第131話 ヨコからしたらどんな子供でも軽いじゃろうがな


「それは……思っただ」

「ヨコはニーコ村で生まれて、村での暮らしが好きだからそう思うんだろうけど、そんな簡単な話じゃないの」


 ニーコ村で生まれた同世代のオリアを含めた四人にしても、村での暮しが嫌で王都に出てきたのだ。

 他のロード会のメンバーが簡単に馴染めるとは思えない。それも子供が一緒となれば尚のことだ。


「それはここで話をした方が分かりやすいと思ってね。みんな必死なんだ、王都で生きていくために」

「……だから違法な仕事ででもお金を稼ぐだか」

「どんな組織だって叩けば埃が出てくるよ。それに裏格闘試合は国も黙認してるしね、お偉いさんも参加してるから」


 裏格闘試合は古くからあるだけに、違法とか言いつつも実はがっつり国と繋がってたりもするのだ。


「ヨコが出場した闘技大会でも、非公式で賭けがあったの知ってる?」

「あぁ~、そう言えばあっただな……」

「あれも違法よ……でもさっき言ったようにヨコが戦う必要はないから。マ人の協力者だったら他を探せば良いだけだしね」

「……それだと、ん?」


 さらに何か言おうとしたヨコヅナだが、後ろから服を誰かに引っ張られた。後ろというより下と言う方が正確だが…。


「おにいさん、だれ?」


 ヨコヅナの服を引っ張ったのは小さな女の子だった。

 耳が異様に尖がっていて明るい金髪、オリアに似た容姿からオリアの子かとも思えたが、女の子は5、6歳ぐらいなのでまずありえない。

 普通に考えて女の子もエルフの血を引いているのだろう。


「ジュリ、みんなと行かなかったの?」

「オリちゃんが来ないから呼びにきたの」

「そっか、ありがと」


 ジュリと呼ばれた女の子と目線を合わせるように膝をつくヨコヅナ。


「オラはヨコヅナ、オリア姉の弟だべ」

「オリちゃんの弟?」

「そうだべ」

「そうなんだ。私はジュリ」


 オリアの弟だと分かり、またヨコヅナの優しい雰囲気も相まって、ジュリも笑顔で名前を教えてくれる。


「おっきいね。ジーくんみたいに乗れる?」

「乗れる?」

「ジークが来たとき子供達を肩に乗せて遊んであげてるの」


 首を傾げるヨコヅナにオリアが説明する。


「そういうことだべか」


 ヨコヅナはジュリを持ち上げて肩に乗せる。いつもカルレインで慣れてるので、ふらつく様な事はない。


「わぁー!高~い!」

「良かったねジュリ。デルファのところに行こっか」



 屋敷に入りデルファのところにいくと、ジュリを肩に乗せてるのを見て他の子供達が「自分も自分も」と集まってきたのでしばらく子供達の相手をするヨコヅナ。


「ヨコってやっぱりジークと似てるよね、子供にも好かれてる」

「……本当にジークと似てたら、商売で成功出来てるはずないけどねェ」


 筋力はロード会でトップのジークだが、知力はワースト候補になる。


「ヨコも計算とか読み書きが出来なかったわよ、……今は勉強して少しは出来るようだけど」

「少しなのかい…、それでよく商売やってるねェ」

「その辺はエネカちゃんが担当してるんだろうね。……あ、それか、補佐のあのがやってるのかな」

「補佐…?」

「王女様から人材も派遣してもらってるみたいでね、ヨコを補佐してるラビスってと会った事があるのよ」


 ヨコヅナと一緒に王都を回っていてラビスと出会った時の事を話すオリア。


「本来は王女様専属メイドらしいんだけど、混血だったのよね。……コフィーリア王女が差別をなくそうとしているって噂は本当みたい」


 王女が混血への差別をなくそうとしているという噂は以前からあり、実際コフィーリアはそうしたいと思っている。

 しかし、それが噂でしかないのは、簡単に変えることが出来ない根深い問題だということである。

 だから実際にコフィーリアが一任されている範囲内で混血の者を雇う事ぐらいしか、目に見える行動は出来ていない。

 それでも、根も葉もない噂ではないと分かり、オリアのように嬉しく思える混血の者は多い。

 しかし、オリアとは対照的に真剣な顔で思考を巡らしているデルファ。


「『地方出身の農民』と『王宮勤めの混血の侍女』……そういう事かい」

「ん?どうしたの?」

「確かに裏格闘試合なんかに出てるほどボーヤは暇じゃないね」

「だから私が何度もそう言ったじゃん!」

「オリアが思っている以上にだよ」


 オリアはヨコヅナがみずからの手で清髪剤を作っているから怪我したら大変だと思っているのだが、ヨコヅナが怪我した場合の損失はそんな些細なことじゃないことにデルファは気づいている。

 だから、裏格闘試合に出場させるのは諦めようと思ったのだが……


「まだ行かなくても大丈夫なんだべか?」


 子供を4人も乗せて平然しているヨコヅナがそんなことを聞いてきた。


「何処にだい?」

「裏格闘とかいう試合にだべ」


 その言葉を聞いて四ツ目を見開かせるデルファ。


「出場してくれるのかい?」

「負けても責任取らないし文句も聞かないだよ、それでも良いなら出場るだ」


 ヨコヅナの言葉を聞いて驚いているのはオリアも同じだ。


「待ってヨコ、さっきも言ったでしょ、ヨコが戦う必要なんてないの」

「オラが出場なくても代わりに誰かが出場るなら一緒だべ。だったら試しにやってみるだよ」

「試しって…そんな気楽な場所じゃないの!怪我したら大変でしょ!」

「オラが丈夫なのはオリア姉も知ってるべ」

「そういうことじゃなく…」

「大丈夫だべ」


 何を言われても考えを変えるつもりはないヨコヅナ。

 流されやすいヨコヅナだが、頑固なところもあるのを知っているオリアはそれ以上何も言えなくなる。


「本当に良いんだね。てっきり断られると思って諦めるつもりだったんだけど」

「変なこと言うだな。元々危険からオリア姉を守る為に雇われたんだから、荒事は覚悟してただよ」

「……そうだったね。ボーヤが負けても責任はないし誰にも文句は言わせない、それは約束するよ」

「それなら今回は気楽に戦えそうだべ」


 闘技大会の時は試合自体よりプレッシャーの方が辛かったヨコヅナはデルファの言葉に安堵する。


「オラ、そろそろ行かないといけないだ」


 そう言って子供を下すヨコヅナ。


「もう行っちゃうの…」


 残念そうに言うジュリ、他の子供達も「えぇ~」と不満そうな声を上げる。


「ごめんだべ。また来るだよ、次はもっと遊ぼうだべ」


 ヨコヅナは優しい笑みでジュリの頭を撫でながらそう約束した。

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