第130話 見た目に寄らずじゃの


 目的の場所には馬車でもそれなりに時間がかかった。

 貧困街や歓楽街から離れており、王都でも治安の良い地区にある屋敷の前で馬車は止まった。


「ここは誰の屋敷だべ?」

「一応私のだよ」

「……ここにオリア姉がいるだか?」

「そうだよ。ここに来た本当の目的はオリアに会う為じゃないけどね」


 そう言って門をあけて中に入るデルファ。ヨコヅナもそれに続く。


「もう来たんだ、早かったね」


 建物の入るまでもなく、門を潜ってすぐの広めの庭にオリアはいた。

 一人ではない、オリアは数人の子供達に囲まれていた。

 

「あ!デルファだ~!」

「帰ってきたのデルファ」

「お帰りデルファ!」


 デルファに気がついて近づいて来る子供達、


「ただいま、みんな良い子にしてたかい」


 子供達と目線を合わすように屈んで笑顔になるデルファ。

 それはロード会にいる時とは別人に思えるほど優し笑顔だった。


「いらっしゃいヨコ。もうここの話は聞いてる?」

「何も聞いてないだよ」

「そうなの?……デルファなんで説明してないのよ?」

「見れば分かるだろ」


 ヨコヅナの方も見ずそう答えるデルファ。

 そう言われてもヨコヅナに分かるのは、デルファが所有する屋敷に子供が多く居ること。それと、子供達はみんな混血の証があるということだ。


「……デルファは子沢山こだくさんなんだべな」

「ぷはっ!ははっ、間違ってはないわね」

「間違ってるよ!」


 ヨコヅナの解釈を吹き出して笑いつつ肯定するオリアと不機嫌そうに否定するデルファ。


「オリア、説明してやりな」

「……何、ひょっとして恥ずかしいの?」

「そんなんじゃないよ」


 デルファはそう言いつつもヨコヅナに説明をするつもりはないようで、


「土産にお菓子を買ってきたよ、みんなで食べようか」

「「「「「ワァーイ!!」」」」


 子供達を連れて屋敷へと入っていく。


「もう、まったく……デルファって悪者ぶろうとするのよね」

「……要はここ、混血の子供を預かる託児所ってことだべか」

「あら、分かってるんじゃない」


 さっきのヨコヅナの言葉は冗談で、四ツ目の混血はいないのでデルファの子供とは思っていなかった。


「ロード会の従業員の子供や親が出稼ぎをしてる混血の子を預かっているわ。ほとんど無料同然でね」

「え!?……家賃だけでも結構するんじゃないだか?」


 ちゃんこ鍋屋の立地を決める時にヨコヅナも色々な物件を見たので知っているのだが、この安全な地区で広い庭付きの屋敷となれば相当な値段がする。


「確かに高いけど子供の安全には変えられないってデルファがね、ふふっ」

「意外と…子供好きなんだべな」

 

 先ほどの子供達に向けた優しい笑顔を思い出すヨコヅナ。


「意外とね、ふふっ。……お金を取らないのは孤児もいるからなの」

「孤児、だべか…」


 デルファの養うと言ったのは従業員だけでなくここの子供達も含まれてた。

 高い屋敷の家賃に子供の養育費、「問題を解決するのにも金」という言葉から考えるに、ここで混血の子供達を住んでいるだけでも問題が起こるのだろう。


「だから、もっとお金が必要なわけだべか」

「……デルファが何て言ったか大体想像つくけど」


 ヨコヅナの言葉を聞いてオリアは顔を顰め、


「ヨコが裏格闘試合なんかで戦う必要はないよ」


 真剣な表情で言い切る。


「オリア姉は反対なんだべか?」

「当たり前でしょ!あんな危険な試合……エチギルドだったらどうなろうと知った事じゃないけど、ヨコに大怪我させられないし……」


 ヨコがロード会に雇われる前はエチギルドがマ人の協力者であり、裏格闘試合にも出場していた。


「でもヨコが、エチギルドをぶっ飛ばして、ジークともアームレスリングで互角の勝負するぐらい強いって分かったからみんなは賛成で、私一人の反対意見は聞いてくれないのよ」


 オリアもヨコヅナが強い事は分かってる。でも姉として、怪我をしてほしくないと思うのは仕方のない事だった。


「ヨコは他の仕事でも十分役にたってるしね。店の料理を担当してる人が言ってたよ、ヨコの作る料理は美味しいって」


 初日にオリアに言った通りヨコヅナは、オリアが経営を任されてるギャンブル店『ハイ&ロード』で料理を作る手伝いを何度かしていた。

 ギャンブル店の厨房で働く担当の人に料理を教えたりもしている。

 

「運搬の仕事も頑張ってくれてるし……だから危険な仕事は断っていいよ」


 オリアの言葉に嘘はない、それはヨコヅナにも分かる。しかし、だとしたら疑問も出てくる。


「だったらなんでここで待ってただ」


 オリアがここで待っていたのは「子供達の為に戦って欲しい」と説得する為だと思ったが、反対するのなら事務所ですれば良いことではある。


「ヨコはちょっと基準がズレてるから」

「……どういう意味だべ?」

「デルファから話を聞いてこう思わなかった、「差別が辛くて違法な事までしないといけないなら、ニーコ村で暮らせば良いだよ」とか」


 それは、「さすが姉」としか言いようがないオリアの指摘だった。

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