第135話 甘く見過ぎじゃ
裏格闘試合の会場からロード会への帰路を走る馬車、中にはヨコヅナ達三人が乗っていた。
「デルファが言ったとおり、弱い人しかいなかっただな」
残りの3試合も全て瞬殺一撃KOで勝ち抜いたヨコヅナ。
「はははっ、ボーヤなら余裕だとは思ったけど、ここまで簡単に5連勝するとはに思わなかったねェ」
「怪我がなくて何よりね」
想像以上のヨコヅナの活躍に満足そうに笑うデルファと、怪我をしなかったことに安堵するオリア。
「さすがに私も、こんな短時間で簡単に儲け過ぎて気が引ける思いだよ」
「儲けって、賞金は全部ヨコのモノでしょ」
ヨコヅナがロード会に雇われているとはいえ、賞金は戦ったヨコヅナが受け取るべきだと考えるオリア。
「もちろん賞金はボーヤのモノさ」
デルファもその考えは否定しない。
「5戦全部、ボーヤの勝ちに上限一杯賭けたからね。新人はそもそも倍率高いし、連戦の場合さらに高くなる、登録料引いてもぼろ儲けさ」
「そんなに儲けたの……そうなんだ」
「……どうしたんだい?悩むことなんてないだろ」
無傷でぼろ儲けという最上の結果だというのに浮かない顔をするオリア。
「あのムカつく受付係いたでしょ。帰る時私にこう言ったよ」
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「5連勝おめでとうございます」
「フンっ、そんな口先だけの言葉いらないわよ」
「いえいえ、本心ですよ」
「どうしてあんたがヨコの勝利を祝うのよ?」
「おかげで儲けることが出来ましたから」
「はぁ?……あんた、ヨコに賭けてたってわけ!?」
「受付係でも賭け札を買う権利はあるのですよ」
「散々ヨコのこと疑ってたじゃない!」
「でも、『不倒』選手はマ人なのでしょ?」
「…そうよ」
「だったら問題ないだろ」
「ぐぬぅ、こいつホントムカつくぅ~!!」
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「ほんっと、信じられない!散々疑ってたのにヨコの勝ちに賭けて、平然と私に自慢してくるとか!」
「まぁ次からはBクラスなんだ、もう会うことはないよ」
「……そうね。どうせあんな嫌な性格してる奴なんて、暗くて汚いCランクで受付してるのがお似合いよ」
そんなフラグを立てているとしか思えないオリアの言葉は置いておくとして。
「Bクラスの試合はいつになるだ?」
「…少し間が開くんだよねェ」
ヨコヅナとしては明日試合だと言われても何も問題ないのだが、違法で危険な裏格闘試合だけにそんなに頻繁に行われてはいない。
「じゃあしばらくは普通のロード会の仕事だべか」
「十二分に稼いでくれたから休んでもらって構わないけど、どうする?」
「別に疲れてもしてないし、怪我もしてないから予定通り働くだよ」
「それは助かるよ」
デルファとしては5連勝出来たとしても、しばらくは休養が必要になるとは思っていたのだが、全くの杞憂だった。
「運搬の仕事がないなら、『ハイ&ロード』を手伝ってもらっていいかしら?厨房担当の人達がヨコに料理教えて欲しいって言ってるの」
「……それは良いねェ、ボーヤ頼めるかい?」
「構わないだよ」
もしこの場にラビスがいたら、給料の値上げ交渉もせず請けたヨコヅナを鞭で叩いだだろう。
「………ところで試合の後、会場でこんなの貰ったんだべが」
ヨコヅナは懐から数枚の小さい紙を取り出す。
「名刺?……これって、スカウトじゃないの」
ヨコヅナが貰った名刺は、組織の代表選手を探しに来ていたスカウトマンのモノだ。
「ははっ、随分気が早い連中がいるねェ。…まぁあれだけ圧倒的な試合すれば当然かね」
Cランクはレベルが低いのでスカウトマンは少ないのだが、ヨコヅナはその数少ないスカウトマンの目に留まったようだ。
