「そんなこと言ってないわよ!……少し意外だっただけ」
「本業の方で慣れてるからでしょ」
「……そうなのかな」
オリアがヨコヅナの本業を知るまであと少し…
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