なんでオラ、こんなとこにいるだ？

第165話 我も食べたいの

「それじゃ、ヨコヅナのAランク昇格を祝って、乾杯！」

「「「「「「「「「「カンパ～イ！！」」」」」」」」」」

　乾杯のコールの後、ロード会の皆がヨコヅナに「おめでとう」「ほんと凄いよな」など賞賛の言葉をくれる。

「ありがとうだべ」

　みんなのお祝いに礼を言うヨコヅナ。

「もう食べて良いっすか？」

　そんな中、エフを含め数名は料理に目が釘付けだ。

「全くあんたたちは、良いよ食べな」

　デルファの言葉で皆料理に手を付ける。

　ヨコヅナが作ったので、当然メインはちゃんこ鍋だ。

「ちゃんこ鍋食べるの久しぶり」

　そう言いながらオリアもちゃんこを食べる。

「っ！美味しい……ほんと美味しいよヨコ」

　驚いたように、でも本心からのオリアの言葉。

「昔食べたタメエモンさんが作ったのよりも美味しいよ」

「ありがとうだべ」

　オリアの言葉に嬉しそうに笑うヨコヅナ。

「これは…さすがだねぇ～」

「美味しい…、噂通り、いえ噂以上だわ」

　デルファとアイリィもちゃんこの味に驚きつつ堪能する。

「ジュリ達はどう？美味しい？」

「「「「美味し～！」」」」

　子供達の中には野菜が嫌いな子もいるが、皆美味しいそうにパクパクとちゃんこを食べている。

「イティはどうだい？」

　デルファはそう聞くが、匙が止まらず頬がパンパンのイティを見るにどう思っているかは自明の理だ。

「ゴクンっ…まぁ、美味い」

「へぇ～、イティがマ人の作った料理を褒めるの初めて聞いたわ」

　マ人嫌いのイティは今までマ人の料理を褒めた事なんてなかった。

「……別にこいつの料理を褒めたわけじゃない。美味いのはこのちゃんこって料理だろ、王都で評判になってるし…」

「どんな料理でも味は作り手次第よ。このちゃんこが美味しいのはヨコが作ったから」

「そうだね。ボーヤはわざわざ仕込みをした食材を持ってきたくれたからねぇ」

　ちゃんこ鍋には手を抜かないヨコヅナは、今日に備えて仕込み済みの食材を用意していた。

「ふ～ん、……じゃあ店のちゃんこはもっと美味いってことか。あの店は宮廷料理人が作ってるらしいし」

　確かにどんな料理でも味は作り手次第で、宮廷料理人が作っているならそっちの方が美味しいと考えるは当然と言える。

　しかし、

「モグモグ、ゴクンっ…そんなことないっすよ、ヨコやんが作ったちゃんこの方が美味しいっす」

　今まで美味しいと言う間も惜しいとばかりにちゃんこを口に運んでいたエフが、当然の考えを否定する。

「エフ、ちゃんこ鍋屋に食べに行ったことあるの？」

　ちゃんこ鍋屋に行って食べてなければ否定は出来ない、意外な言葉に聞き返すオリア。

「あるっすよ。混血でも入れるって聞いたから、ジー君と一緒に行ったっす」

「……何も問題なかった？」

「ちょっと驚いてた感じだったっすけど、何も問題なくちゃんこ食べたっすよ。ジー君はどっちの方が美味しいっすか？」

「ヨコヅナノ作ッタ、チャンコノ方ガ美味イ」

「そうっすよね～」

　当り前のように、宮廷料理人よりもヨコヅナの方が美味しいと言う二人。

　オリアがそんな事があり得るのだろうかと思っていると、

「店で出す場合は、何百杯って大量に作らないといけないから、味を安定させれ為に作る工程を簡略化しないといけないだ、どうしても味が少し落ちるだよ」

「……なるほど、だから前に宮廷料理人より美味しいちゃんこが作れるって言ってたんだ」

　ヨコヅナの説明で納得しそうになるオリア、しかし、

「オリアまで何をボケた事言ってるのよ」　

「…ボケた事って何がよ？」

「その宮廷料理人にちゃんこの作り方を教えたのがヨコちゃんでしょ」

　話を聞いていたアイリィが核心を突く言葉を口にする。

「え！……そうなのヨコ？」

「そうだべ」

　何でもない事の頷くようにヨコヅナ。

「というか、あのちゃんこ鍋屋の経営者がボーヤだしね」

　さらにデルファの核心を貫く言葉を口にする。

「ええ！？……ヨコが経営者って、それはさすがに…」

「デルファにはバレてただか」

「本当に経営者なの！？」

　ヨコヅナの肯定ととれる言葉に驚愕するオリア。

「何でオリアが知らないのよ？」

「いや、だって…聞いてないし。二人はヨコから聞いてた……わけじゃないのよね」

「当たり前でしょ、私はヨコちゃんとはほとんど接点なかったんだから」

「私も違うよ。ボーヤの本業には質問しないようにしてたからね……オリアにバラしちゃ駄目だったかい？」

「別に駄目じゃないだよ」

　ちゃんこ鍋屋の内容で秘密にしなければならない事は特にない。もしオリアから「ちゃんこ鍋屋と関係あるの？」と聞かれていたらヨコヅナは普通に話するつもりでいた。

「それじゃ、オリアの為に答え合わせといこうか。……でも、いきなりボーヤから正解を聞いたら面白くないね、アイリィ」

　目配せだけで、何故ヨコヅナの本業が分かったのかを話すようアイリィに促すデルファ。

「ちょっと考えれば分かるわ。ちゃんこ鍋が最初に噂になったのは建国祭での屋台、でも宮廷料理人が屋台で料理を出すわけないし、屋台で作っていたのは大柄な若い青年。ヨコちゃんは暑い時期に王都に来たと聞いてるから時期的にもドンピシャ」

