第162話 何故ちょっとホラー風なのじゃ
場所は軍施設内の上級軍人が使用する食堂。
「呼び出してすまないな、座ってくれ」
ハイネは呼び出した相手に、席に着くように指示する。
「「失礼します」」
礼儀正しく席に着いたのは二人。
「ハイネ様が私達を呼び出すとは珍しい、というより初めてのことですな」
呼び出された一人は、メガロ・バル・ストロング。
「何故食堂なのですか?」
そしてもう一人は、レブロット・ゴン・ドジャーである。
「至って私用な話なのでな、食事しながらの雑談程度が丁度いい、お前達も何か頼め」
ハイネにそう言われ、料理を注文するメガロとレブロット。
「それでお話とは?」
「実は、ヨコヅナの事なのだがな…」
「まぁ、そうでしょうね」
ハイネがわざわざ私用と前置きして、この二人を呼び出す理由なんて、ヨコヅナに関すること以外レブロットは思いつかない。
「最近忙しそうにしていて、帰ってくるのも遅いのだ」
以前ハイネに爺やが相談していた話、あの時は問題ないと判断したのだが、
「お前達は何か聞いてないか?」
「はぁ……」
わざわざ呼び出しまで、何を聞かれるのかと身構えていたメガロだった、ハイネの本当に雑談のような質問に生返事になってしまう。
「それは仕事が忙しいだけではないのですか?」
「清髪剤もちゃんこ鍋屋も売上は落ちている、だがここ最近は以前にも増して忙しそうにしているのだ」
「…ヨコヅナは一応経営者ですから、唯の従業員と違って、売上が落ちている時ほど回復させる為に忙しく働くものです」
「……それは分かる話ではあるのだがな。実際新商品を開発中だとも聞いているし…」
そう言いつつも納得のいってない表情のハイネ。
「何か憂慮する事でも?」
「……最近ヨコヅナを、歓楽街で見かけたと言う話を何度か聞いてな」
爺やから相談があった日以降も、ヨコヅナを歓楽街で見たという報告が複数入っていた。
「歓楽街ですか……田舎出身者は、入り浸るようになる事が多いとは聞きますな。ヨコヅナが、というのは少し意外ですが…」
「私もヨコヅナが自ら歓楽街に遊びに行くと思えない、少なくとも初めは誰かに誘われて一緒行ったと考えられる。朝の稽古の時にそういう話題が出た事はないか?」
「……なるほど」
この質問で何故ハイネが自分達を呼び出したのかを理解するメガロ。
ヨコヅナの交友関係の中で歓楽街に誘う可能性が高いそうなのが、朝の稽古に参加している兵達と判断したのだろう。
偏見ようにも思えるが、一般兵に歓楽街で遊ぶ者が多いのは確かである。
「私が知る限りではありません。ヨコヅナは稽古の時は、スモウの鍛錬に集中していて遊びに行く話を出来る雰囲気ではありません。それにヨコヅナの鍛錬を邪魔する者は、まずあの黒いメイドに排除されます」
「それは容易に想像できるな。だが休憩中や終わってからなら話ぐらいするだろう」
「ヨコヅナは私達が休憩中も基本的には鍛錬を続けていますし、稽古が終わったら皆がへたり込んでいる中、ヨコヅナは直ぐ帰ります。何より皆、ヨコヅナがヘルシング家の客人で、コフィーリア王女とも関りがあることを知っていますので、安易に歓楽街へ誘うとは思えません。あの黒いメイドの目もありますから」
「ふむ……、やはりラビスがついてる限りは滅多なことはないか…」
以前爺やと話した時と同じ結論に達するハイネ。
実際ラビスは朝の稽古の時、ヨコヅナに悪い虫がつかないように漆黒の目を光らせている。
「あの、ハイネ様…」
ここまで一言も喋って無かったレブロット。
「何故ヨコヅナに直接聞かれないのですか?」
レブロットはヨコヅナが歓楽街に頻繁に行っているという話を疑問に思っていない、何故ならレブロットは理由を知っているからだ。
疑問なのはその理由をハイネが知らないという部分だ。
「今、ヘルシング家とコフィーとのちゃんこ鍋屋絡みの確執は知っているか?」
「ええ、まぁ、大変な事になっているとは聞いております」
「だから、ヨコヅナを詮索するような話はラビスの目がある為、控えているのだ」
「そうですか……」
レブロットとしては理由を話すかどうか迷いところであった。
ヨコヅナがハイネに話していないのは隠匿の意図があるのだろうし、その意図もだいたい察しはつく。
「仮に、ヨコヅナが歓楽街の遊館やギャンブル店に遊びに行っているとしても、節度を守ってなら」
メガロは、ヨコヅナも男なのだからそういう所で遊んでも良いのでは、と続けようとして…
「ヨコヅナはあれでも未成年だぞ」
「……あぁ、そういえば…」
