第132話 定番の設定じゃの


「……こんな場所で試合するんだべか」


 デルファとオリアと共に馬車でヨコヅナが訪れた裏格闘試合の会場は、大きいがボロイ倉庫であった。

 中に入ると、外観よりはしっかりした造りをしているが、薄暗く小汚い感じだ。

 また集まっている客層もガラの悪そうなのが多い。


「ここはCランクの試合会場だからねェ。Bランクはもっとマシだし、Aランクになれば寧ろ豪華な会場になるよ」


 裏格闘試合には、C B Aと三つのランクがある。

 Cランクから始まり10勝するとBランクへと上がれる。

 Bランクで10勝すればAランクへ上がる資格を得られるが、5敗するとCランクに下げられる。


「エチギルドの代わりなんだから、Bランクじゃないの?」


 ヨコヅナの前にロード会の雇われていたエチギルドはBランクだった。だかヨコヅナは新規登録としてCランクからだ。


「金を払えばそれも可能だけど勿体ないだろ」


 裏格闘試合の運営に大金を払えば、エイチギルドのランクを引き継げるがそこまでするメリットはないと考えたデルファ。


「今日で5連勝すれば、Bランクに上がれるわけだしね」

「連続なら5勝で良いんだか?」

「1日でならだよ、相応のリスクもあるけどね」


 リスクというのは間をおかず連戦のため、体力が消耗しているという事。それともう一つ、賞金を失うリスクだ。

 勝者には賞金が出るのだが、連戦する場合はそれを全額賭けなければならない。

 連勝した賞金を全て賭けなければいけないので、もし4連勝して5戦目に負けたら賞金は0となり、しかもBランクに上がるにはあと6勝しなくてはならない。


「Cランクじゃたいして稼げないし、5連勝狙ってもらえるかい」


 ヨコヅナであればCランクの相手ぐらい圧勝できると考えているデルファ、というかそうでなくては困る。


「……まぁ、怪我しない程度に頑張るだよ」

「というかそんな話より、先に試合のルール説明しないといけないでしょ!」


 まず最初にしないといけない話をしてないことに怒るオリア。


「そうだったね。まず試合はあの金網で中で行われる」

「それはまぁ、入ってすぐ目に見えたから分かってただよ」


 会場の中央にある金網に囲まれた闘技台、他に戦えるような場所はないから、あの中で戦うのだと誰でも分かる。


「目と金への攻撃は禁止。でも普通に攻撃する奴いるから気をつけな」

「禁止されてるのにだべか?」

「多少当たったぐらいだと、事故か故意かは分かりずらいからねェ。さすが玉を潰したら反則負けになるよ」

「……緩いだな、審判は何してるだ?」

「あ、審判とかいないから」


 金網に囲われていて、反則の基準が緩いだけでなく、裏格闘試合には審判がいない。


「……それ試合って言えるだか?」

「一応開始の合図はあるよ。あそこの大きい銅鑼がたたかれる」


 金網の脇にある銅鑼が指さすデルファ。

 その銅鑼の隣には異様に大きい砂時計もあった。 


「隣の砂時計を開始と同時に逆さにして、砂が落ちきったら試合終了」

「制限時間があるだべか?」

「無制限だと他の試合に支障がでるからね。試合終了の時も銅鑼がたたかれるんだけど、試合内容関係なく終了時にお互いに立っていたら、引き分け無効試合だ。滅多にないことだがね」


 砂時計が大きいだけに時間切れの引き分けは珍しい。


「でも開始合図の前や終了合図の後にも攻撃してくる奴もいるから、気をつけな」

「……合図の意味あるだか」

「8割ぐらいはちゃんと合図を守るから、あるんじゃないかい」


 つまり10試合に2試合ぐらいは奇襲されると言う事だ。


「あと、木製の尖らせてない、制限された重量内の武器であれば使用可だ」


 格闘と言うからには全員が素手だと思っていたヨコヅナだが、裏格闘試合では木刀やトンファー等を使用する選手も多い。

 

「武器を使うは場合はリスクもある。武器有りと武器無しとの試合の場合、時間終了の際は引き分けではなく武器無しの勝ちとなるよ」


 木製とは言え武器を持って戦う方が有利となので、素手で戦う者とのハンデは儲けられていた。


「…まぁ軽くて尖ってないならそんなに危なくもないだべかな」

「たまに、木棒を試合中に折って尖った部分で攻撃してくる奴もいるから気をつけな」

「それでも反則にならないんだべか……審判がいないなら誰が勝敗を決めるだ?」


 闘技大会の時は審判が勝利者宣言をして、勝負が決着としていたことを思い出すヨコヅナ。


「立ってる者が勝ち、倒れ伏す者が負け、誰でも分かるだろ」


 誰が見ても勝者がどちらかなのかが分かる状態、それが裏格闘試合での勝利条件だ。


「でも勝敗が決してるのに攻撃を続ける奴もいるから気をつけな、って言ってもそんな状況じゃ無理だろうから。その場合は私が助けに入ってやるよ」

 

 選手が危い状況ではセコンドが止めに入ることは許されている、だたしその時点で敗北は確定する。

 

「そんな状況になるつもりなんてないだよ……しかし、そんなに何でもありなら『格闘試合』って呼び方止めた方が良いと思うだ」

「はははっ、それは同感だね。略した隠語として『裏闘りとう』と呼ばれることの方が多いよ」

「だったら次からそう呼ぶだ」


 これからその格闘試合とも呼べない危険なモノに参戦するのに、呼び方などを気にしてる二人。

 そんな二人とは違い不安が顔にありありと現れているオリア。


「ヨコ、本当に戦うの?今なら……」

「そんなに心配しなくても大丈夫だべ」


 安心させるようにいつもの笑顔で言うヨコヅナだが、オリアには何故そんないつも通りなのか理解できない。


「Cランクはちょっと腕に覚えがあるチンピラがほとんどだよ、ボーヤなら問題ないさ」

「ヨコが強いのは私も分かってる……でも、似合わないのよ」


 ニーコ村でのんびり畑を耕してるヨコヅナの印象が強いオリア。来る前に子供達に懐かれて遊んでたのを見ただけに余計に、


「こんなところで戦うヨコを見たくないの」

「それならついて来なきゃいいじゃなか」

「そんなことできないわよ!私たちの為に戦ってくれるのに……」

「我がままだねェ……いい加減にしな」


 それまではどこか、おどけた感じのデルファだったが真剣な表情に変わる。


「不安や恐怖は他人にうつる場合がある、オリアがそんなんだと逆にボーヤを危険にするよ」

「それは、そうかもしれないけど…」

「Bクラスに上がれもっと危険になる。ボーヤは戦うと言っているだ、これ以上余計なことを言うなら次からは同行させないよ」


 本音を言えばデルファは初めからオリアを同行させたくなかった。

 理由は言うまでもなく、オリアの言葉はヨコヅナに影響を与えると思っているからだ。

 だが、弟同然のヨコヅナを心配するオリアの心情を無碍にも出来ないので同行を許したが、ヨコヅナの覚悟が決まっている以上、オリアの言い分は我がままでしかない。

 

「……分かった、もう言わない。ヨコを信じてるわ」


 デルファの言葉が本気なのは伝わり、オリアも覚悟を決める。


「よし、それじゃ本登録に行こうかね」

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