　アイリィが筋道をなぞるように推測を話す。

「そして、ちゃんこ鍋の噂が広まった一番の理由はコフィーリア王女が好評したから。何故王女が屋台の料理を食べたのか疑問だったけど、格闘大会や清髪剤の件でヨコちゃんと知り合いだったなら事前に話は通せる。王女来店もあってちゃんこ鍋は祭で一番好評の屋台と言われてたわ、ちゃんこ鍋屋を開業するのは当然ってことよ。どうヨコちゃん当たってる？」

「凄いだな、アイリィが言った通りだべ。あ、でも、姫さんが来たのは偶然で約束とかはしてないだよ」

「へぇ～、ヤラセかとも思ってたんだけど……というか姫さんってコフィーリア王女のことよね…」

　ヨコヅナと接することが少なかった為、姫さん呼びすら知らないアイリィ。

「……でも、それじゃ何でヨコじゃなく、店で宮廷料理人がちゃんこ鍋作ってるのよ？」

「この辺は…デルファに譲るわ」

「難しいところから押し付けるねぇ」

　ヨコヅナに聞けば分かる事だが、それは推測を話してからだ。

「私の推測だと、清髪剤が主案、ちゃんこ鍋屋は副案ですぐに開業する予定ではなかったんじゃないかい。でも予想以上の繁盛ぶりに急遽同時進行することが決まり、宮廷料理人を宛がって、ボーヤを経営者にすえた。そんなところかね、どうだいボーヤ？」

「それもほとんど正解だべ。ただ元宮廷料理人のヨルダックは、志願したから店でちゃんこ作ってるだよ」

「……その宮廷料理人は地位を捨てて、ちゃんこ鍋屋の料理人に志願したのかい？」

「そうだべ」

「奇特な奴もいたもんだねぇ」

「それも正解だべ」

　余談になるのでヨコヅナはわざわざ説明しないが、

　コフィーリアはヨルダックに宮廷料理人の職をそのままに、派遣としてちゃんこ鍋屋で料理人になる提案をしていた。王女専属のメイドで在りながらヨコヅナの補佐をしているラビスと同じような雇用形態だ。

　しかし、ヨルダックは「私はちゃんこ鍋屋の繁栄に全力をそそぐ所存です。宮廷料理人に戻るつもりはありません」と言ってそれを拒否した。

　その時点ではちゃんこ鍋屋が上手くいくかどうか分からないし、結果大好況だった現在でも給料は、王宮からの派遣である場合の半分以下、奇特と言われても誰も否定できない。

　閑話休題、

「筋は通ってるけど、ヨコは清髪剤作っててそんな暇は…」

　デルファの推測を聞いても納得がいかないオリア。

　ヨコヅナが肯定している時点で否定の意味などないのだが…

「それも作り方教えれば、ヨコちゃんが作る必要はないわ」

「でも、二つの事業を同時進行なんて……っ！あの補佐のメイド…」

「気づくのが遅いねェ。コフィーリア王女の専属メイドはどんな仕事に就くよりも難関と言われてるんだよ。そんな有能な人材が補佐してるなら事業の同時進行ぐらい出来るさ。まぁ私も確信したのはオリアから混血のメイドがボーヤの補佐をしてるって聞いた時だけどね、清髪剤とちゃんこ鍋屋の経営陣は『地方出身の農民』『王宮勤めの混血の侍女』って噂があるんだよ」

　デルファはこれらを確信した時、ヨコヅナが裏格闘試合に出場することを諦めかけたのだが、今になってはいらぬ考えだったと思っている。

「私はそれ聞いてないわ。ヨコちゃんの補佐って混血なの？」

「そうだべ」

「……だから、ちゃんこ鍋屋では人族至上主義は店から放り出されるなんて言われてるのね」

「それは間違ってるだ。みんなに喜んでもらえる店にしたいって決めたのはオラだし、放り出したのもオラだべ」

　仮に、ちゃんこ鍋屋に混血の者は出禁と決めても、利益が上がるのであればラビスは一切異論は唱えない。

「ふ～ん……オリアを姉と呼んでるわけだから不思議ではないわね」

「あと、放り出したのは騒いで他の客に迷惑かけるからだべ」

　どんな主義でも出禁にするつもりはヨコヅナにはない、営業妨害する客や、他人に迷惑をかける客を放り出しただけだ。

「ボーヤが放り出したって言うと文字通りの意味に聞こえるねェ」

「ん？文字通り放り出しただよ」

「……放り出したのかい？」

「だからそう言ってるだ」

「そうかい…」

　ヨコヅナの放り出すは文字通りである。

「それじぁ、……清髪剤事業もちゃんこ鍋屋もヨコがトップなわけ？」

「オラは雇われ経営者ってやつで、上には姫さんがいるだへがな」

　そう笑顔で答えるヨコヅナ。

「……」

　それは幼い時から知っている弟分のいつもの笑顔のはずなのに、思いもよらない本業を知らされたオリアには別人ように思えた。