第163話 我ははしたなくないのじゃ


 ハイネの姿が食堂から見えなくなった後、


「……まるで、恋人の浮気調査だな」


 メガロがそう言うのも無理はないだろう。

 未成年だからとか姉に頼まれたからとか言っていたハイネだが、結局のところヨコヅナが遊館に行くことが許せないという心情がバカでも見抜ける。

 

「模擬剣でタコ殴りにするのは『閃光』なりの愛情表現か?」

「モグモグ、ゴクンっ。比較対象ハイネの恋人がいたことないので、何とも言えませんね。唯、独占欲は昔から強かったですよ」


 頼んだ料理を食べながら、幼馴染らしいことを言うレブロット。

  

「……ヨコヅナに恋人が出来れば安心できるのだがな」


 メガロの安心出来ると言った意味は一つしかない。


「以前も言っていた、コフィーリア王女に気に入られているって話ですか?さすがにヨコヅナでは身分が違い過ぎるでしょ。あ、それはハイネ様も同じか…。モグモグ」


 王族であるコフィーリアはもちろんの事ハイネも上級貴族、平民のヨコヅナでは身分の違いは天と地ほどあると言える。


「確かにヨコヅナは平民だ。だが、世の中には平民を男娼として傍におく上流階級の女は多いのだぞ」

「モグモグ、ゴクンっ、それは政略結婚させられた相手が、ブサイクだったり、女に興味がなかったりする場合では…」

「……コフィーリア王女は褌姿のヨコヅナを私よりも「カッコイイ」「魅力的」と賞したのだぞ」


 褌一丁というほぼ裸の男性をそんな風に賞すれば、メガロが不安に思うのも当然と言える。


「え!?……コフィーリア王女はデブが好みなんですか?」

「いや、ヨコヅナは脂肪がついてはいるが鍛え上げられた肉体だ。お前とは脂肪の質がまるで違うだろ」

「確かに、ヨコヅナはデブとは言えませんね……だから、メガロ様はスモウを始めたのですか?」

「別に、ヨコヅナのような体型になりたいからスモウを教わっているわけではない。まぁ、コフィーリア王女に認めてもらいたいからという意味なら間違ってもいないがな」

「そうですか……モグモグ……」


 料理を食べながら、何かを考え、


「ゴクンっ…俺としてもヨコヅナとハイネ様が恋人同士になる方が都合が良いですね」

「ん?それは……さっき言っていたヨコヅナの姉が関係しているのか?」


 珍しく鋭い読みをするメガロ。


「え…ええ、まぁ……血は繋がってなくても、傍から見て仲のいい姉弟なんですよ」

「そういえば、何故ヨコヅナの姉と知り合いなのだ?」

「偶然です。別々に知り合った相手が偶然にも姉弟と呼び合う間柄だったというだけで」

「そうか……ヨコヅナの姉であれば私も会って挨拶しておくべきかな」


 これでもメガロはヨコヅナの事を友達だと思っている、それにスモウを教わっている身でもある、家族同然の相手であれば挨拶に行くべきだろうかと考えた。


「メガロ様が直々に出向いてですか?」

「当然だろう」


 感覚が麻痺しているが、ストロング家もまた平民とは天と地と言って良いほど身分が違う。

 そんなストロング家の跡継ぎが世話になっているとは言え、平民の家族に挨拶に行くなど当然ではない、以前の自惚れていたメガロであれば決してあり得ない考えなのだ。

 そんなメガロを見て本当に変わったと思うレブロット。


「ですが、それは……」

「……俺はギャンブル業だからと軽蔑したりなどしないぞ」


 レブロットが難色を示す反応にギャンブル業だからと思ったメガロだが…


「いえ、そうではなく……ヨコヅナの姉貴分は混血の方でして」


 レブロットの知る限りでは、メガロは人族至上主義ではない、だからと言って混血を良くも思っていなかったはずだった。


「そうなのか……なるほど、それであの時…」

「どうかされたのですか?」

「……ヨコヅナと出会って間もない時の話なのだがな、あの黒いメイドに混血差別的な発言をした事があるのだ。それに対してヨコヅナは怒り覚えていた」


 ヨコヅナと決闘モドキをした時の事を思い出すメガロ。


「黒いメイドに対してではなく、家族同然の混血の者がいるからヨコヅナは差別自体に怒っていたわけか」

「あぁ~、ちゃんこ鍋屋で人族至上主義の者が文字通り放り出されたという噂も聞きますからね」

「フフ、容易に想像できるな。あの時は俺も痛い目を見たからな、姉と会うときは気を付けなければな」


 顔面を張り手でボコボコにされた事まで思い出す。


「……その姉は、あの黒いメイドと違って性格には問題ないのだろ?」


 混血とかは関係なくラビスは性格に問題があると思っているメガロ。


「ええ、そこは俺が保証します、混血でもあの黒いメイドとは違います」


 そしてレブロットもラビスは性格に問題あると思っている。


「それに先ほど言ったようにとても美人ですよ、特徴的な耳をしているだけで」

「そうか。では近いうちにその店に連れて行ってくれ」

「分かりました。モグモグっ」


 了承して食事を再開するレブロット、それを見てメガロはある事に気が付く。


「……口にモノを入れたまま喋るのは止めたのだな」


 食事中はよく頬を膨らませたまま、意味が分かりづらい言葉を発するレブロットだったが、今日は一度も聞いていない。


「ゴクンっ。はしたないかと思いまして、矯正中です」

「それは幼少期にするものだがな……まぁ、しないよりは良いか」


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