第136話 女子会じゃ……の?
「最後に行った街など神輿に乗って街中を練りまわったりさせられたのだぞ」
「ふふふっ、他の街に対抗しようとして祝い方が派手になっていったのでしょうね」
コフィーリアの応接室でハイネは地方行軍の土産話を話していた。
親友二人でのお茶会である。
「地方の有力者の御子息から婚姻を申し込まれたりしなかった?」
「されたさ、どいつもこいつも木刀で軽く叩いたら、膝を折るような軟弱者ばかりだったよ」
「相変わらずね……いつまでもそんなことしてると本当に嫁の貰い手がいなくなるわよ」
「コフィーにだけは言われたくないな。婚姻を申し込みにきた隣国の王子を、腹パンして病院送りにしたと聞いたぞ」
「私は反省しているもの」
年頃の女性二人が婚姻という恋バナをしているのにまるで色気がない。
「今後腹パンはヨコだけにするわ」
「そうだな。私も朝の手合わせで模擬剣を使うのはヨコヅナだけにするつもりだ」
前回ハイネが朝の鍛錬に参加して、一般兵達と手合わせした際に模擬剣を使っていたため、怪我をして軍務に支障をきたした者が続出したのだ。そんな報告を受けハイネも少し反省していた。
「ヨコヅナ様が不憫すぎですね~」
二人でのお茶会と言っても、給仕として部屋にはメイドのユナもいる、以前なら必ず執事のヤズミもいたのだが、
「ヤズミは今ちゃんこ鍋屋で働いているのだったな」
「ええ、頑張ってるみたいよ。ヤズッチ」
「ヤズッチ?」
「ヤズミの偽名よ、店では変装して働いてるしね。ハイネはまだちゃんこ鍋屋に食べに行ってないの?」
「ああ、……慌てて行く必要はないのでな」
本当はハイネも予約が取れるならすぐ行くつもりだった。
行けない理由がヘルシング家にはあるのだ。
「……ちゃんこ鍋屋の話が出たところで本題に入っていいか?」
「あら、今まで楽しい会話がついでだなんて寂しい事言うわね~」
「だったら、こっちがついででもいいが……父上達も反省しているから許してやってくれないか」
ハイネがちゃんこ鍋屋へ行けてない理由とは、ヘルシング家がコフィーリアから事業乗っ取りを企てたと騒がれているからである。
今日はその和解も兼ねてコフィーリアに会いに来たのだ。
「……私は別に怒ってるわけではないのよ」
コフィーリアから怒気は感じられない、しかし他の感情も感じられない。親友というだけあって、ハイネも感情を露わに怒ってるコフィーリアより、無感情なコフィーリアの方が恐ろしいことを知っている。
「父上が事業を乗っ取るつもりなどない事は分かっているのだろう」
「それはどうかしら……ユナ」
コフィーリアがユナに指示とだすと、用意してあったのだろう報告書の束をハイネに渡す。
「ラビスからの報告書よ」
「ん?ラビスからは私も報告を受けているが」
「ラビスの判断で省いて報告されてないと思うわ……ヒョードルからちゃんこ鍋屋への要望や提案よ」
「これ全部がか!?」
要望や提案を箇条書きされている報告書は何枚もある。
「中には使える提案もあるけど、大半は使えないわ。私情だけの要望もあるし……」
軍部トップのヘルシング元帥とはいえ軍人、商売は素人。使える提案などほんの僅かである。
「ラビスだから平然と断ってるけど、普通の補佐だったらどうなっていたか」
国の重鎮からの提案や要望。普通の者なら断れず応えようとして、ちゃんこ鍋屋の売上に影響を与えていた可能性は大いにある。
「投資しているとはいえ、やり過ぎだな」
「そもそもヒョードルからの投資は必要ないのよ。温情で投資させてあげてるというのに……」
ヘルシング家からの投資は、はっきり言ってヒョードルが気兼ねなくちゃんこ鍋屋に食べに行く為の口実のようなものだ。
「それにあのパーティーにしても、ヨコに女を宛がうことを目的とした仕組まれたものだったらしいじゃない」
「父上達は否定しているが……」
「参加者からウラは取ってるわよ。ヘルシング家の方から、ヨコは私の紹介だとさせて欲しいと言ってきたのに、その相手を勝手に婚姻させようとするのはどうなのかしら?」
ハイネを攻めているのではなく、ヒョードル達にも同じ話をして、同意を求めていると言った感じのコフィーリア。
「まぁヨコが望んでるなら私も口出しなんてしないわよ。でも「政略結婚みたいな見合いはしたくない」と以前全部断ったのでしょ……さすがに筋が通らないわよね~」
「全くその通りだな……はぁ、」
ハイネもこの件に関してはコフィーリアに同意見だ。
だからヘルシング家がちゃんこ鍋屋を出禁になるぐらいなら、何も言う気はない。(ヒョードルはそれもかなり困っているが……)
「ただ、全く関係のない者まで困ってると親族一同から頼まれててな」
王族から事業を乗っ取ろうしたという噂は効果絶大だった。
「ちゃんこ鍋屋の成功を祝いたかったのは本心だし、ヨコヅナは何も気にしてないのだ。ここは地方行軍を頑張った私の免じて許してくれないか?」
「………ふふっ、仕方ないわね~」
そこでやっと意地が悪そうだが楽しんでる感情が見える表情に変わるコフィーリア。
「今度の私のパーティーの時までには、「些細なすれ違いがあったものの和解した」というふうにもっていくわ」
「そうか!、恩に着るよ」
それまではヒョードルは、ちゃんこを食べに行けないし、被害被っている親族への援助をしなければいけないだろうが、それはぐらいは当然の報いだ。
「ハイネには悪いと思っているのよ、本当なら長期の行軍からの帰還祝い…」
「いや、それについては中止に出来たことに感謝しているよ」
地方で散々祝われたハイネとって、帰還祝いのパーティーなど疲れるだけだ。
「ヨコヅナが美味しいちゃんこ鍋を作って出迎えてくれたし、コフィーもこうして労いの茶会に招いてくれたから十分だよ」
「ふふっ、安上りね。……そうそうヨコもパーティーに招待するつもりだから、空けておくように言っておいて」
「それは構わないが……、ヨコヅナは上流階級のパーティーに出席するのは気が進まないようだぞ」
ちゃんこ鍋屋の開店祝いパーティーでも緊張でせっかく料理もほとんど食べれなかったと言っていた。
「ヘルシング家のパーティーに参加しておいて、私のパーティーに参加しないなんて言わせないわよ。ヨコの雇い主は私なのだから」
パワハラ上司この上ないコフィーリアであった。
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