「ボーヤならBクラスでも10勝を勝ち越せると思ったんだろうね」
Bクラスからは選手のレベルも上がり、5敗してCランクに落ちる者は少くない。
ただ、Bクラスで10勝してもAランクへ上がれる資格を得るだけで組織に所属して代表選手にならなければ試合には出れないので、スカウトマンは、組織・選手ともに必要な存在だ。
個人で裏闘に登録した場合、C、Bランクで勝ち抜いている間にスカウトされて、組織の代表選手となりAランクの試合で戦うというのが通常の流れとなる。
「ヨコは既にロード会と契約してるから関係ないけどね」
一人の選手が複数の組織で代表選手になることはできない。このルールを破ると登録証を剥奪されて二度と裏闘で戦うことはできなくなる。
ヨコヅナが受付で細かくチェックされてたのも同じ理由からだ。
試合中のルール違反には緩いのだが、試合外のルール違反には厳しい裏闘。
「デルファがセコンドにいたのに、ヨコがロード会の関係者だと思わなかったのかしら……」
混血の中でも4つ目という稀な容姿のデルファは、その筋では少しは有名だ。
「いや、気づいてただろうね」
「じゃぁ、引き抜きってこと?」
「オラが一人いるときに近づいてからきっとそうだべな……後日話がしたいって言ってただ」
「あ!そういうにホイホイ行ったら駄目よ。接待するふりして罠にハメようする連中がいるから」
裏と付くだけに参加する組織もその筋が多く、勧誘の仕方も脅しやハニートラップ等は当り前で、まともでないことは多い。
「ちゃんと断っただよ」
ヨコヅナは後日改めて話すまでもなく、その場でスカウトをきっぱり断った。
「ウチより高給で雇ってもらえるかもしれないよ、試合で勝てば働く必要もないしね」
代表選手は、鍛えて試合で勝つ事が仕事であって、普通は業務仕事はしない。
エチギルドもロード会で通常の業務をしたことなどなかった、アイリィの護衛とか言ってたが実際は遊館で遊んでただけだ。
「他の組織に雇われる理由なんてないべ。賞金は貰えるし、給料分の仕事はするだよ」
「欲がないねェ………いや、イティが言ってたね、ボーヤは何か企んでるって」
「え?ヨコが企み……イティが何言ってたの?」
オリアには正直ヨコヅナに深い考えがあるとか思えない、…ある意味失礼な話である。
「オリアの笑える昔話と一緒に聞いたんだけどね…」
「ヨコ!他にも何か話したわけ!?」
昔の恥ずかしい話をイティを通じて、ロード会の皆に広めたことをオリアは割と本気で怒っていた。他にも何か話したのかと思い、ヨコヅナのほっぺを抓る。
「痛いだよ、話してないだよ」
「はははっ。イティが言うには、ボーヤはウチを利用して自分の商売の利益を上げるつもりなんだってさ」
「自分の商売って、清髪剤のこと?……そんなの相談してくれたら協力販売するわよ」
人気の清髪剤なら寧ろロード会の方からお願いしたいぐらいだ。
「でもそれは、王女が禁止してるんじゃないのかい?」
清髪剤にはコフィーリアが後ろ盾になっていて、厳しく取り締まっていると聞いているデルファ。
「何でもかんでも禁止されてはないだよ。事前に報告して許可を貰う必要があるだけで……許可が下りたことはないだべが」
「それは禁止と同じだと思うがね」
「この件はまだ準備中だから……準備が出きたら相談するだよ」
「……へぇ~ヨコも色々考えてるのね」
「はははっ、楽しみにさせてもらうよ……」
最上の結果だっただけに、危険な裏格闘試合の帰りなのに明るく笑いが絶えない。
「次からもこうだと良いんだけど……」
呟くようなオリアの言葉。
「そうだねェ……」
デルファはオリアの言葉にそう返すも、裏闘で勝つ抜くことはがそんな甘いと思っていた。
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