とてもそうは見えないがヨコヅナは未成年である。
「自分で稼いでいるからギャンブルぐらいは構わないと思うが、遊館は駄目だろう」
自分で稼いでいて、ギャンブルがOKなら遊館もOKなのではと思わなくもないメガロだが、
「そうですね」
ハイネが怖いので肯定しておく。
「ヨコヅナの姉からも
「え、あっ、ハイネ様もヨコヅナの姉をご存じなので?」
ハイネの付け足しの言葉にレブロットが驚く。
「ん?ヨコヅナには姉がいたのか?」
「いや、同郷の姉貴分という意味で、血は繋がってないそうですが」
このレブロットがメガロにした説明を聞いてハイネは、
「ああ、私もヨコヅナの姉貴分とは面識がある」
お互いの言った姉が同一人物だと判断した。
「それなら構わないか……実はヨコヅナは少し前から、歓楽街にある姉の店を手伝っているそうなのです」
「姉の店?……歓楽街にもあるのか」
「ええ、複数ある内の一つで、あそこは比較的新しい店だと聞いてます」
「そうなのか……何故黙っていたレブロット?」
知っていたなら初めに聞いた時にすぐ答えれただろうと目を鋭くするハイネ。
「いや、その、ヨコヅナがハイネ様に話してない理由と同じだと思うのですが、…手伝っているのはギャンブル店でして…」
レブロットは隠匿の意図を、店がギャンブル店だからだと推測していた。
ギャンブル業はグレーな職種だけに、そんな店で働く事自体を蔑視する者もいる。
唯、先ほど「ギャンブルぐらいは構わない」とハイネが言っていたので、レブロットは話しても問題ないと判断した。
「あ、ギャンブル店の手伝いと言ってもヨコヅナの担当は厨房らしく、ヨコヅナの提案したサンドイッチは凄く好評なんですよ」
問題ないと判断したけど、ちょっと心配なのでギャンブルはしてない事も伝えるレブロット。
レブロットとしては、もしハイネに事情を話したことで、
ヨコヅナが『ハイ&ロード』で働くことが出来なくなったら、オリアに恨まれるかもしれない。
しかし、黙っていたことを後々ハイネが知った場合、想像するのも恐ろしい目に会うかもしれない。
だから、知っていることを話しつつ、ヨコヅナが店の手伝いを続けれるようにしなければならない。
「サンドイッチ…あぁ、この前ヨコヅナが作ってくれたあれか…」
ハイネは屋敷で食べた、ヨコヅナが作ったBLTEサンドを思い出す。
「そう言えば、あの時ラビスは不機嫌そうにしていたな……なるほど、辻褄が合ってきたな」
ハイネの考えはこうだ。
・歓楽街でヨコヅナがよく目撃される → 歓楽街にある姉の店を手伝っているから
・ヘルシング家に秘密にしている → ギャンブル店の為、辞めさせられる可能性を懸念してるから
・ラビスが厳しく隠匿兼不機嫌 → 王女様の侍女という立場的には容認しがたいから
・ラビスは既知なのにヨコヅナは店を手伝っている → コフィーリアの許可は出ているから
「フっ、やはりどうと言う事はなかったな」
爺やが執拗に報告してくるから、少し心配になってこうしてメガロとレブロットに話を聞いたハイネだが、辿り着いた答えは姉の店の手伝い。
「……ハイネ様は反対されない、ですよね」
「しないさ。ヨコヅナが同郷の者を家族同然に思っていることは知っているからな、手伝う事ぐらいは当然するだろう」
「そうですよね……それも、あんな美人の姉に手伝って欲しいと頼まれたら断れないですね」
「ん?…美人?」
レブロットの言葉に違和感を覚えるハイネ。
「ええ、……人に寄っては異を唱える者もいるかもしれませんが、俺は美人だと思いますよ」
ハイネの怪訝そうな反応を見て、レブロットはきっぱり言い切る。
「……そうか、まぁその辺の感覚は人それぞれだからな」
レブロットの体型を見てそう納得するハイネ。
「今日の事はヨコヅナには内緒で頼む」
ヨコヅナについてコソコソと詮索した事に、少し後ろめたさを感じているハイネは二人に秘密にするように頼む。
「はい」
「分かっています」
もちろん二人はハイネが怖いので二つ返事だ。
「呼び出して悪かったな」
ハイネはそう言いながら席を立ち、
「この礼は遠くない内にしよう」
疑問も晴れた事でスッキリした笑顔で食堂を後にした。
お 気 づ き で し ょ う か ?
レブロットとハイネの会話は噛み合っていない。
もしどちらかが姉と称さず、名前を言っていれば、
未来は変わっていたかもしれない。
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